↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALIVE!42歳のおっさんが、国民的アイドルになった件。  作者: 舞見ぽこ
Chapter 3:Step Up Stage

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

70/73

Track.69

「最後に、サブロー役です」


 その言葉で、喉の奥がひゅっと狭くなった。


 隣で、北川くんが腕を組み直す。


 俺も、知らないうちに息を止めていた。



「十二番」


 スタッフの声が、やけに遠く聞こえた。


 俺の番号は、二十六番。

 隣にいる北川くんは、二十四番。


 まだ、どちらも呼ばれていない。


「十九番」


 まだだ。


 手のひらに汗がにじむ。


「二十五番」


 杉田さんだ。


 やっぱり。

 そりゃそうだ。


 後方の椅子に座っていた杉田さんが、静かに顔を上げる。


 サブロー役にも、通っている。


 分かっていた。

 分かっていたけど、改めて胸の奥が重くなった。


 二十四番は、呼ばれなかった。


 隣で、北川くんが小さく息を吐いた。


 何か言わなきゃと思った。


 でも、その前に。


「二十六番」


 自分の番号が、耳に飛び込んできた。


 ……二十六番。


 俺の番号だ。


 受かった――!?


 顔を上げる。


 ホワイトボードは、人の頭越しにまだよく見えない。

 けれど、スタッフの声は確かに俺の番号を呼んだ。


 頭が追いつかない。


 落ちたと思っていた。

 最後まで歌わせてもらえなかった。

 杉田さんのあとで、俺の審査なんて見る価値もなかったんだと思っていた。


 なのに。


 俺は、通った。


 呆然としたまま立ち尽くしていると、ぽん、と肩に手が置かれた。


「おめでとう」


 北川くんだった。


「あ……」


 声がうまく出ない。


 北川くんは、少しだけ苦笑して肩をすくめた。


「はあ。三人の中で、俺だけ落ちたかあ……」


「……北川くん」


「いや、いいって。俺、セリフひどかったし」


 そう言って、北川くんは笑った。


 無理に笑っている感じではなかった。

 少し悔しそうで、でも、それ以上にどこかさっぱりしている。


「歌、すごく良かったと思います」


「ありがと。そう言ってもらえると救われるわ」


 北川くんはポケットから携帯を取り出した。


「よかったら、また今日の結果聞かせてくれよ」


「え?」


「応援してる。あの杉田さん相手にどこまで行けるのか、気になるし」


「……それ、めちゃくちゃハードル高くないですか」


「高いな」


 北川くんは、あっけらかんと笑った。


 その軽さに、胸の奥の詰まりが少しだけほどける。


「じゃあ、メアド交換します?」


「お、いいね。赤外線いける?」


「たぶん、いけます」


 懐かしい単語が出た。


 赤外線通信。


 そうだ。

 この時代、連絡先交換といえばこれだった。


 北川くんとメアドを交換し終える頃には、ホワイトボードの前に集まっていた人だかりも、少しずつ薄くなっていた。


「じゃ、頑張れよ」


「……ありがとうございます」


「結果、聞かせてくれよ」


「はい」


 北川くんは軽く手を上げると、受付の方へ向かっていった。


 その背中を見送りながら、胸の奥が少しだけ苦しくなる。


 落ちた人がいる。

 受かった人がいる。


 当たり前のことなのに、今さらみたいにその重さがのしかかってきた。


 俺は番号札を握りしめたまま、後方の椅子へ向かった。


 その途中で、杉田さんと目が合った。


 後方の椅子に座っていた杉田さんは、こちらに気づくと、にこりと微笑む。


 爽やか。


 余裕。


 そして、圧倒的に絵になる。


 くそ。

 世界の洋平、座っているだけで世界の洋平だ。


 俺も慌てて会釈を返し、少し離れた椅子に腰を下ろした。


 

 やがて、スタッフの一人がホワイトボードの前からこちらへ歩いてきた。


 立ったまま残っていた候補者の姿は、もうほとんどない。


 後方の椅子に座っているのは、三十人ほど。


 これが、二次審査を通過した合格者たち。


 その中に、俺もいる。


 ……いるんだよな?


 何度も自分の番号札を確認してしまう。


 

 スタッフは後方の椅子に座る俺たちの前で立ち止まり、手元の紙に視線を落とす。


「二次審査通過、おめでとうございます」


 静かになったスタジオに、その声が響いた。「これより、今後の審査の流れをご説明いたします」


 スタッフは手元の紙を一枚めくった。


「このあと十五時三十分より、第3次審査を行います。場所は、同じフロアの第二スタジオです」


 十五時三十分。


 あと、そんなに時間がない。


「第3次審査では、通過された皆さん全員に、ダンス審査を受けていただきます」


 ――は?


 ダンス審査?


 今、ダンス審査って言ったか?


 確かに、ミュージカルといえば歌って踊る。

 舞台に立つ以上、ダンスが必要になるのは分かる。


 分かるけど。


 ダンスも審査に含まれていたなんて聞いてない。


 いや、聞いていたのかもしれない。

 書類のどこかに小さく書いてあった可能性はある。


 ただ、その可能性を、俺は無意識にシャットアウトしていた。


 少なくとも俺の脳は、今この瞬間までその情報を一切受け取っていなかった。


「なお、第3次審査の結果は十七時頃に発表予定です。通過された方は、その後、最終審査として面談を行います」


 スタッフがまだ何か説明している。


 たぶん、大事なことだ。


 絶対に聞かなければいけないことだ。


 でも、俺の耳にはもう入ってこなかった。


 ダンス。


 ダンス審査。


 歌と芝居だけで、いっぱいいっぱいだったのに。


 ここからさらに、ダンス。


 俺は膝の上で、番号札を握りしめた。


 ……いやいやいや。


 聞いてない。

 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。