3話 これからの生活
歩いても歩いても、根。
変わらぬ景色のなかでも歩き続けられるのは進んでいるという確信が持てるからだ。
メガネのつるのボタンを押すと、目的地の方向に旗が立てられ残り150タットンと表示された。
カバンからスプレー缶を取り出し、口に当てる中からクリームが出た。ピーナッツバターに洗剤を混ぜたような味がする。
150タットンってどれくらいだよ、と思ったが。だいたい、10分で1タットン進んでるな。つまり150×10で1500分か。÷60で25時間だから、毎日10時間歩くとして、着くのは2日後か。
出発する前に同じ地球人を襲っておいてよかった。携帯食料に地図、翻訳機が揃った。
俺は太陽が地面の際をなぞるまで歩き、また太陽が昇るまで休み、歩いた。そうしていると街についた。
木の根をくり抜いてそこに窓や扉をつけている。この星は木材に恵まれているわけだ。
「家を作るのには困らなそうだ」
これで瀕死状態だった惑星を他の外星人がみつけたとたんに性産業惑星として異常な速度で街を急速に発展できるのもわかった。
建材だけはたくさんあったのか。
納得と同時に、アスモデウスに対する恐ろしさを感じる。惑星全体を覆いつくし、惑星とともに心中しかねないほど成長した植物。誰も止める者はいなかったのか。
このまま進めば、人類が集まる街に着くだろう。
当然、ラバーズも地球人に近い姿のものが多いはずだ。
問題は、そこからだ。――俺は、この星でどう生きていく?
俺を殺そうとしたやつらがいる。
ジュペット星では都合の悪いことを知っている人間をここで殺すスキームができているようだ。あの2人だけではあるまい。組織的な犯行だろう。
食糧と水分も確保しないといけない。奴らから隠れながら仕事を見つけなくては。
そう考えていたら、お腹がなった。
そのタイミングを見計らったかのように目の前には店があった。淡く紫色に発光する看板。なんて書いてあるかはわからないが文字の隣にはハンバーガーの絵が描かれていた。
中に入ると、人間の女性の姿をしたラバースが接客している。
身体の線をなぞるようなレオタードの上に、ピンク色のジャケットを羽織っている。
ディーラーを兼用したバニーのような格好だ。
メニューを開く。まだ地球人の集まる街まで離れているのか外星語で書かれている。
ただ、絵だけでなんとなくわかるぞ。これがハンバーガーで、こっちがビールだ。
俺は店員にハンバーガーとビールを頼んだ。
さてと、この前の奴らから奪ったお金、これでもうなくなっちゃったな……
これから生活基盤を整えなきゃいけなかったのに。すぐなくなっちまったな。
どうやら、死体を捨てるのは組織中でもそうとう下っ端らしいな。
まもなく、ハンバーガーとビールが来た。
ハンバーガーにかぶりつく。肉汁があふれ、とてもジューシーだ。
つなぎがないようだな。だが、それがより肉らしさを感じさせる。
パンズが木の実っぽい香りがしているな。ドングリの匂いに近いな。
これはこのハンバーガーが美味いのか?
スゴい肉が肉って感じがしてジューシーだ。
肉汁が砂漠を歩き回った末に見つけたオアシスのように身体に染み渡る。
半分くらいまで食べたところでビールをグイと飲む。
う~ん、こっちはイマイチだな。なんだあ、キリっとしていていいんだが。アルコールがないのか?
一気に飲んだ時の鼓動が高鳴る感じがしない。でも、パンのように発酵している香りがするし、甘みが抜けた果実のようなフレッシュな酸味と苦みはちゃんとしたビールなんだよな。パンズとにおいは同じだから、発酵素の材料は同じようだが。
ノンアルコールを飲んでいる気分だ。
もう一度、ハンバーガーを口にして食べ終えると、ヒルの鼓動が首元で跳ねた。あの時外した首輪の爆弾の音を思い出させた。
俺は壁に目をやった。二つの時計が掛かっている。
一つは地球の時刻。もう一つは、この星の時刻。
地球の針がのろく見えるのに、ジュペットの針はせわしなく進んでいた。
鼓動が速い星だ。……だったら、時間もこうなるのか?
そんなことを考えていると、扉が大きく開いた。
二人の男だ。店員がすぐに頭を下げに来たところを見て、彼らがただの客ではないことがすぐに分かった。
俺はメニュー表を開いて、顔を隠して様子をうかがう。
片方の男が辺りを見回し、もう片方の男はモニター式のデバイスを見ている。
モニターから顔を上げる。俺がいる方向だった
そこに銃を向けたので、慌てて俺は机の下に潜り込んだ。
いったい、どうやって自分の居場所が?
自分がかけている眼鏡の存在に気づいた。
バカか俺は。組織の末端に配られている眼鏡なんて発信機がついているに決まっているじゃないか。




