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僕は不死王じゃない!!  作者: ラノベゾンビ
第1章
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幕間 失意のレオフィーネ

聖都キリシスム。

人神教本部が設置される人族最大の発展都市。

都市の中心部に聳え立つ白一色に染まり見る者に潔白と精錬の印象を与える大神殿がある。

入り口には人神教で崇める神「セルシウス」の石像が設置され、大神殿へ入る者たちは拝礼をしてから入殿している。

他の建物と比べ一際大きい大神殿屋上からは聖都キリシスムを一望することができることもまたその大神殿の壮大さを示す一つだろう。

その屋上から聖都キリシスムを物憂げな顔で見つめる一人の女性がいた。


「私にはどうすることもできなかった……」


美しい茶色の髪を風になびかせながらポツリとレオフィーネは呟やく。

彼女は部下の死を部下の両親に告げに行った時のことを思い出していた。


ーー

「息子たちは死んだのですかッ!?」


優しげな顔立ちを悲壮に歪めながら金髪の中年は問いただす。

キチンとした身なりに整った髪。

部屋に置かれた調度品の高級さから彼が貴族であることがわかる。

黄金の三剣士の父親だ。

彼らは3兄弟。

一番上の兄はネリス。

二人の双子の妹はミリスとクリス。

聖都キリシスムで知らぬものがいない程の腕をもつ天才剣士達。

その男はそんな彼らが誇りであり全てだった。


田舎の地方領主の一人であるその男は息子達に満足な教育を受けさせることができなかった。

自身も幼い頃剣を学んでいたーー才能はなかったが。

 そんな非才な彼でもわかるほどの素質を息子達は持っていた。

 子供の才能を伸ばすのが親の仕事。

 そんな才能溢れる三人に満足な教育を受けさせてあげることができないことに歯噛みした。

 「大金を払ってまで講師を雇う必要はないよ。僕達は天才だからね」そう冗談交じりに自分を気遣う子供たち。


 彼らは独自で鍛錬を積み、年齢を重ね、聖都の学校へ進学すると、瞬く間に聖都に名前が轟いた。

 学校を卒業すると「人神騎士団」に入団。

 その才能を買われ神名持(レリジアスネームド)の一人であるレオフィーネの側近になった。


 息子達の躍進のおかげで人神教からの援助を受けられるようになり、領土の整備も発展した。

 自慢だった。

 いずれは息子達にこの領土を引き継ぐ。

 今まで苦労を掛けてきた分最高の状態で領土を引き継ぎ、何不自由なく領主生活を送らせてやりたい。


 二人の娘たちは「男より剣よ」と言う。

 まだ若い彼女達はそう言うがいずれ好きな男もできるだろう。

 恋人を連れてきた暁にはその男に「お前にうちの娘はやらん!」と一言いうのだ。

 その後酒でも酌み交わし「娘をよろしく頼む」と一言いう。

 

 ――そんなことを夢想する日々。

 そんな時悲報が入った。

 「クリスタルティアにて黄金の三剣士死亡」

 耳を疑った。

 そんなわけがあるはずないと。

 あれほどの若さで次期神名持(レリジアスネームド)と言われるものがどれだけいるのだろう。

 そんな強さを持つ息子達が死ぬはずがないと……。


 「……これは彼らの遺髪です」


 黒い紐で綺麗にまとめられた遺髪を3つ男は渡された。

 男の傍らにいる女性が泣き崩れる。

 男の妻なのだろう。

 男は震える手で遺髪を受け取り、レオフィーネに問いかけた。


 「仇は……仇はレオフィーネ殿がとってくださったのですよねッ!?」

 「……申し訳ありません」


 「そんな……」と一言呟き絶句する男。

 男の妻の鳴き声が響き、青白い顔で呆然と立ち尽くす男に一礼すると逃げるようにしてレオフィーネは部屋を後にした。


 ーー


 三剣士の両親とのやり取りを思い出し胸を痛めるレオフィーネ。

 呆然と景色を仰ぎ見ていると白い騎士服を着た男が一人、レオフィーネの元に駆け寄ってきた。


 「レオフィーネ様、お忙しいところ申し訳ありません。大司教様がお呼びです。至急大司教様の執務室までお越しください!」


 大司教とは人神教のナンバー2だ。

 教皇が最高責任者なのだが、高齢の為、実質大司教が実務を全て取り仕切っている。


 ――先日の事件についてだろう。

 レオフィーネは沈痛な面持ちで「わかった。すぐに向かう」と騎士に告げ、執務室へ向かった。



 ーー


 「君を『聖騎士団』から除名し、人身騎士団へと降格とする」


 白い髭を蓄え、紫色の神父服に身を包む太った男――大司教がレオフィーネに告げる。

 「なぜですかッ!?」レオフィーネは激昂する。


 『聖騎士団』から除名されれば、重要な任務への参加はほぼ絶望的と言ってもいい。

 不死王の首を取り、部下と自信の名誉を挽回すると考えていたレオフィーネにとってこの決定は到底受け入れられないものであった。

 そんなレオフィーネに大司教は口を開く。


 「君はクリスタルティアにて、『不死王』に命乞いをしたそうじゃないか? 『聖騎士団』とは人族の希望。人類の守り手。自身の命の為に悪に頭を垂れるような者に『聖騎士団』は務まらんよ。解雇されないだけありがたいと思え!!」


