ドリボロ
こむが森の中でぼーっとしてから家に帰ると、窓から誰かが侵入しようとしているのを見つけた。
ほっかむりを被り、背中に唐草模様の風呂敷を背負った男が窓ガラスを割り、そーっと中へ入って行く。
「あっ、ドリボロさんだ!」
こむは呟いた。
ひょひはんは町へ温泉施設の大衆演劇を観に行っていて、留守だった。
ドリボロはまっすぐ1階のひょひはんの部屋へ忍び込んで行く。
そこには金庫がある。
森には銀行がないので、ひょひはんは全財産をそこに入れているのだ。一体何兆円あるかわからないお金を、すべて。
「ドリボロさーんっ」
こむは名前を呼びながら、駆け出した。
「おっ、こむくん」
ドリボロは振り返り、手を振った。
「ひょひはんのお金、盗みに来たのー?」
こむは大声で聞いた。
「まさか。そんなことをするわけがないだろう」
ドリボロはそう言うと、巨大な金庫を小脇に抱えた。
「持てるものなら持ってみな」
こむはコーヒーを淹れながら、言った。
「やはり金庫破りをするしかないか」
ドリボロは金庫破りセット一式を取り出した。
「がんばれ」
こむはスマホで『小説家になろう』を閲覧しながら応援した。
「お茶でもどうです?」
にこにこしながら、わんぱくが緑茶と饅頭をお盆に乗せて入って来た。わんぱくはひょひはんの夫である。
「あっ、これはどうも」
「開きますか?」
「それが、なかなか……」
「鍵、持って来ようか?」
こむが言った。
「お願いします」
ドリボロはコーヒーと緑茶を交互に頂きながら、金庫が開くのを待った。
「開いたよー」
こむが嬉しそうに言った。
「作業料金1万2千円になります」
わんぱくが請求した。
「じゃ、これで」
ドリボロは金庫の中に堆く積まれた札束の上澄みをぺろんとめくり、わんぱくに支払った。
森に警察は存在しなかった。
のどかに太陽が空から見下ろしているだけだった。




