かぶとむし
かぶとむしは人間になりたかった。
理由は特になく、敢えて言うならばこの物語『コムチャン森の住人たち』を自分が成長するストーリーにしたかったからである。
つまりは主人公になりたかったのだ。
しかし人間になるためには自慢のツノを折らなければならなかった。
人間の少年が言った。
「カブトムシのツノってカッコいい」
人間の奥さんが言った。
「そうね。あの反り具合がたまんないわね」
それをデパートの屋上の片隅で盗み聞きすると、モンシロチョウは思った。
『硬いものなんて折れるわ。一番強いのは一番柔らかいこのア・タ・シ』
その心の声を聞いたテレパスのバビルは閃いた。
そして我慢できずに口を使って呟いた。
「柔らかいものは……強い……?」
「柔らかいものは……強い……だと?」
叫んだ。
「とうふが最強だとでも言うのかーっ!?」
かぶとむしの前にとうふを置いてみた。
どちらが強いか試してみた。
かぶとむしは既にツノを折っていた。
人間になる気まんまんだったので。
そのチャンスをとうふは見逃さなかった。
「うふぁー!」
とうふは腕を広げてかぶとむしに襲いかかった。
ぐしゃりという音がした。
かぶとむしは白くなった。
黒を覆い尽くすほどの白があると初めて知った。
かぶとむしは敗北を感じた。
白く染められた彼は呟いた。
「ぼくのことがぼくのことじゃなくなった気がする」
そしてサナギになると、幼虫になった。
柔らかくなったかぶとむしは腐葉土の中へ潜り込むと、出て来なくなった。
ひきこもりになったのである。