 「ふざけるなッ!!」――レオフィーネは怒鳴りつけたい衝動を必死に抑える。


 私は自身の命を惜しんだことはない。

 全てはこの騎士服に身を包んだ時から人族に命を捧げる覚悟をもって使命に努めてきた。

 決して自身の為に命乞いをしたのではない。

 1人でも多くの人族を救うためにあの場ではあれが最善手だったのだ。

 戦場で剣を抜いたこともないお前に何がわかるッ!

 ――と心の中で吐き捨てる。

 

 ……「拝命致しました」と大司教に告げ、レオフィーネは執務室を後にした。



 ーー


 「あらーレオフィーネちゃんじゃない? プププ」

 「バルメアはすぐに茶化す……」


 執務室のドアを閉め、廊下を歩ていると甘ったるい声がレオフィーネの耳に入った。

 薄気味悪い笑顔を浮かべる赤髪、背中の腰の部分にクロスするように小刀を2刀携える少女と小柄な体に不相応な大斧を背負う青髪ショートボブの無表情な少女が廊下に立っていた。


 「バルメアとロニーか……。何の用だ?」


 「何の用だ? だってプププ」と小馬鹿にしたように赤髪の少女――バルメアが呟く。

 「ハア」と一息ため息をつきバルメアを無表情で見つめるロニー。

 「用がないなら失礼する」とレオフィーネが告げ、立ち去ろうとするとバルメアが口を開いた。


 「待ちなって。あんた『聖騎士団』クビになったんでしょプププ。ださいよねーしかもネリス達死んじゃったらしいじゃん。部下3人も殺されちゃって土下座とか超受けるんですけどー。プププー」


 「なんだと?」と鋭い目つきでバルメアを睨むレオフィーネ。

 「あららやる気受けるー」と小刀に手をかけるバルメア。

 「バルメアやめなよ……」と無表情で諫めるロニー。

 一触即発の雰囲気のところに一人の男が声を掛けた。


 「そこまでだ!」


 決して怒鳴ってはいないが圧のある声音の一声がレオフィーネとバルメアの動きを止める。

 「やれやれ」といいつつ暗がりから栗毛色の短髪の男が姿を現した。


 「カストール団長! これはお見苦しい所をお見せいたしました」


 レオフィーネは緊張した面持ちで謝罪する。

 暗がりから出てきた男は『聖騎士団』を束ねる男カストールであった。

 「別にからかってただけだしィー」と反省した素振りをおくびも見せずにバルメアは口をとがらせている。


 「バルメア。神名持(レリジアスネームド)同士で喧嘩などしたら冗談では済まないことはわかっているだろう。今回は見逃すが次は無いぞ……お前はもう少し『聖騎士団』としての自覚をもってだな……」


 「おっさん話長いうざいキモイー」と言いながらバルメアは頭の後ろで手を組みながら去っていった。 ロニーはカストールとレオフィーネに無表情のまま一礼するとバルメアを追いかけるようにして去っていった。

 

 二人の姿が消えるとカストールは口を開いた。


 「全く……レオフィーネ、君もだぞ。話は聞いたがいくら気が立っていても喧嘩はダメだ。君らしくない……」


 「申し訳ありません」とレオフィーネはしょんぼりする。

 そんなレオフィーネをみてポリポリと頬を掻きながらカストールは告げた。


 「ネリス達のことは残念だった……優秀な人材を失ってしまい心が痛いよ。ああ……君を攻めている訳じゃない。私はね『不死王』が復活したのなら仕方のないことだと思っている。それよりもあの場で民の為に頭を下げた君の行動は最善だったと思うよ。部下を殺した相手に頭を下げるのは苦渋の決断だったろう……よく頑張ったな」


 そう言うとカストールは優しくレオフィーネの頭をポンポンと撫でる。

 思わずレオフィーネの瞳から涙がこぼれる。

 「ウウッ……」と呻きながら涙を拭うレオフィーネ。

 カストールはポケットからハンカチを取り出すとレオフィーネの目元を優しく拭った。

 拭いながらカストールは口を開く。


 「私としては今回の大司教の判断は間違ってると思う。君ほどの手練れを人神騎士団でくすぶらせておくのは実に惜しい。君だってこのままで終わるつもりはないのだろう?」


 カストールはレオフィーネに優しい声音で語りかける。

 涙を拭われながら無言で頷くレオフィーネ。

 カストールは続けて口を開く。


 「実は部外秘だが、この大神殿の地下宝物庫に『羅刹の水晶』が運び込まれたと通達があった。勿論この情報を知っているのは教会の一部だがね。それでね、もしよければ使ってみないか?」


