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大五郎
「こもれびだにゃん」
大五郎はうっとりと呟いた。
森は幽霊のように暗く、空気はじっとりと湿っていた。
「あさやけだにゃん」
朝は永遠に来ないかのように森には光が届かなかった。
階段を昇って来る音が聞こえた。
大五郎は舌足らずな猫舌を打ち、姿を隠す。
「大五郎ちゃん」
悪鬼の声が自分を呼ぶ。
「いるの? 大五郎ちゃん」
狭いところに身を隠すのは大得意だった。
大五郎は扉と森との隙間に隠れると、悪鬼が立ち去るのをじっと待った。長くて白いしっぽが、扉の下から丸見えだった。
「いないのね?」
しかし悪鬼は巨大すぎて地面が見えていなかった。
「いつか姿を見せてちょうだいね?」
悪鬼は去った。去り際に大五郎のしっぽを30トンの体重を支える足で踏みつけて。
「フギャアアアアア!!!」
大五郎の叫びが森中に響いた。
巨大すぎる悪鬼にとっては蚊の断末魔ほどの声にしか聞こえなかった。
悪鬼は、去って行く。
「ウワアアアアア!!!」
自分の存在をアピールするように大五郎は叫んだ。
悪鬼は、立ち去った。
大五郎はその場にうずくまった。
三角形になって、また独り言を始めるしなかった。
「たのしいだにゃん」
風は吹き抜けなかった。
暗い森に空気は淀んでいた。




