かぶとむし
かぶとむしは聞いた。
「ねえ、ぼくのこと感じてる?」
少年は黙って歩いていた。
陽射しがなんだか眩しかった。
「ねえ」
かぶとむしがまた聞いた。
「感じてる? ぼくのこと」
樹の上から降りると、かぶとむしも少年と並んで歩き出した。
「ぼくのこと」
かぶとむしは大きなジェスチャーで聞いた。
「探しに来たんじゃないの?」
少年は黙って虫取り網を立てて歩いている。
「ぼくのこと、ぼくのこと。ねえ。ちゃんと感じてる?」
「うるさい!!!」
少年は怒鳴った。
「迷子になったんだ。かぶとむしどころじゃないんだよ!!!!」
「どころ……」
かぶとむしはそこに噛みついた。
「ぼくのこと。どころって言ったな?」
「今はそれどころじゃないんだ」
少年は泣きそうな声で言った。
「ほっといてくれ」
「喧嘩してみろよ」
かぶとむしはムキになった。
「このぼくのことと喧嘩してみろよ。思い知らせてやる」
「あ」
少年は眼前に現れたものに目を見開いた。
「海だ」
森の中に突如として現れた広い海は、キラキラと熱い光を浮かべ、少年を手招きしていた。
「海は『どころ』じゃないのかよ」
かぶとむしは怒って少年の頭のまわりを飛び回った。
「ぶんぶんぶんぶん! ぼくのことぼくのことぼくのことぼくのこと!」
「おっ? うまそうだな」
釣りをしていたいけさんが、かぶとむしを釣り針で捕まえると、バリバリと音を立て、暴走族の改造バイクで連れ去った。
少年は海に辿り着いた。
何もなかった。




