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10.

王都の家に帰宅後、お父様には鉱山に魔石横流しの形跡があり、怪しい者を見つけたが逃したこと、今後の対策を管理人に指示してきたことを報告した。

証拠もなしに、王家が疑わしいなどとは言えない。マクスからの情報だなんて余計に言えないし。


お父様は難しい顔で、私の話を聞いていた。


「不正を行っていた者がいなくなり、身元確認と警備強化の指示をしてきたのなら、十分だ。引き続き、私も市場の様子を調べてみよう。……あまり、無茶はせぬようにな」


やっぱり、心配をかけてしまったのね。お父様は私がどれほど強くなっているかよくわかってないでしょうから、仕方ないけど。


でも、いずれは知ってもらう。

私は剣聖に負けない「勇者」となって、生き延びるのだから。



 * * *



しばらくして、シグルドとお茶会の予定があった。パーティーで堂々と不仲ぶりを見せつけてしまったので、お父様に苦言を言われて、仕方なくシグルドに招待状を送っておいたのだ。

気が重かったけれど、彼のほうから「北部へ魔物退治に行かねばならない」とキャンセルの手紙が来た。


魔物退治、ね……


軍の仕事ではあるけれど、最近頻度が高い気がするわ。

北部の魔物が、増えているの?

それとも、シグルドがセシリアに会いたくて魔物を口実にしている?



私の疑念は、意外と早く裏付けが取れた。

ほかの貴族令嬢のお茶会に招待されていたので、そこで地方に魔物が増えているらしいと噂を聞いたのだ。


「特に、北部に多いそうですわ。あちらはもともと、魔物が多いですし」


「東部にも、例年より魔物の被害があるとか。嫌ですわ、早く王立軍の騎士に鎮めてもらいたいものです」


シグルドが嘘をついているわけではない、ということだとしたら。

魔物が、増えている……小説よりも早く。

小説では、エレオノーレが十八歳になる前辺りから増え始めていた。


私はもうすぐ十七歳になる。

あと一年と思っていたのに、もしかしたらもう時間がないの?


剣聖を超える勇者に、ならなければならないのに。



 * * *



私の誕生日には、昼間にガーデンパーティーが開かれた。

あまり親しい友人がいないので、有力貴族やお父様と懇意にされている貴族の令嬢方が招待されてきた。


公爵令嬢の誕生日ということで、王からも祝いの言葉とプレゼントがあったけれど、魔石鉱山のことを思うと素直に受け取れないわ。怪しい物が紛れていないかのチェックに、遠慮なく王からの品も入れておいた。

……何もなかった。当然といえば当然ね。そんな、露骨に私を狙うような真似をしないだろうし。そもそも、王家が疑われているとは思っていないでしょう。


私個人では、王家の様子を探ることはできない。王に謁見を願い出たところで、王宮内を歩き回れるわけでもない。

魔物は増えるし、王家はおかしいし。頭が痛いわ。正直、誕生日どころじゃないのよ。


シグルドからは、花束が贈られてきた。毎年そんなものなのだけど、今年は祝いの手紙やカードすら付いてない。


魔物退治で多忙なのでしょうけど、先日のパーティーのことといい、表面を取り繕う気もなくなったの?

本来なら、一年後には私たちは結婚する予定なのに。

そして小説の通りなら、結婚前にエレオノーレは魔物に吞まれてしまう。


今の私がそうそう魔物にやられるとは思わないけれど……「小説の強制力」のようなものは、この世界にあるのかしら。

ここまで自由に鍛えてこられたので、そういうことは考えたくなかった。でも万一そうなら――鍛えても、無駄なのか。

けれども、魔物の増加は小説の時期とズレている。

ああもう、何をどうしたらいいのやら。考えなければならないことが多すぎる。


パーティーの間は顔に出さずにお祝いにお礼を言って、しとやかに喜んでいるよう装ってみせたけど、社交界は面倒くさい。シグルドのことを仄めかしてくるゴシップ好きの人もいるし、自分の誕生日になんでこんなに気を遣わないといけないの。

それとも、祝ってくれるだけマシと思うべき?


