表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
9/13

9.

鉱山に近づいてきたので速度を落とし、馬を歩かせて森の中の道を進む。


「お嬢様は、魔石の扱いにも造詣が深そうだ。自分用にも買っているんだろう?」


マクスが話しかけてきた。お父様に聞いたのかしら。


「ええ、魔力を高めて安定させるための使用が多いです」


「魔力を魔石で高められるのは、一時的だろう」


「普通の使い方なら、そうだと思います。……師匠に剣へ魔力を流し込む方法を聞いたあと、試してみたんです。逆の方法で、魔力を解放できないかって」


「逆、というと?」


「誰でも、自分の魔力をすべて解放することはできません。使いこなせるのは、体に眠る魔力のほんの一部。それなら、剣に魔力を流し込む逆の方法で――魔石の魔力を自分の中に取り込んで、使用する魔力の安定強化ができるのではないかと考えたんです。

試行錯誤するうちに、ある程度できるようになりました。……今ではおそらく、自分の魔力の九割ほどは使えるようになったと思います」


マクスはかなり驚いたよう。


「ちょっと待ってくれないか。魔術師が長年研究してきて果たせなかったことを、お嬢様がやってのけたことになるんだが」


そうなるのよね。


この世界ではどんなに弱くても、人間は必ず魔力をある程度持っている。魔道具を使うトリガーには、無意識でも自分の魔力が働く。

ただし、魔力を生まれもった器以上に上げることはできないし、本来の魔力すべてを解放することは人間には不可能。使っているのは、せいぜい持っている魔力の半分から六割。その魔力解放の助けになる方法はないかと思って、魔石で実験を重ねた。


小説では、シグルドが母の形見のペンダントをセシリアに渡していて、魔物に襲われた時にペンダントの魔石が光り、魔物をひるませて撃退するシーンがあった。この時点でのシグルドは剣聖になる前だから、青いオーラは出せずに苦戦する。

でも、魔石の力を借りて、シグルド自体の戦闘力が上がったような描写があったわ。しかもその後、彼は一段と強くなっていた。マクスが言った「一時的な」能力向上でなく、魔力を解放したことで剣聖に覚醒する前の準備段階に入ったのかと思えて。

……亡き母の息子への愛か、シグルドのセシリアへの想いを表現したものかもしれないけど。


今でも、魔石は魔道具に使用されている。だけど小説の描写を思い出して、魔石が持つ魔力の増幅効果は想像以上に強力ではないかと考えた。どうしたらいいのか悩んだけど、剣に魔力を込めるのと反対の方法でできないかと思いついて、何度も試していたらとうとう成功した。


