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ALIVE!42歳のおっさんが、国民的アイドルになった件。  作者: 舞見ぽこ
Chapter 3:Step Up Stage

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Track.57

「お疲れ様です」


 レオくんも五十嵐君も、そのまま慣れた様子で通り過ぎようとする。

 けれど、俺の足はDUELのテーブルの前で止まってしまった。


「あれ、一ノ瀬君?」


 レオくんが振り返る。


「ちょっと顔見知りだから……挨拶してくる。先、座ってて」


「えっ、マジで?」


 五十嵐君が目を丸くする。

 レオくんは一瞬きょとんとしたあと、すぐにおもしろがるように笑った。


「へえ。ほな先行っとくわ」


「す、すぐ行くから!」


 俺はそう言って、DUELのテーブルへ向き直った。

 心臓がうるさい。そりゃそうだ。あの夜、居酒屋勝太郎で人生変わるレベルの衝撃を食らった二人が、今こうして目の前にいる。


「し、失礼します!」


 ピンと背筋が伸びる。


「八月から入所した、一ノ瀬 奏(いちのせ かなで)です」


 一瞬、しんとした。


 (みなと)くん真宙(まひろ)くんが、揃ってこっちを見る。

 ぽかん、という表現が一番近かった。


「あの……お二人には、以前会ったことがあって……」


「ああ、そっか。よろしくね」


 真宙くんが、とりあえずという感じで軽く笑う。

 たぶん、思い出していない。


 ……だよな。

 二人は超売れっ子アイドルだし、俺はただのバイト店員だったんだから。


 そう思った、その時だった。


「あ!! そうだ!!」


 湊くんがぱっと顔を上げる。


「勝太郎の……奏君!」


「勝太郎?」


 真宙くんが一瞬だけ首をかしげる。


「あーーっ!! 湯葉天君じゃん!」


 びしっと指をさされる。


 湯葉天君?

 ……俺、二人の中でそういう名前だったのか。

 いやまあ、間違ってはいない。間違ってはいないが。

 

 反射で背筋が伸び、そのまま九十度に頭を下げる。

 

「はい! その節は大変お騒がせしました……!」


「ははっ、やっぱそうだ。雰囲気変わったけど、顔見たらわかった」


 湊くんが嬉しそうに笑う。

 その笑顔だけで、ちょっと泣きそうになるからやめてほしい。


「ていうか、あの時さ。湯葉天かぶってたけど大丈夫だった?」


「はい。無事にピンピンされておりますっ!」

 反射でそう返してしまってから、しまったと思う。

 完全に接客……しかも空回りモードの返答だった。


 案の定、真宙くんが吹き出す。


「おお、あの時もそんなノリだったなあ。ウケる」


「ほんとだ。全然変わってないね」


 湊くんまでくすくす笑っている。

 でも、その笑い方がやさしくて、こっちの緊張まで少しほどけた。


「そっかあ。君、ルクスに入ったんだあ」


「はい」


「頑張れよ。湯葉天少年」


 真宙くんが、にっと笑いながら言う。


 その一言に、胸の奥で何かがきゅっとした。


 今しかない、と思った。


「あの……俺、お二人に会って、入所を決めたんです」


 二人が、少しだけ目を見開く。


「あの夜、勝太郎で、お二人を見て……」

「俺も、誰かの心を照らせるような存在になりたいって、初めて本気で思って」


 言いながら、ちょっと声が震えそうになる。

 でも、ここは誤魔化したくなかった。


「だから、こうして同じ事務所に入れて……今日、ちゃんとご挨拶できて、すごく嬉しいです」


 一瞬の間。


 それから、湊くんがふわっと笑った。


「……そっか」


 その声は、あの夜と同じでやさしかった。


「じゃあ、入ってよかったって思えるように、ここからもっと頑張らないとね」


 真宙くんも、少し照れくさそうに鼻をこすってから言った。


「そういうの、ちゃんと本人に言うの偉いじゃん」


 ひらひらと手を振りながら、いつもの軽い調子で笑う。


「応援してるからな~? 湯葉天少年」


「っ……はい!」


 気づけば、返事にやたら力が入っていた。


 テーブルを離れようとして振り返ると、少し離れた席で待っていたレオくんが、めちゃくちゃ面白そうな顔でこっちを見ていた。


「……何その顔」


「いや、何その顔はこっちやわ」


 レオくんが肩を揺らしながら笑う。


「マジで知り合いやん!」


「いや、まあ……うん」


 そこへ、五十嵐君も少し目を見開いたまま口を開いた。


「……びっくりした。DUELの二人と、あんな感じなんだ」


「あんな感じっていうか……」


 俺は頭をかきながら、小さく息を吐いた。


「前に、居酒屋でバイトしてた時に会ったんだよ。勝太郎って店で」


「へえ」


「普通に接客して、普通にやらかして、普通に覚えられた」


「普通に、の中身が全然普通ちゃうやん」


 レオくんが即座に突っ込む。


「しかも“湯葉天少年”て何やねん。濃すぎるやろ」


「俺もそう思う」


 湯葉天少年。

 字面だけ見たらだいぶひどい。

 でも、レオくんがあっけらかんと笑ってくれるせいか、不思議と嫌な気はしなかった。


 レオくんは明るくて、人との距離が近いのに押しつけがましくない。

 五十嵐君は静かだけど、一緒にいて変に疲れない。

 その二人に挟まれてラウンジで喋っていると、不思議と肩の力が抜けていく。


 未来ではトップアイドルになっているメンバーたちと、こうして普通に喋っている。

 しかも中身は四十二歳の俺だ。


 冷静に考えると、状況がだいぶおかしい。


 でも——おかしいのに、心地よかった。


 気を遣いすぎず、かといって雑でもなく、ちゃんと同じ目線で会話ができる。

 そんな空気がありがたかった。


 この日をきっかけに、俺は五十嵐君だけじゃなく、レオくんともつるむことが多くなった。


 そして——


 ここから、俺のアイドルとしての一歩が、大きく前進することになる。




 * * * * * *


 一週間後。

 レッスン終わりに美央さんに呼び出された俺は、素っ頓狂な声をあげた。

 

「え? 俺がミュージカルに出演ですか!?」


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