前世では、誕生日も勉強漬けで家族には祝ってもらったことがない。大学時代のルームメイトの先輩には、一応祝われた。いい人ではあったけど、恋人とのデートがあるとそちらが優先されたしね。干渉されなくて楽とも言えたわ。

社会人になって一人暮らしをして、誕生日にだけケーキを食べるようになった。

……やっぱり、祝ってくれるお父様やお兄様がいるだけ、今は恵まれているわね。


ガーデンパーティーが終わって客を見送ったあと、部屋で休んでいたら、メイドがやってきた。


「お嬢様、グリム卿がおいでになりました」


マクスが?

今日は訓練日ではないし、パーティーにも招待していなかった。


応接室に行くと、正装したマクスがいた。モンフォール侯爵家のパーティーの時ほど豪華な衣装ではないけれど、水色の礼服を着ている。

まったく、何を着ても様になる人ね。私を見て立ち上がった。


「今日の主役はもう疲れておいでかな、お嬢様」


「……ご招待もせずに失礼しました、師匠」


「構わないよ。婚約者がいるのに私が招待されたら、あることないこと、噂になって広められるだろうしね」


呼べなかった理由を、わかってくれている。

なんだか、マクスの顔を見たら気持ちが軽くなった。この人はいつも私が一人で悩んでいる時に現れて、心を和ませてくれる。


「お誕生日おめでとうございます、エレオノーレ様。ささやかな祝いです。お納めください」


金色のリボンが結ばれた青い小箱を渡された。


「開けてもよろしいですか?」


「ぜひ」


マクスからのプレゼントを、不審物扱いでチェックする必要はない。私はリボンをほどいて、小箱の中にあった物を取り出す。濃紺のジュエリーボックス。

入っていたのは、小さな石の付いたペンダントだった。……微かに魔力を感じる。魔石ね?

チェーンやペンダントトップは上品なデザインで、主張がないけれどセンスがあるわ。


「着けて差し上げても?」


「あ……ええ、お願いします」


今日は髪をアップにしているから、着けやすいわね。マクスにペンダントを渡して、後ろを向く。

胸元に光る魔石は、角度によって乳白色の中にさまざまな色が見える。小さいものの、グレードは相当上位の物に思える。

ひょっとしたら、お守りのようなものかも。チェーンが長めだから、服の中にも着けておけそう。


「どうですか?」


振り向いてみると、マクスが目を細めた。


「よくお似合いだ。できれば、普段から着けていてほしいな」


「ありがとうございます。そういたしますわ」


なんだか、胸元が暖かい。……嬉しいわ。

形式上のお祝いでもなく、家族でもない人にこんな風に祝われるのは悪くない。去年までの誕生日には、マクスは来なかった。きっとそれも、シグルドを気にしてのことだったんでしょう。

今年来たのは……シグルドと結婚するつもりはないと告げたせい?


「そういえば、師匠のお誕生日はいつですの?」


もらいっぱなしではいられない。


「今日だよ」


「今日……えっ?」


「お嬢様と同じ日なんだ。私は毎年、家族だけで祝っているんだけれどね」


だからって、黙っていなくてもいいじゃない!?


「教えてくださっていれば、わたくしもプレゼントを用意しましたのに」


「お嬢様からは、祝いの言葉だけで十分だよ」


「――お誕生日、おめでとうございます。少々、お待ちください」


私は一礼して、自分の部屋へ急いだ。ラッピングする暇はないけれど、プレゼントなしはあんまりだわ。

応接室に引き返し、持ってきた魔石を差し出す。


「簡素な箱しかございませんが、こちらを。お好きにご利用ください」


「いや……これは、プレゼントには高価すぎるよ。大粒だし、一級品の魔石だろう」


マスカット一粒より大きいぐらいのサイズだから、確かに安くはない。

ただ手持ちのものでマクスに渡せるような品物となると、これぐらいしかないの。


「いろいろとお世話になっていますから、お礼も兼ねて。受け取っていただけると嬉しいです」


「私の好きにしているだけなんだが。それでは、いただいておくよ。ありがとう」


マクスの笑顔につられて、私も笑顔になった。

もしかしたら前世も含めて今までで一番、幸せを感じた誕生日かもしれない。


夕食にも誘ってみたけれど、家族が祝ってくれると待っているのでと断られた。

それならしょうがない。

でもいいわ。明日はまた、訓練で会えるのだから。

お読みくださり、ありがとうございます。

続きが気になったら、評価やブクマをしていただけると嬉しいです。

※毎日18:50頃更新予定です。

次回一行予告:婚約者と幼馴染と。

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