「魔術師は、魔石に頼ることを『未熟者のすること』と忌避するでしょう。だから気づかないのだと思います」


この世界では魔術師は少ないし、使える魔術も大した威力はない。剣に魔力を合わせた剣士や騎士のほうが、格上の世界観になっている。

主人公のシグルドを最強にするべく、魔術師は弱めに設定されたと私は解釈してるわ。ここは、「剣聖シグルド」のための世界なのだから。


「すごい発見だが、お嬢様は公表するつもりはないんだな。まあ、魔術師の反発も考えられるし魔石の価格も高騰するだろうし、影響範囲は広範囲になる話だ。

伏せておいたほうがよさそうだね。もちろん、私も黙っておこう」


「……ありがとうございます」


言われてみれば、安易に話すことではなかったわね。

私、自分で思っている以上にマクスを信用しているみたい。


「そろそろ、鉱山が近い。この辺りからは歩いていこうか」


マクスは自分の馬を降りると、私の馬の手綱も持った。私が馬を降りたら、マクスが二頭の馬を用意してきたロープで近くの木につないでいる。


「馬が大人しくしていてくれればいいが――と。お嬢様のことだ、準備してあるかな」


「はい、この魔道具を着けておきます」


ロープに、消音効果のある魔道具をくくりつけた。こうしておけば馬が鳴いたり暴れたりしても、物音は聞こえない。


「なんというか、お嬢様の抜かりのなさは素晴らしいな。十六歳の令嬢にそこまでされると、私は不要な気がしてくるよ」


「そんなことはありません。師匠がいてくださるので、心強いです」


「嬉しい言葉だね。不肖マクス・グリム、お役に立てるように努力しますよ」


実際、マクスのこの明るさに救われていることは多いんじゃないかしら。先月のパーティーでも、マクスが来てくれて惨めな想いをせずに済んだ。

前世を思い出したばかりの頃は、たった一人で異世界に放り出されて心細くなかったと言えば噓になる。

早々にマクスと出会えたのは、間違いなく幸運ね。


歩き出そうとすると、マクスが手を差しのべてきた。


「一人で歩けますが」


「足元が暗いから、念のためにね。大丈夫、お嬢様を巻き込んで転んだりはしない」


「万一転んでも、下敷きにはしないでくださいね」


「そのときには、私が下敷きになってお嬢様を守るさ。狙いすまして私の上に落ちてくれ」


私は思わずふっと笑って、マクスに手を預けた。……ああ、まただわ。

マクスといると、笑顔になれる。今はそんな場合じゃないのに。


「では、ゆっくり進もう。気をつけて」


マクスが言葉通り、緩やかな足取りで私を先導する。鉱山までの道は月明かりしかないけれどまっすぐだし、マントに着けた魔石はぼんやりと光って、マクスと私の周囲は見やすい。


魔石の原石が岩肌を光らせるから、行き先の鉱山付近はさらに明るい。

あんなに光っていて、採掘量が減るなんてありえないわ。


「止まって、お嬢様」


マクスが小声で言った。

鉱山付近の光が瞬いている? 違うわ、人がうごめいていて光を遮っている。無論、こんな時間にまともな鉱夫が働くわけがない。


「いますね」


「ああ。気づかれないよう、もう少し近づこう」


道の脇にある木々の合間を通って、鉱山へ歩み寄る。掘削機は動いていないけど、魔石をまとめて運んでいる人影は……三人。


「さてと、全員動けなくして捕らえる。それでいいかな?」


「お願いします。わたくしは右の者から」


「なら、私は左から行こう。三つ数えたら行くよ。号令をどうぞ、お嬢様」


「……一、二、――三!」


マクスと私は同時に走り出し、うごめく人影にまっすぐ突っ込んだ。魔力を込めた手刀で首を背後から叩き、倒れたら踏みつけて次へ……

と、私が動く前に、マクスの足元には二人の男が倒れていた。


「さすがですね、師匠」


ベルトに下げていたロープを外して、手早く倒れた男の手首を後ろ手に縛る。


「こちらに固まっていたからね」


マクスも二人を縛り上げた――その時。

カッと光が広がり、辺り一面が真っ白になる。


「お嬢様!」


腕を引っ張られ、かばうように抱きすくめられた。眩しさでとっさに目を閉じたけど、マクスにかばわれているのだとわかった。

真昼どころか、四方からライトを向けられたような光を感じる。目が開けられない。


「大丈夫か?」


「はい……眩しいだけで」


「だんだん、光は薄らいできているが……やられたな」


眩しくなくなってきたので、目を開ける。

辺りはまだ明るく周囲はよく見えたが、縛り上げたはずの男たちは全員消えていた。


「閃光を発して、その隙に逃げたんでしょうか」


「いや、違うな。ほら」


マクスが指差した先に、魔法陣が見えた。それも、ゆるゆると消えていく。


「転移で逃げたようだ。――おっと、失礼」


私を抱きしめていた両手を離して、マクスが魔法陣のあった辺りの土に触れた。


「駄目だな、何も感じ取れない。行き先不明だ」


「転移魔術なんて、人間にできることではないですよね」


上級の魔物でなければ、使えない魔術だわ。


「普通はね。高級な魔石を使った魔道具なら、不可能ではない。もっとも、王国内では強力な魔術は規制があるし魔道具は高額だ。

転移可能な魔道具を持っているのは、公爵家か王族ぐらいだと思うんだが」


王族……となると、ますます王家が関与している可能性が高い。

リュシブール家の商会では、魔石は王家には優先的に、市場よりも安価で販売しているのに。それでも足らないほど、魔石を集めているだなんて。


「王家に対する疑惑は深まりましたが、証拠も証人も得られず、ですか」


私はため息をついた。悔しいけれど、ここでできることはもうない。


「そうなるね。仕方ない、城に戻ろう」


私はマクスにうなずき、二人で馬をつないだところへ戻った。


……それにしても、転移と目くらましでよかったものの、攻撃魔術が発動していたらどうするつもりだったのかしら。かばわれても、マクスに何かあったら私も困る。――困る?

おかしくはないわよね、師匠なんだから。


とにかく、マクスは私に甘すぎるわ。



翌日、行方不明になった鉱夫を雇い人のリストから確認して自宅へ騎士団を送ったが、いずれももぬけの殻だった。

それ以上追うすべはなく、私は鉱夫を雇い入れる際の身元確認と鉱山の警備を厳重にするよう指示をして、王都へ帰るしかなかった。

お読みくださり、ありがとうございます。

続きが気になったら、評価やブクマをしていただけると嬉しいです。

※明日から毎日18:50頃更新予定です。

次回一行予告:思いがけないプレゼント。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