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ALIVE!42歳のおっさんが、国民的アイドルになった件。  作者: 舞見ぽこ
Chapter 3:Step Up Stage

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Track.56

 立花レオ。


 未来のALIVEで、場を回して、空気を明るくして、ツッコミまでこなすムードメーカー。

 その男が、目の前で楽しそうに笑っていた。


「……なるほど」


「ん? どした?」


「いや……なんか、レオくんって名前ぴったりだなって」


 なんとか取り繕う。

 未来のことを知っているのは俺だけだ。ここで「あの立花レオくん!」みたいな顔をするわけにはいかない。


「まあ、覚えやすいやろ。ええ名前やし」


 自分で言うんだ、それ。


 でも、妙に納得してしまう。

 たしかに覚えやすいし、未来で見知った名前ってのもあるだろうが、本人にもやけにしっくりくる名前だった。


 レオくんはそんな俺の反応をおもしろがるみたいに見たあと、ふっと思い出したように言った。


「一ノ瀬君、このあとヒマ?」


「あー。まあ。特に用事はないけど」


「ほな決まりな。このあと一緒に茶ぁ行こ?」


「え、茶?」


 聞き返す間もなかった。

 レオくんはにっと笑うと、そのままガシッと俺の肩を組んできた。


「ちょ、近い近い」


「ええやん別に。減るもんちゃうし」


 いや、距離の詰め方よ。


 そう思いながらも、妙に納得してしまう部分もあった。

 明るくて、人懐っこくて、ぐいぐい来るのに嫌味がない。

 レオくんは、なんというか——テレビで見たイメージそのままの人物だった。


 そのまま半ば強引に連行される形で、俺はエレベーター前まで連れていかれた。

 すると、ちょうどそこに五十嵐君がいた。壁際で携帯を見ながら、こっちに気づいて目を丸くする。


「あれ。一ノ瀬君。立花くんも」


「お。君、五十嵐君と仲ええんか」

 レオくんが俺の肩に腕を回したまま、楽しそうに言う。


「ああ。昼、いつも一緒に食べてるし。よく一緒に帰ったりもしてる」

 そう答えると、五十嵐君は小さくうなずいて、それから少し笑った。


「立花くん、久しぶり」

「おー、ほんま久しぶりやな」


 自然なやりとりだった。

 俺は二人を見比べる。

「二人、知り合い?」


「おう。俺ら同い年やしな。俺がダンスレッスンの中級の時に、少し一緒やったな」

「立花くんはすぐに上級にいったから、ほんと少しの間だったけどね」


 なるほど。

 レンくんと同じく、立花くんもダンスレッスンはすぐに上級までいったのか。


 さすがだ。


 未来のライブ映像で見た、あの軽やかで派手なのに崩れないダンスを思い出す。

 納得しかない。


「ほな、二人とも行こか」


「どこに?」


「ラウンジ」


 レオくんが当然みたいに言う。


 俺と五十嵐君は、ほぼ同時に「え」と声を漏らした。


 * * * * * *


 エレベーターで八階へ向かいながら、俺はレオくんを見た。


「ラウンジって……あのタレントラウンジ?」


「せやで」


「緊張するなあ……」


 思わず本音が漏れる。


「ね」


 五十嵐君も、ちょっとだけ苦笑しながら頷いた。


 するとレオくんが、心底不思議そうな顔をした。


「へ? お二人さん、ラウンジ行ったことないん?」


 レオくんが心底不思議そうに言う。

 俺と五十嵐君は、何とも言えない顔で目を合わせた。


「入社説明以来、行ってないな。あそこ大人な空気が流れてて行きにくくて」


 そう言うと、五十嵐君もすぐ頷いた。


「俺も。テレビとか出まくってる有名な先輩たちが普通にくつろいでてさ。なんか落ち着かないんだよね」


「まあ、わからんでもないなあ」


 レオくんはくすっと笑った。


「確かに価格設定も大人やしなあ。小中学生の姿はあんま見いひんし」


「だよなあ……」


 庶民派の俺には、あそこはまだ早い気がするのだ。

 いや、研究生なのに何を言ってるんだって話なんだけど、なんかこう、空気に負ける。


 チン、と音がして、エレベーターが八階に着いた。


 扉が開く。


 その瞬間、やっぱり空気が違った。


(うわ、そうだった……)


 木目の壁に、落ち着いた間接照明。

 静かなソファ席。

 どこを見ても洒落ていて、コーヒーカップひとつ置かれているだけで絵になる空間だ。


 しかもそこにいるのが、普通の社員じゃない。

 売れっ子の先輩たちである。


(やっぱテレビの中じゃん、ここ……)


 場違い感に一瞬足が止まりかけるが、レオくんはまるで自分の部屋みたいな顔で歩いていく。

 五十嵐君も、ちょっとだけ背筋を伸ばしながらついていく。


 俺も慌ててそのあとを追った。


 途中、先輩たちのテーブルの横を通るたび、レオくんが自然に会釈する。


「お疲れさまです」


 その流れに慌てて乗っかる。


「お、お疲れさまです!」


 五十嵐君も、少し遅れて頭を下げた。


 奥の席には、A・L・Bの羽田くんがいた。

 その少し先には、LINK5の天堂くんと御影くんまでいる。


(うわああああ……!)


 なんだこの空間。

 顔面偏差値の暴力がひどい。

 先輩たちが、普通にコーヒー飲んだり雑誌読んだりしてるだけなのに、いちいち画になる。


 レオくんはそんな俺の内心なんかお構いなしに、さらに奥のほうへ進んでいく。


 そして、次のテーブルの横を通りかかった時だった。


(……あ!!)


 思わず足が止まりそうになる。


 そこにいたのは、DUEL(デュエル)(みなと)くんと真宙(まひろ)くんだった。


 柔らかな雰囲気をまとった湊くんと、鋭い目元が印象的な真宙くん。

 二人並んで座っているだけで、空気がまるごとDUELになる。


 もう三か月以上も前のことになるのか。


 俺が居酒屋・勝太郎でバイトしていた頃、(みなと)くんと真宙(まひろ)くんが湯葉天を食べに来てくれたことがあった。

 あの夜、勝太郎でまともに食らったDUELの破壊力は、今でも忘れられない。


 そして、あの夜、俺は決めたのだ。


 ――俺も、誰かの心を照らせるようになりたい。


 あの人たちみたいに、人を笑顔にできる存在になりたいって。


 その二人が、今こうして目の前にいる。


 しかも今の俺は、ただの居酒屋バイトじゃない。

 同じルクスの研究生として、このラウンジに立っている。


 胸の奥で、何かが静かに灯った。

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