第一話:5秒間の星空と、きみの手
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付き合って一周年を迎えた、ごく普通の大学生・葵と航平。
ふとしたきっかけで訪れた寂れた遊園地で、二人は「コースターのトンネル内だけ異世界に繋がる」という都市伝説を体験することになります。
たった5秒間の美しい異世界。
二度目に訪れた時、ふたりの前にあらわれた「案内人」から突きつけられた選択とは——?
どこにでもいるカップルの選択と、そこから始まる少し不思議でロマンチックな物語です。
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「葵、頼むから最後にこれだけ! 一周年記念の締めくくり!」
日曜日の夕暮れ前。郊外にある少し寂れた遊園地の片隅で、航平は子どものような目で木製コースターを見上げていた。
『星降り峠』——それが、巨大な木組みのコースターの名前だった。築何十年にもなる古びた建造物は、列車が駆け抜けるたびに「ギー、ギー」と不穏な悲鳴を上げている。
そしてここには、地元の高校生や大学生の間で密かに語り継がれている都市伝説があった。
『コース途中にある一番長いトンネルをくぐる瞬間、ほんの数秒だけ異世界に繋がる』
「はいはい、わかったから。その代わり、これで最後だからね?」
あきれ顔で頷いて見せると、航平は「やった!」と無邪気に顔をほころばせた。付き合ってちょうど一年。
大学の講義、バイト帰りのファミレス、休日の公園。
どこをとっても平凡で、だからこそ居心地のいい日常を重ねてきた私たち。
都市伝説なんて信じるタチではないけれど、少年のように目を輝かせる彼の横顔を見るのは嫌いじゃなかった。
二人で乗り込んだ木製の車両は、ゆっくりと上昇を始める。
カタカタカタ……と無骨な金属音が響き、頂上に達した瞬間、一気に急降下した。
「うわあああっ!」
「キャーッ!」
猛烈な重力と耳を裂くような風切り音。
ガタガタと全身を揺さぶる震動に耐えながら、目の前に迫る真っ暗なトンネルの洞口を見つめる。航平が言っていた都市伝説の場所だ。
疾走する車両が暗闇へと飛び込んだ——その瞬間だった。
(……え?)
激しい揺れが、嘘のように消えた。
耳元で吹き荒れていた風の音も、木組みが軋む音も、何もかもが一瞬で途絶えたのだ。
それだけではない。
真っ暗なはずのトンネルの中に、あり得ない景色が広がっていた。
見上げれば、吸い込まれそうなほど濃密で眩い星空。
眼下には、青白く脈打ちながら流れる未知の川。
そしてどこからともなく漂ってくる、甘く濃厚な花の香り。
呼吸すら忘れるほどの美しさだった。
隣を見ると、航平も目を見開いたまま固まっている。
繋いだ手から伝わる体温だけが、ここが夢ではないことを主張していた。
ほんの、体感五秒ほどのこと。
視界がふっと歪んだかと思うと、唐突にガタガタという激しい震動と風の音が戻ってきた。
トンネルを抜け、夕暮れの現実世界へと引き戻される。
降車口に到着しても、私たちは立ち上がることができなかった。
言葉を失い、呆然とお互いの顔を見合わせる。
あの五秒間は、一体何だったのか。
見間違いでも、幻覚でもない。確かに私たちは、あの場所で同じものを見ていた。
「……葵」
「うん……見た、よね……?」
喉の乾きを覚えながら声を絞り出すと、航平は繋いだままの手をギュッと握り返してきた。
彼の瞳に宿っていたのは、恐怖ではなく、言い知れぬ興奮と好奇心だった。
「もう一回、乗ろう」
二人は吸い寄せられるように、再び『星降り峠』の列へと歩き出した。あの奇跡のような5秒間の答えを、確かめるために。
最後までお読みいただき、ありがとうございました!
『星降り峠』の都市伝説から始まる、葵と航平の物語はいかがでしたでしょうか?
5秒間の奇跡の先に待ち受けるふたりの運命を、これから描いていきたいと思います。
次回更新も楽しみにお待ちいただけますと幸いです。




