Track.56
立花レオ。
未来のALIVEで、場を回して、空気を明るくして、ツッコミまでこなすムードメーカー。
その男が、目の前で楽しそうに笑っていた。
「……なるほど」
「ん? どした?」
「いや……なんか、レオくんって名前ぴったりだなって」
なんとか取り繕う。
未来のことを知っているのは俺だけだ。ここで「あの立花レオくん!」みたいな顔をするわけにはいかない。
「まあ、覚えやすいやろ。ええ名前やし」
自分で言うんだ、それ。
でも、妙に納得してしまう。
たしかに覚えやすいし、未来で見知った名前ってのもあるだろうが、本人にもやけにしっくりくる名前だった。
レオくんはそんな俺の反応をおもしろがるみたいに見たあと、ふっと思い出したように言った。
「一ノ瀬君、このあとヒマ?」
「あー。まあ。特に用事はないけど」
「ほな決まりな。このあと一緒に茶ぁ行こ?」
「え、茶?」
聞き返す間もなかった。
レオくんはにっと笑うと、そのままガシッと俺の肩を組んできた。
「ちょ、近い近い」
「ええやん別に。減るもんちゃうし」
いや、距離の詰め方よ。
そう思いながらも、妙に納得してしまう部分もあった。
明るくて、人懐っこくて、ぐいぐい来るのに嫌味がない。
レオくんは、なんというか——テレビで見たイメージそのままの人物だった。
そのまま半ば強引に連行される形で、俺はエレベーター前まで連れていかれた。
すると、ちょうどそこに五十嵐君がいた。壁際で携帯を見ながら、こっちに気づいて目を丸くする。
「あれ。一ノ瀬君。立花くんも」
「お。君、五十嵐君と仲ええんか」
レオくんが俺の肩に腕を回したまま、楽しそうに言う。
「ああ。昼、いつも一緒に食べてるし。よく一緒に帰ったりもしてる」
そう答えると、五十嵐君は小さくうなずいて、それから少し笑った。
「立花くん、久しぶり」
「おー、ほんま久しぶりやな」
自然なやりとりだった。
俺は二人を見比べる。
「二人、知り合い?」
「おう。俺ら同い年やしな。俺がダンスレッスンの中級の時に、少し一緒やったな」
「立花くんはすぐに上級にいったから、ほんと少しの間だったけどね」
なるほど。
レンくんと同じく、立花くんもダンスレッスンはすぐに上級までいったのか。
さすがだ。
未来のライブ映像で見た、あの軽やかで派手なのに崩れないダンスを思い出す。
納得しかない。
「ほな、二人とも行こか」
「どこに?」
「ラウンジ」
レオくんが当然みたいに言う。
俺と五十嵐君は、ほぼ同時に「え」と声を漏らした。
* * * * * *
エレベーターで八階へ向かいながら、俺はレオくんを見た。
「ラウンジって……あのタレントラウンジ?」
「せやで」
「緊張するなあ……」
思わず本音が漏れる。
「ね」
五十嵐君も、ちょっとだけ苦笑しながら頷いた。
するとレオくんが、心底不思議そうな顔をした。
「へ? お二人さん、ラウンジ行ったことないん?」
レオくんが心底不思議そうに言う。
俺と五十嵐君は、何とも言えない顔で目を合わせた。
「入社説明以来、行ってないな。あそこ大人な空気が流れてて行きにくくて」
そう言うと、五十嵐君もすぐ頷いた。
「俺も。テレビとか出まくってる有名な先輩たちが普通にくつろいでてさ。なんか落ち着かないんだよね」
「まあ、わからんでもないなあ」
レオくんはくすっと笑った。
「確かに価格設定も大人やしなあ。小中学生の姿はあんま見いひんし」
「だよなあ……」
庶民派の俺には、あそこはまだ早い気がするのだ。
いや、研究生なのに何を言ってるんだって話なんだけど、なんかこう、空気に負ける。
チン、と音がして、エレベーターが八階に着いた。
扉が開く。
その瞬間、やっぱり空気が違った。
(うわ、そうだった……)
木目の壁に、落ち着いた間接照明。
静かなソファ席。
どこを見ても洒落ていて、コーヒーカップひとつ置かれているだけで絵になる空間だ。
しかもそこにいるのが、普通の社員じゃない。
売れっ子の先輩たちである。
(やっぱテレビの中じゃん、ここ……)
場違い感に一瞬足が止まりかけるが、レオくんはまるで自分の部屋みたいな顔で歩いていく。
五十嵐君も、ちょっとだけ背筋を伸ばしながらついていく。
俺も慌ててそのあとを追った。
途中、先輩たちのテーブルの横を通るたび、レオくんが自然に会釈する。
「お疲れさまです」
その流れに慌てて乗っかる。
「お、お疲れさまです!」
五十嵐君も、少し遅れて頭を下げた。
奥の席には、A・L・Bの羽田くんがいた。
その少し先には、LINK5の天堂くんと御影くんまでいる。
(うわああああ……!)
なんだこの空間。
顔面偏差値の暴力がひどい。
先輩たちが、普通にコーヒー飲んだり雑誌読んだりしてるだけなのに、いちいち画になる。
レオくんはそんな俺の内心なんかお構いなしに、さらに奥のほうへ進んでいく。
そして、次のテーブルの横を通りかかった時だった。
(……あ!!)
思わず足が止まりそうになる。
そこにいたのは、DUELの湊くんと真宙くんだった。
柔らかな雰囲気をまとった湊くんと、鋭い目元が印象的な真宙くん。
二人並んで座っているだけで、空気がまるごとDUELになる。
もう三か月以上も前のことになるのか。
俺が居酒屋・勝太郎でバイトしていた頃、湊くんと真宙くんが湯葉天を食べに来てくれたことがあった。
あの夜、勝太郎でまともに食らったDUELの破壊力は、今でも忘れられない。
そして、あの夜、俺は決めたのだ。
――俺も、誰かの心を照らせるようになりたい。
あの人たちみたいに、人を笑顔にできる存在になりたいって。
その二人が、今こうして目の前にいる。
しかも今の俺は、ただの居酒屋バイトじゃない。
同じルクスの研究生として、このラウンジに立っている。
胸の奥で、何かが静かに灯った。




