かぶとむしとクワガタムシ
「わーいわーい」
かぶとむしは浮かれていた。
「夏だー! ぼくのことの季節がやって来たよ! 引きこもるのはもうやめた!」
そう言って物凄い笑顔で樹液にブチュブチュ口をつけるかぶとむしの隣で、クワガタムシが言った。
「気が知れねーな。オレオレらの季節って言っても、捕まえられて狭いところに閉じ込められる季節なんだぜ?」
「それがいいんじゃないか!」
かぶとむしは怒った顔をして言った。
「ぼくのことはぼくのことをいっぱい見てほしいんだ! こんな広くてなんにもないところで誰にも見られずにいるほうがいいって言うのか、きみのことは?」
「誰にも見られずにこっそり甘い蜜を吸うのがいいんだよ、オレオレは」
「ぼくのことはそれこそ気が知れないね!」
かぶとむしはぷんぷんと角からけむりを吹きながら、言った。
「ぼくのことはぼくのことをみんなのことに見てほしい! ぼくのことはぼくのことを世界に知らしめるために存在してるんだから!」
「まぁ、好きにすりゃいいさ」
クワガタムシは樹液をピチャピチャと舐めながら、言った。
「オレオレたちは見た目はちょっと似てるけど違う生き物だもんな。理解し合うなんて無理なんだよ」
クワガタムシは家に帰るとスマートフォンを持ち、メモを取り出す。
「さーてと、甘い蜜でもこっそり吸うかな」
そして電話番号をひとつ選ぶと、電話をかけた。電話の向こうに出た知らない老婆の人間に向かって、クワガタムシは言った。
「あ、ばあちゃん? オレオレ。ちょっとクルマで事故っちゃってさあ……」




