レンちゃん
森の中。こんなところに? と人間ならば誰でもが思うような薄暗い場所に、その洋館は立っている。
じめじめと空気が鬱陶しく、自殺願望のない人でも首を吊りたくなるような、それは樹海とも呼べるようなところである。
築100年は経っているであろうかと思われる。洋館の壁は蔦で覆われ元々どのような色であったのかもわからず、窓から幽霊が覗いていても何ら不思議ではない雰囲気が漂っている。
軽い木の扉を開けると、中は意外なことに外よりも少し明るく、掃除が行き届いている。が、そこら中に青カビが生えている。ブルーチーズを作っているのだ。
レンちゃんは今日も元気に廃れた洋館を利用してのブルーチーズ作りに励んでいた。
彼女はピンク色のハートが体中に入ったメスの哺乳類である。
変わり者だとみんなから噂されているが、同じぐらい激カワであるとも噂されている。
レンちゃんがプランターに水をやると、すくすくと青カビの木が伸びて、葉の先に元気なブルーチーズの実をポンッとつける。
屋敷中に青カビの花粉が漂い、キラキラと海のような光を作っている。
ブルーチーズの栽培がレンちゃんの仕事であり、生き甲斐だ。
「こんな美味しいものパンに塗らなかった昔の日本人が信じられないわ」
ひょひはんがそう言うと、ブルーチーズをたっぷり乗せた食パンを囓った。
「私、ピンク色の青カビを作ることが夢なんです」
レンちゃんは微笑みながらそう言うと、ひょひはんを見て今さらながらビクッとした。
「ところでいつの間にここに居ましたか?」
「主婦はね」
ひょひはんは教え諭すように、言った。
「美味しいもののあるところに湧いて出るのよ」




