第二話:異世界の案内人と、ふたつの選択
ご覧いただきありがとうございます!第2話になります。
たった5秒間の奇跡を確かめるため、再びコースターへ乗り込んだ葵と航平。
トンネルの先で待っていたのは、異世界の案内人と「戻れなくなる」という究極の選択でした。
平穏な日常を捨て、二人で未知の世界へ飛び出す決意をした二人の旅立ちを、ぜひ見届けていただけたら嬉しいです!
一回目の衝撃冷めやらぬまま、私たちは吸い込まれるように再び『星降り峠』の乗車列へ並んでいた。
夕暮れ時の遊園地。薄暗くなり始めた待ち列の中で、私たちは固く手を繋いだままだ。
「葵、次は絶対に目を閉じないで、トンネルの奥を見よう」
「うん。夢なんかじゃないって、確かめなきゃ」
待ち時間はわずか十分ほどだったが、永遠のように感じられた。
再び巡ってきた順番。木製の車両に乗り込み、安全バーがカチリと固定される。
ガタガタガタ……と無骨な音を立てて列車が坂を登り始める。
頂上に達し、一気に重力が消える感覚。
急降下の果てに、黒い口を開けたあのトンネルが目前に迫る。
(来る……!)
車両がトンネルへと飛び込んだ。
その瞬間、再び世界からすべての音が消え去った。
風の音も、木組みの軋みも、激しい震動も。
目の前に広がったのは、先ほどと同じ——いや、それ以上に圧倒的な星空だった。青白い光を放ちながら流れる大河と、鼻腔をくすぐる濃密な花の香り。
今度は目を逸らさず、繋いだ手へ力を込めながら前方を凝視する。
(……あそこに、誰かいる)
光る川のほとり、美しい星空の下に「それ」は立っていた。
古い羽織のようなものを纏った、顔のない影のような人影。
「人」と呼んでいいのかすらわからない存在。
案内人はゆっくりとこちらへ振り返ると、顔のないはずの輪郭に穏やかな微笑みを浮かべた。
直後、私たちの頭の中に直接、澄んだ声が響き渡る。
『もう一度だけ、来ますか? 次は五秒では帰れませんよ』
頭の中に残響する声、たった五秒の猶予。
心臓が破裂しそうなほど速く鼓動する。
このまま何事もなく日常へ戻るのか。
それとも、二度と帰れないかもしれない未知の場所へ踏み出すのか。
大学の講義、バイト帰りのファミレス、二人で過ごした他愛のない一年間。
その平穏な日々の愛おしさと、目の前に提示された圧倒的な非日常。
迷う時間はなかった。
私は隣の航平を見つめた。
航平もまた、私を見つめていた。その瞳に怯えはない。
ただ純粋な決意と、私と一緒にいたいという強い想いだけが宿っていた。
「……行こう、葵。二人でなら、どこだって」
「うん。戻れなくても、航平とならいいよ」
私たちは繋いだ手を握り返し、案内人に向かってはっきりと頷いた。
次の瞬間、世界が眩い光に包まれた。
カタカタと響いていたレール音が、完全に途絶える。
二度と、夕暮れの現実世界へ戻ってくることはなかった。
柔らかな星明かりと、見たこともない花の香りを纏った風が、私たちの頬を優しく撫でていた。
第2話までお読みいただき、本当にありがとうございました!
ついに日常を抜け出し、帰れない異世界へと飛び込んだ葵と航平。
次回からはいよいよ、この美しい星空が広がる異世界での本格的な物語(冒険と生活)が始まります!




