Track.48
「じゃ、三人ともそのまま噴水の縁に座ってみて〜〜!
並びは……そうね、真ん中、奏きゅん! 右にソラくん、左にコーマくん!」
「え、俺、端じゃないの?」
「端じゃないのよぉ〜〜〜。奏きゅんは巻き込まれセンターなの♡」
なんだその不名誉すぎるポジション。
だが、キャシーさんはもう聞いていない。
ぐいぐいと俺たちの立ち位置を決めていく。
「ほらほら、もっと近く!
同期なんだから肩一個分くらい詰めてぇ〜〜!」
「えー」
「狭い」
「小学生ふたりに挟まれる十九歳、わりと絵面が事故では?」
「うるさい奏きゅん、今すごくいい! その顔!」
カシャカシャカシャッ!!
(だから心の準備をさせろって!!)
シャッター音が容赦なく飛ぶ。
噴水の縁に座ると、まだレッスン後の熱が身体に残っていて、じわりと汗がにじんだ。
コーマは足をぶらぶらさせながら、いかにも落ち着きがない。
ソラは座った瞬間から姿勢が妙にきれいだ。
「ソラ、なんでお前そんなに堂々としてんの」
「別に」
「いや、今の“別に”いいわぁ〜〜〜!!」
キャシーさんが食いつく。
「じゃあ次! 三人で話して!
ほんとに雑談でいいから! 最近のことでも、レッスンのことでも!」
「雑談って言われてもな……」
俺が困っていると、コーマがにやっと笑った。
「じゃあさー、ブー太郎、今日もダンスやばかったよな」
「お前、その話を今する!?」
「だって、めっちゃロボットだったじゃん」
「後半ちょっと持ち直してたよ」
ソラがぽつりと補足する。
「おっ、ソラ優しい〜〜〜」
「いやほんと、AYA先生いなかったら俺、床にめり込んでたわ……」
言った瞬間、コーマがケラケラ笑いだした。
「床にめり込むって何だよ!」
「そういう感じってことだよ!」
「ブー太郎、いちいち大げさなんだよな〜」
「誰がブー太郎だブー」
「はいそこ!! 最高ぉぉぉ!!」
キャシーさんの声と同時に、またシャッターが切られる。
カシャッ、カシャカシャッ。
気づけば、さっきまでの緊張が少しずつほどけていた。
公園には、土曜の午後らしいのんびりした空気が流れている。
小さな子どもが走り回り、ベンチではおじいさんが新聞を広げ、噴水のしぶきがきらきらと光る。
その中で、俺たちはただ喋って、笑って、つっこんでいるだけだ。
なのに——
キャシーさんは、それを見逃さない。
「いいわぁ〜〜〜……!
やっぱり三人、ちゃんと空気があるのよねぇ。
コーマくんが動かして、ソラくんが整えて、奏きゅんが全部に巻き込まれてる感じ。
バランス、めっちゃいいじゃなぁい♡」
「不本意なんだけど……」
「でも、たしかにそうかも」
ソラが真顔で言う。
「おい」
「事実じゃん」
「ソラ、しれっと刺してくるのやめろ」
コーマがまた笑い転げる。
つられて、俺も吹き出した。
その瞬間。
「はい、そこぉぉぉぉ!!」
キャシーさんの声が弾ける。
シャッターが、一際激しく鳴った。
カシャカシャカシャカシャッ!!
「いい! 今の笑い、めっちゃいい!!
作ってない顔! それそれ、それよぉ〜〜〜!!」
俺たちは反射的に顔を上げた。
キャシーさんはカメラ越しに、まるで宝物でも見つけたみたいな顔をしていた。
その表情を見た瞬間、胸の奥で何かがすとんと落ちた。
(……ああ)
この人、本気なんだ。
ただ騒がしいだけじゃない。
一瞬一瞬を、ちゃんと見てる。
俺たちがまだ“何者でもない”今の顔を、あとになったら絶対に戻れないこの時間を、ちゃんと残そうとしてくれてるんだ。
そう思ったら、なんだか急にくすぐったくなった。
「……キャシーさん」
「なぁに、奏きゅん♡」
「今日のこれ、雑誌に載るんですよね」
「もちろんよぉ〜〜♡ バッチリ可愛く載せるわぁ〜〜〜」
「……じゃあ俺、せめて鼻毛だけは出てないことを祈ります」
一瞬、間が空いた。
次の瞬間。
コーマが噴き出し、ソラが肩を震わせ、スタッフさんたちまで一斉に笑った。
キャシーさんはカメラを抱えたまま、文字通り腹を抱えていた。
「やっ……やだぁぁぁぁ!!
奏きゅん、最後の最後でそれ持ってくるの反則ぅぅぅ!!」
「いや、切実なんですよ」
「大丈夫よぉ〜〜〜!!
もし出てても、そこは愛嬌で押し切るから!!」
「いやいや、そこはお直ししてくださいよっ!?」
また笑いが起きる。
秋の入口みたいな、少しだけ乾いた風が吹いて、噴水のしぶきがふわりと揺れた。
キャシーさんが、うっとりした顔でカメラを構え直す。
「……いいわぁ。
やっぱりこの三人、来るわね」
その言葉の意味を、この時の俺はまだちゃんと分かっていなかった。
でも——
噴水の前で、何も知らずに集められて。
わけもわからないまま笑って、つっこんで、並んで。
そんな今だけの一枚が、
のちに俺たちの最初の同期ショットとして、何度も語られることになるなんて。
このときの俺は、まだ知らなかった。




