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ALIVE!42歳のおっさんが、国民的アイドルになった件。  作者: 舞見ぽこ
Chapter 3:Step Up Stage

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49/50

Track.48

「じゃ、三人ともそのまま噴水の縁に座ってみて〜〜!

 並びは……そうね、真ん中、奏きゅん! 右にソラくん、左にコーマくん!」


「え、俺、端じゃないの?」

「端じゃないのよぉ〜〜〜。奏きゅんは巻き込まれセンターなの♡」


 なんだその不名誉すぎるポジション。


 だが、キャシーさんはもう聞いていない。

 ぐいぐいと俺たちの立ち位置を決めていく。


「ほらほら、もっと近く!

 同期なんだから肩一個分くらい詰めてぇ〜〜!」


「えー」

「狭い」

「小学生ふたりに挟まれる十九歳、わりと絵面が事故では?」


「うるさい奏きゅん、今すごくいい! その顔!」


 カシャカシャカシャッ!!


(だから心の準備をさせろって!!)


 シャッター音が容赦なく飛ぶ。


 噴水の縁に座ると、まだレッスン後の熱が身体に残っていて、じわりと汗がにじんだ。

 コーマは足をぶらぶらさせながら、いかにも落ち着きがない。

 ソラは座った瞬間から姿勢が妙にきれいだ。


「ソラ、なんでお前そんなに堂々としてんの」

「別に」

「いや、今の“別に”いいわぁ〜〜〜!!」

 キャシーさんが食いつく。


「じゃあ次! 三人で話して!

 ほんとに雑談でいいから! 最近のことでも、レッスンのことでも!」


「雑談って言われてもな……」

 俺が困っていると、コーマがにやっと笑った。


「じゃあさー、ブー太郎、今日もダンスやばかったよな」

「お前、その話を今する!?」

「だって、めっちゃロボットだったじゃん」

「後半ちょっと持ち直してたよ」

 ソラがぽつりと補足する。


「おっ、ソラ優しい〜〜〜」

「いやほんと、AYA先生いなかったら俺、床にめり込んでたわ……」


 言った瞬間、コーマがケラケラ笑いだした。


「床にめり込むって何だよ!」

「そういう感じってことだよ!」

「ブー太郎、いちいち大げさなんだよな〜」

「誰がブー太郎だブー」

 

「はいそこ!! 最高ぉぉぉ!!」


 キャシーさんの声と同時に、またシャッターが切られる。


 カシャッ、カシャカシャッ。


 気づけば、さっきまでの緊張が少しずつほどけていた。


 公園には、土曜の午後らしいのんびりした空気が流れている。

 小さな子どもが走り回り、ベンチではおじいさんが新聞を広げ、噴水のしぶきがきらきらと光る。


 その中で、俺たちはただ喋って、笑って、つっこんでいるだけだ。


 なのに——

 キャシーさんは、それを見逃さない。


「いいわぁ〜〜〜……!

 やっぱり三人、ちゃんと空気があるのよねぇ。

 コーマくんが動かして、ソラくんが整えて、奏きゅんが全部に巻き込まれてる感じ。

 バランス、めっちゃいいじゃなぁい♡」


「不本意なんだけど……」

「でも、たしかにそうかも」

 ソラが真顔で言う。


「おい」

「事実じゃん」

「ソラ、しれっと刺してくるのやめろ」


 コーマがまた笑い転げる。

 つられて、俺も吹き出した。


 その瞬間。


「はい、そこぉぉぉぉ!!」


 キャシーさんの声が弾ける。

 シャッターが、一際激しく鳴った。


 カシャカシャカシャカシャッ!!


「いい! 今の笑い、めっちゃいい!!

 作ってない顔! それそれ、それよぉ〜〜〜!!」


 俺たちは反射的に顔を上げた。

 キャシーさんはカメラ越しに、まるで宝物でも見つけたみたいな顔をしていた。


 その表情を見た瞬間、胸の奥で何かがすとんと落ちた。


(……ああ)


 この人、本気なんだ。


 ただ騒がしいだけじゃない。

 一瞬一瞬を、ちゃんと見てる。


 俺たちがまだ“何者でもない”今の顔を、あとになったら絶対に戻れないこの時間を、ちゃんと残そうとしてくれてるんだ。

 そう思ったら、なんだか急にくすぐったくなった。


「……キャシーさん」

「なぁに、奏きゅん♡」


「今日のこれ、雑誌に載るんですよね」

「もちろんよぉ〜〜♡ バッチリ可愛く載せるわぁ〜〜〜」


「……じゃあ俺、せめて鼻毛だけは出てないことを祈ります」


 一瞬、間が空いた。


 次の瞬間。


 コーマが噴き出し、ソラが肩を震わせ、スタッフさんたちまで一斉に笑った。

 キャシーさんはカメラを抱えたまま、文字通り腹を抱えていた。


「やっ……やだぁぁぁぁ!!

 奏きゅん、最後の最後でそれ持ってくるの反則ぅぅぅ!!」


「いや、切実なんですよ」

「大丈夫よぉ〜〜〜!!

 もし出てても、そこは愛嬌で押し切るから!!」

「いやいや、そこはお直ししてくださいよっ!?」


 また笑いが起きる。


 秋の入口みたいな、少しだけ乾いた風が吹いて、噴水のしぶきがふわりと揺れた。

 キャシーさんが、うっとりした顔でカメラを構え直す。

「……いいわぁ。

 やっぱりこの三人、来るわね」


 その言葉の意味を、この時の俺はまだちゃんと分かっていなかった。


 でも——


 噴水の前で、何も知らずに集められて。

 わけもわからないまま笑って、つっこんで、並んで。


 そんな今だけの一枚が、

 のちに俺たちの最初の同期ショットとして、何度も語られることになるなんて。


 このときの俺は、まだ知らなかった。

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