表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ALIVE!42歳のおっさんが、国民的アイドルになった件。  作者: 舞見ぽこ
Chapter 3:Step Up Stage

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

47/51

Track.46

「ざ、雑誌……!?」


 空気が、変わる。


 メガネの奥の目が据わり、さっきまでの軽いノリが一瞬で消えた。

 今にも背後にゴゴゴゴ……という効果音が出そうな勢いだ。


「kwsk」

 

 ヤマジは、ぐいっと身を乗り出しながら、メガネをチャッと押し上げた。


「いや、雑誌撮影ってことと、撮影日時と集合場所の連絡しか来てなくて。俺も詳しくは分からん」

「なにそれ焦らしプレイすぐる」

「知らんがな」

「雑誌名も不明?」

「不明」

「衣装は? まさか、み、水着とか……」

 ヤマジは大げさに両手で顔を覆った。

「……キャッ☆彡」

 ——とか言いながら、指の隙間からしっかりこっちをうかがっている。

 

「知らん。……てか、誰目線だよw」

「単独? グループ? 研究生特集? 先輩と一緒? まさかPRISMと同じ紙面とか——」

 そこまで一気にまくし立ててから、ヤマジははっとした顔になる。

「……いや、もちつけ」

「お前だよ」


 ヤマジは一度、口を閉じた。

 そして、ゆっくりとうなずく。

「つまり現時点では、何も分からん、と」

「そういうことだ」

「……でも雑誌は雑誌だお」

「まあ、そうだな」

 その瞬間、ヤマジの顔がまたぱっと明るくなる。

「やばくね? 普通にやばくね? 一ノ瀬氏、もう芸能人やん!」


 こいつ、すでに俺よりテンションが高い。

 しかも、鼻息まで荒い。

「親友がアイドルになった件について、ってスレ立てるお」

「立てるな」

「運動音痴でアニオタの親友が、天下のルクスのアイドルになった件、って名スレになるヨカーン」

「誰がアニオタだw」

「テヘペロ」

 ヤマジは舌を出す真似をして、わざとらしく肩をすくめた。


「立てるなよ」


 一拍置く。


「……絶対に立てるなよ」

 

 ヤマジの口元が、にやにやと緩む。

「ちょ、フラグ乙w」

 

「ガチだぞ」

 真顔で返すと、ヤマジはさすがに肩をすくめた。

「おk、安心汁。立てない」

 そこで一拍、メガネをチャッと押し上げる。

「だが——どんな撮影だったかは、kwsk教えろください」

 

 ヤマジは鼻息まで荒い。


(いや、お前がそんなに前のめりになるのかよ)


 だが、正直——分かる。

 昨日、仕事用の携帯に連絡が入ったとき、俺も似たような顔をしていたと思う。


 雑誌撮影。


 そんなに早く仕事って入るもんなのか?

 嬉しいのは間違いない。嬉しいどころか、昨日からずっと少し地に足がついていない。

 講義中も、ノートを取りながら「雑誌……」って頭のどこかで反芻していたくらいだ。


 気になって、今日の昼休みに五十嵐くんにメールして聞いてしまった。

 五十嵐くんは、入所して一年。イケメンだし、ダンスだって俺とは比べものにならないくらい上手い。

 それに、未来はALIVEのメンバーとして活躍する事を俺は知っている。

 それでも、これまでアイドルとしての仕事は、雑誌撮影が三回。テレビの歌番組でバックダンサーに入ったのが一回だけだと言っていた。


 そう考えると——


 ……俺、順調すぎないか?

 

(いや、でもまあ)

(社長じきじきにスカウトされた逸材だしな?)


 にま〜っと、口元が緩みかける。


 嬉しい。

 でも、ちょっと怖い。


 そんな複雑な気持ちを、ヤマジは一秒で吹き飛ばしてくる。


「どんな雑誌なん? アイドル誌? ファッション誌? まさかアニメー〇ュ!?」

「俺も知らんて。少なくともアニメー〇ュではないだろw」

「ぬおお……焦らしプレイすぐる」

 ヤマジは頭を抱えるみたいな仕草をしてから、急に真顔になった。


「てか、一ノ瀬氏」

「ん?」

「今のうちにサインをくれないか。キリッ」

「いや、まだ研究生だし……」

 次の瞬間。

 ヤマジがリュックをがさごそ漁り、何かを取り出した。

 行動が早すぎる。

「スケブお願いしまーす!(^^)」

 差し出されたのは、スケッチブックとサインペン。


 こいつ、慣れすぎている……!!

「いや、コミケじゃねえんだからw」


「はっ!!」


 ヤマジは雷に打たれたみたいな大げさなリアクションで、凄い速さでスケブを引っ込めた。


「載った雑誌にサイン書いてもらう方が良かったお!!」

「そっちも気が早いんだよ」

「じゃあ漏れ、保存用と閲覧用と布教用で三冊買うが?」

「いや、布教はいらん」


「むっ……では保存用と閲覧用、二冊ずつ。計四冊は買うだろ。常考」

「そんなに買ってくれるのか」

「当然ダロ」


 言い切った。

 なんなんだ、こいつは。

 でも、そのくだらないやり取りのおかげで、少しだけ肩の力が抜けた。


 笑っているうちに、妙な緊張も少しだけほどけていく。


 そして——


 俺のアイドルとしての初仕事、雑誌撮影の日がやって来た。



 * * * * * *


 九月二十八日、土曜日。


 撮影の集合時間は十五時。場所は、ルクスプロダクション本社ビルから徒歩五分ほどの、大きな公園の噴水前だった。


 だが、土曜のダンスレッスンが終わった時点で、もう十四時半を過ぎていた。


(まずい)


 全身、汗だくだった。初仕事だぞ。せめてシャワーは浴びたい。髪もセットしたい。鼻毛チェックだって重要だ。

 だが、五分前行動を考えると十四時五十分には本社を出たい。逆算すると、シャワーに使える時間はほとんどない。


 レッスン終わりに何か言いながら寄ってきたコーマやソラ、小学生たちを「あとで!」と半ば振り切るようにして、俺はシャワールームへ駆け込んだ。


 本当に間に合うのか、これ——。


 慌ててシャワーを浴び、ドライヤーで髪を乾かし終えた時点で、もう十四時五十分だった。まずい。

 髪をまともにセットする時間すらない。


(いや、でも遅刻よりはマシだ)


 初仕事で遅れるほうが、よっぽど印象が悪い。鼻毛は……もう知らん。そう腹をくくって、俺は身支度もそこそこに本社を飛び出した。


 公園の噴水前にダッシュで辿り着いたころには、もう十四時五十七分。ギリギリすぎる。肩で息をしながらあたりを見回すが、撮影隊らしき姿は見当たらない。


(……え?)


 遅刻はしてない。してないが。


(これ、もしかして……俺が一番乗り?)


 わけが分からないまま、噴水前で腰を折ってゼーハー息を整えていた、その時だった。


「あーーーーーー!! ブー太郎!!」

「あれ、ブーさん?」


 この声は——間違いない。


 顔を上げると、そこにいたのはコーマとソラだった。


  ——なんで、お前らがここにいる?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