4話 時間、瞬間、変換
俺は咄嗟に眼鏡を外し、椅子のクッションの中へねじ込んだ。
代わりに自分の上着を被せ、そのまま投げ捨てる。
次の瞬間、放り投げたクッションに銃弾が叩き込まれた。
その隙に、俺はキッチンの裏へ滑り込む。
気づいた男が発砲した。
背中に衝撃。
同時に、真っ赤な液体が噴き出した。
俺はそのまま裏口へ駆け込み、路地へ転がり出る。
男たちも追ってきた。
路地には、赤い跡がはっきりと続いている。
――食いついたな。
男たちは迷いなくその跡を追った。
だが、背後のゴミ箱には目を向けなかった。
俺は中から這い出る。
上着は失い、外気の冷たさがじかに肌を刺した。
俺は身体についた赤い液体を舐めた。
ケチャップの味がした。
どれくらい走ったのか、分からない。
息が喉を焼き、足が言うことをきかなくなった頃、ようやく立ち止まった。
耳を澄ませたが、追ってくる気配はなかった。
この星では夜が来ない。
太陽は沈むギリギリで横にそれ、地面をなぞる。
フライパンのうえを滑る目玉焼きのように。
それならば、暖かいかといえばそうはいかない。
太陽がいちばん低くなる時間帯、
体感温度はむしろ一気に落ちる。
冷たい風が吹き荒れ、肌を削っていく。
逃げのびた後、俺は街の根をくりぬいた隙間の中にいた。
根のうねりの陰に、黒い穴が口を開けていた。
俺は木の中で体を丸めた。
この街にはアスモデウスから伸びた根をくりぬいた小さな部屋がいろんなところにある。
ラバーズが住んでいる場合もあるが、誰もいないままのところがある。
円形にくりぬかれた丸い部屋。オカクズの上に布が敷かれ暖かい。
この中にいるとまるでリスにでもなった気分だ。
目を閉じると、風の音がテレビの砂嵐のように聞こえる。
想像以上に落ち着ける空間だった。
服に木くずがつくことさえ気にしなければ、かなり快適な環境だ。
静かすぎて、自分の心臓の音が響いた。その音が、この星を支配する速すぎる秒針を思い出した。
この星で生まれたラバーズがあんな速い時計を作るだろうか。
鼓動の音は違うものだ。たとえば、ネズミの心音は人間よりも速い。
つまり、上書きだ。この星は本来の環境では生まれづらい時間に支配されている。
それがこの星のルールを作った。そして、今、俺の命を狙うしくみも、その延長線上にある。
で、あるならば。俺は―――
そう考えているうちに、ぷつりと、緊張の糸が切れ、俺は眠りに落ちてしまった。




