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【3】








 不揃いな四人がホールに戻ると、ルートヴィヒとマルガレーテの婚約者が真っ先に声をかけてきた。マルガレーテはそのまま引き取られていく。そのマルガレーテは一人の少女の顔をしていて、


「解せないわ……」


 とヒルトラウトを困惑させた。恋愛結婚だと聞いていたが、事実らしい。同時に、毒舌家マルガレーテも一人の女の子なのだな、としみじみ思うヒルトラウトである。

「いや、待て。自分を棚に上げて何言ってるんだ。俺にとってはお前の行動も解せない」

「今更でしょう」

 平然と言ってのけるヒルトラウトに、気の弱い兄は悄然とした。その肩をヒルトラウトはたたく。

「まあいいわ。ねえお兄様。もう帰ろう」

 妹っぽくごねてみるが、兄の反応は芳しくなかった。

「そうだな……」

 ルートヴィヒがちらっとギーゼラを見る。せっかく会えたのに、そりゃあ離れたくないだろう。もう少し一緒にいたいだろう。

「そりゃそうよね。大丈夫。一人で帰るわ」

「いや、待て待て待て」

「さっきの今でそれはないわ」

 兄だけでなくコルネリアにもツッコまれて、ヒルトラウトは眉をひそめる。自分もしっかり感情論で動いている。


 まあそれはともかく。常識的なことを言われてしまい、ヒルトラウトはひとまずコルネリアと一緒にいることにした。両親は知り合いとおしゃべりに興じているし、ルートヴィヒとギーゼラの間を邪魔して馬に蹴られるつもりもない。

「コルネリアも楽しそうに踊っていたけど、いいの?」

「いいのよ。だってお家のご自慢ばかりだもの」

 うんざり、とコルネリアは顔をしかめた。彼女のこういうところを、ヒルトラウトは結構好ましく思っている。まあ、貴族社会では眉を顰められるだろうが。


 二人して軽食のガトーなどをひたすら食べる。そして話す。

「なんか不思議だわ。エルシェ様の侍女にならなかったら、ヒルトと話そうなんて思わなかった」

「たぶん私もね。話してしまえば、普通に仲良く成れたけどね」

 食わず嫌いのようなものだろう。ヒルトラウトとしては貴重な友人を手に入れられて満足である。


 ひたすら食べた少女二人は、食べた後の運動とばかりに庭に降りた。二人一緒であるし、庭園なら見回りの騎士もいる。奥まった場所に行かなければ大丈夫だ。

 並んで歩くヒルトラウトを見上げて、コルネリアは何故かため息をついた。

「いいわよねぇ、ヒルトは。細くてすらっとしてて」

「もう少し背丈があれば、すらっとしてるって言えると思うけど。私はコルネリアの方がうらやましいわ」

 妹ほどではないが、小柄で出るところは出てる。すらっとして見えると言うことは、凹凸が少ないと言うことだ。言ってしまえば選帝侯クラウスヴェイク大公エルシェもヒルトラウトと同じようなタイプだが、彼女は間違いなく長身で、しかも美人だった。ヒルトラウトはどこをとっても中途半端なのである。


 しかし、コルネリアはまなじりを吊り上げて怒った。彼女はもともと吊り上り気味の目をしているけど。


「あのね! 卑屈が過ぎるともはや嫌味よ! 醜聞とかそういうのを取り除いてみれば、あんたって結構な美人なのよ? 顔が小さくて手足も長くて細い! 折れそうに細いって、あこがれよ?」