 レオフィーネはそのアイテムについて昔文献で呼んだことがあった。

 『羅刹の水晶』――真に力を望むものが魔力を流した時、異界への門が開くという謎に満ちたアイテム。

 実際に見たことはないし、使ったものがいるという話も聞いたことが無い。

 

 しかし今まさに自分は力を求めている。

 そんな自分にピッタリのアイテムだとレオフィーネは思った。


 「私の方で宝物庫の番をする者のローテーションを組んでいる。もし君が望むのであれば、今日の配置は無しにしておこう。宝物庫で埃をかぶって埋もれているよりは君のように力を望む者が使った方がいいと思うのでね」


 レオフィーネは希望に目を輝かせた。

 『不死王』の力を目の当たりにして、自分では到底太刀打ちできない相手だと知ってしまった。

 もしどうにかできるのであれば何でもすると。

 藁にも縋る思いでレオフィーネはカストールの提案を受諾した。

 一礼して嬉しそうに走り去っていくレオフィーネ。

 レオフィーネを見送るカストールの口は三日月のように嗤っていた。


 ーー


 「これが『羅刹の水晶』か……」


 分厚い石の壁に囲まれ窓一つない広い空間で呟くレオフィーネ。

 カストールの提案を受諾し、レオフィーネは大神殿の地下宝物庫に深夜忍び込むと、話の通り番をする者はいなかった。

 何のアクシデントもなく無事地下宝物庫に辿り着くと紫色の座布団に恭しく鎮座していた赤黒い水晶があった。


 レオフィーネは昔読んだ文献に書いてあったことを思い出しつつ水晶を手に取り、魔力を流し込んだ。 バチバチバチ――室内に電気が走る。

 水晶を中心に強い風が巻き起こり、地下宝物庫内の紙の資料を宙にまき散らしていく。

 次第に風が強くなり、突風から顔を守るように水晶を持っていない方の手で風を防ぐ。

 

 フォン


 しばらくその状態が続くと、そんな音を立て先程の光景が嘘のように静けさを取り戻す。

 すると……


 「やあ。僕を起こしたのは君かい?」


 レオフィーネは背後から聞こえた声に驚き振り返る。

 そこには紫色の座布団が浮遊し、その上に座りながらゆらゆら揺れている少年がいた。

 目には赤いハチマキを巻き付け、紺色の甚兵衛を着、肩に着物よりも少し薄い紺色の羽織を掛けている。

 レオフィーネは少年に声を掛ける。


 「お前は一体……?」


 少年はふーむと考える素振りをし、しばらくすると嬉しそうに話し始めた。


 「なかなかいい言葉が思いつかなかったんだけど、そうだね君達の言葉でいうと門番だよっ!! 因みに名前は羅刹童子! よろしくねっ!」


 羅刹童子は気安い感じで自己紹介を終える。

 生真面目なレオフィーネが「私は……」と自己紹介をしようとすると、羅刹童子は手で静止した。


 「待ってね……ふむふむ……なるほどねーレオフィーネさんっていうんだ。なるほどなるほど、それは大変な目に遭ったねー、それで力が欲しいんだねー道理で僕が起こされるわけだよ」


 羅刹童子は全てを見透かしたようにレオフィーネに告げる。

 「なぜ私の名を……」とレオフィーネが呟くと疑問に答えるようにして羅刹童子は話し出した。


 「僕はね。目が見えない代わりに色々な物が見えるんだ。君の気持ち、君の過去、君の未来なんかがね……そーなんだレオフィーネさん。君に一つ言っておくとね僕は君に力を与える存在じゃない。力ってそんなに簡単に手に入る物じゃないよ」


 羅刹童子はそう告げると、手を上に掲げる。

 すると彼の後ろに門が現れた。

 お札で封がされ固く閉ざされている。

 門が目の前に現れ驚いているレオフィーネを気にも留めず羅刹童子は話し出す。


 「レオフィーネさん、力を手に入れるのは君次第さ。この門の中には君が求めている力があるよ。でもね今までこの門をくぐって生きて帰ってきたものはいない……それでもくぐってみるかい?」


 羅刹童子はレオフィーネを試すように言葉を聞かせる。

 その言葉を聞いてレオフィーネは口を開いた。


 「私は全てを失った。地位も名誉も家族同然だった部下も。私に恐れる物は何もない」


 それを聞いて羅刹童子は無邪気に笑った。

 羅刹童子が手を一薙ぎするとお札の封が外れ門が開いていく。


 「なら行くといいさ。怖れを超越せし者よ」


 「ああ」レオフィーネは一言そう呟き、門へと歩を進めていく。

 そしてレオフィーネの体が完全に門へと入ると門はゆっくりと閉まっていった。


 「全てを失いし女騎士に幸多からんことを……」


 閉まり切った門を見て羅刹童子は一言そう呟いた。


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