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ALIVE!42歳のおっさんが、国民的アイドルになった件。  作者: 舞見ぽこ
Chapter 3:Step Up Stage

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48/50

Track.47

 九月二十八日、土曜日。


 公園の噴水前で、俺たちは三人、揃って立ち尽くしていた。


「え? お前らも撮影……だよな?」


「そーだよ。ブー太郎も?」


 コーマが首を傾げる。ソラも小さくうなずいた。


 時計を見る。

 十五時を、少し回っている。


 なのに、周囲を見回しても撮影隊らしき人たちの姿はない。カメラも、照明も、スタッフらしい大人も見当たらない。ただ、土曜の午後らしく、子ども連れや散歩中の人がのんびり行き交っているだけだ。


(……え?)


 噴水の水音がやけにのどかだ。

「集合時間と集合場所、合ってるよな……?」


 急に不安になって、仕事用の携帯を開く。

 確認する。

 もう一度確認する。


 十五時。

 ルクスプロ本社ビルから徒歩五分ほどの公園、噴水前。


 ——間違っていない。


 隣で、ソラも自分の携帯を見ていた。

「……合ってる」


「ん〜、わかんねーけど……

 撮影の人がお腹ピーピーになってるとか……」

 コーマがケラケラ笑う。


 隣で、ソラもくすくすと肩を揺らした。


 流石小学生。

 下ネタは自給自足でも大ウケらしい。

 

「おい」

 思わず即座に突っ込む。

「いや、全員腹壊すことってある?」


「前の撮影が押してるとか……?」

 ソラが静かに言う。


 さすがだ。

 小学生なのに、俺よりよほど冷静かもしれない。


 そのときだった。


 少し離れた木陰のあたりで、何かがきらりと光った気がした。

 続いて、カシャカシャ、と乾いた音。


(……なんだ?)


 目を凝らした、その瞬間。


「いいわいいわいいわぁぁぁ〜〜〜〜♡」

 さっき光った木陰のあたりから、甲高いハイトーンボイスが響いた。


「その自然体! その“え、どういうこと?”って顔! 最高よぉぉ〜〜〜!!」


 俺たち三人が一斉に声のした方を振り向く。


 そこには——


 金髪の毛先を真っ赤に染めたウェーブヘアを高い位置でまとめ、派手な柄シャツを風になびかせた、やたら存在感のある人物が、ゴツいカメラを構えたままこっちへずんずん歩いてきていた。


 しかも、数歩ずん、と進んではぴたりと止まり、カシャッ。

 また位置を変えて、ぴたり。カシャッ。

 さらに横へ回り込んで、ぴたり。カシャッ。


 無駄のない動きだった。

 いや、無駄しかない見た目なのに、撮るときだけ異様にキレがある。何なんだこの人。


 

「見せて見せて見せて〜〜〜!! 同期組の距離感、めっちゃ可愛いじゃないのぉ〜〜〜♡」


 このテンション。この声。

 間違いない。テンション高い系カメラマンのキャシーさんだ。


 しかも——


「もう撮ってたのかよ!?」

 思わず、声が漏れた。

 

 キャシーさんは、俺たち三人の前まで来ると、カメラを構えたまま満面の笑みを浮かべる。

「そうよぉ〜〜〜♡ もう撮ってたの! だって最高だったんだものぉ〜〜!!」


「いや、先に言ってくださいよ!」

 すかさずツッコむと、キャシーさんは「やだ可愛い〜〜」と手を叩く。


「その反応! そういうのが欲しかったのよぉ〜〜♡

 何も知らずに呼ばれてきた同期組って、いちばん美味しいんだから!」


 「えっ、俺ら同期組なんですか?」

 意外な言葉に聞き返してしまう。


 コーマとソラが約二か月前に同日入所した、という話は聞いていた。

 でも、俺が入所したのはその一か月後だ。さすがに同期という感覚はあまりなかった。


「そうよぉ〜〜♡ 正確には“ほぼ”同期組だけどね!

 普段はオーディションで五人くらいは選ばれるんだけど、コーマくんとソラくんの時は、この二人が抜きん出すぎてて、三次選考なしで二次選考の時点で合格だったのよぉ〜〜♡

 だから同期がいつもより少なくて、奏きゅんとは一か月差はあるけど、ほぼ同期組でまとめたってワケ♡」


 へへっとコーマが笑う。

 隣でソラも、少し照れたように目を伏せた。


 ——そうだったのか。


 同じ日に入所して、同じレッスンを受けて、切磋琢磨して。

 そして、同じグループに入って。

 二十年後もなお、並んで輝き続けている二人だ。


 この二人が、最初から抜きん出ていたという話も、容易に納得できる。

 ああ、やっぱりこの二人は最初から特別だったんだな、と妙に腑に落ちた。


 ——そんなふうに一人で勝手にしみじみしていたら、

 ソラは少しだけ首を傾げた。

「……じゃあ、今日の撮影って、最初からこういう感じだったの?」


「そうッ!!」

 キャシーさんがビシッと指を立てる。


「今日のテーマは——

 研究生・同期組のリアルな距離感!!」

 噴水の水音が、しゃばしゃばと間抜けに響く。


 俺たちは三人そろって、ぽかんとした。


「リアルな……距離感?」

 俺が聞き返すと、キャシーさんはうんうんと大きく頷いた。


「そう! まだデビュー前の、今だけの空気!

 作った笑顔じゃなくて、自然に並んだときの目線とか、立ち位置とか、つっこみとか!

 それを撮りたいのよぉ〜〜〜!!」


「え、でも俺、髪とかセットしてないぞ……」

 俺がそう言うと、

「俺も、帽子被ったままだけど……」

 コーマもキャップのつばをいじりながら眉をひそめた。

 

「それがいいのぉ〜〜〜!! 小細工なし! 素材勝負!

 コーマくんのやんちゃ感も、ソラくんのしれっと冷静な感じも、奏きゅんの“なんかちょっと残念なのに目が離せない感”も、ぜ〜〜〜んぶ今しか撮れないんだから♡」


「最後の言い方、褒めてます?」

「褒めてるわよぉ〜〜〜!!」


 即答だった。

 しかも、やたら力強い。


 そのとき、木陰の奥から、ようやくスタッフらしき人たちが姿を見せた。


 キャシーさんの荷物を抱えた若いアシスタントと、手帳を片手にこちらを見ている女性。

 さっきまでまったく気配を消していたのに、どこにいたんだというレベルで自然に紛れていた。


(いたのかよ!!)


 思わず目を剥く俺の横で、コーマが吹き出した。


「うわ、マジで隠れてたんだ」

「だから言ったでしょぉ〜〜♡ 自然体が欲しいって!」


「いや、俺ら普通に騙されてたんだけど……」

「最高じゃない。ごちそうさま♡」


 キャシーさんはさらっと言ってのけると、すぐに仕事モードに切り替わった。


 こうして俺たちの、記念すべき初めての撮影の仕事は、キャシーさんのハイテンションとともに、半ば強引に幕を開けたのだった。

 

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