 いや、巨乳もあこがれだが、とヒルトラウトは変態くさいことを考えた。考えたが、言わなかった。それくらいの節度はある。

「まあ、これで堂々としてたらそれはそれで非難轟轟だろうけど、卑屈すぎるのもねぇ。もう少し普通にしてなさいよ」

 わかる人には、あんたは悪くないってわかってるんだからね、とコルネリアはどうやら慰めてくれようとしているらしかった。ヒルトラウトは年下の少女の優しさに微笑む。

「コルネリア、優しいわねぇ。大好きよ」

「ちょ、何言ってるのよ!」

 このちょっとツンデレなところがまたかわいらしい。ヒルトラウトにはまねできない可愛らしさだ。


 恨めし気にヒルトラウトを睨んだコルネリアだが、何かに気が付いてはっとした表情になった。

「ねえ、あそこ」

 腕をつつかれ、ヒルトラウトもコルネリアと同じ方向を見ると、ホールの喧騒から逃れるように男性がひとり歩いてきた。アイスナー辺境伯である。コルネリアはヒルトラウトを見上げるとわざとらしく笑った。

「私、のどが渇いたから先に戻ってるわね! あんたはあとでゆっくり来なさいよ」

「え、ちょっと!」

 今一人になるのは危ない、と思ったのだが、コルネリアは近くのバルコニーからホール内に戻って行った。少し高さがあったのだが、危なげなくよじ登って行った。結構彼女もじゃじゃ馬である。

「……」

 何とも言えない気持ちになった。ヒルトラウトは自分が変わっている自覚はあるが、類は友を呼ぶと言うやつなのだろうか、これは。


「こんばんは、フロイライン・ヒルトラウト」

「……こんばんは、アイスナー辺境伯」


 ここまで来て無視するのは不自然なので、お互いに声を掛け合った。何か話さなくては、と思い、ヒルトラウトは口を開く。

「どうされたんですか、こんなところで」

 いや、ヒルトラウトもだが。アイスナー辺境伯は「少し逃げてきたんだ」と苦笑する。

「中にいると、際限なくてな」

「まあ、辺境伯にはあまりお目にかかれませんし……」

 話しかけようとする者も多いだろう。なかなかつかまらないのだから、仕方がない。単純に用がある人もいるだろうし、好奇心の人もいるだろう。政略結婚を狙っている人が一番多そうだ。


 そのあたり、どうなのだろう。ヒルトラウトも兄や親にどうだ、などと冗談交じりに言われたことがある。アイスナー辺境伯は結婚歴はあるが、離婚歴はない。子供がないまま妻と死別したのだ。というわけで、どうなのだろう。一度失ったのなら、二度目は嫌だと思うのではないだろうか。

「そういう君は?」

「ちょっと食べすぎた……いえ、何でもありません」

 言いかけて、やめた。もう遅いような気もするが、さすがに食べ過ぎたので運動しています、とは言いにくい。

「動きたいのなら、先ほど、エーベルハルトと踊っていなかったか?」

「……アイスナー辺境伯、空気が読めないって言われません?」

 かなり失礼であるが、アイスナー辺境伯は怒らなかった。

「まあ、言われることもある」

 正直に言ったアイスナー辺境伯にヒルトラウトは思わず微笑んだ。


「そう言えば、選帝侯会議中にお世話になりましたのに、お礼を申し上げておりませんでした。ありがとうございました」


 いろいろと助言をもらったのに、礼を言っていなかった。ヒルトラウトが膝を折って礼を述べると、アイスナー辺境伯は少し目を細めた。

「いや、ただ口をはさんだだけで何もしていないからな。むしろ、かき回したかもしれない」

「いえ。的確な助言でした」

 話題となるのが選帝侯会議だけだと言うのはちょっと味気ないかもしれないが、この二人にとってはこんなものだろう。

 しばらく沈黙が続く。会話が途切れたところで会場に戻ればよかったのかもしれないが、機を逸してしまった。どこか気まずい空気であったが、先に沈黙を破ったのは年長者であるアイスナー辺境伯だった。

「……そろそろ、ホールに戻らないか。私で良ければ、エスコートしよう」

 一歩前に出てアイスナー辺境伯に向かって手を差し出した。ヒルトラウトは少しためらってからその手に自分の手を重ねた。

「よ、よろしくお願いします」

 重ねた手は温かかった。今更ながらそのことにどきりとした自分にビックリした。











ここまでお読みいただき、ありがとうございました。

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