森で魔法は役に立たない
魔女っ子のテディーは山籠りの修行をしてちょっとだけ強くなった。
「修行の成果を早く誰かに見せたいなぁーっ」
ステッキを振り振り彼女がうずうず悶えていると、そこへこむが通りかかった。
「あっ! あなた、なんかの哺乳類ね?」
テディーはそう言いながら、こむの首根っこを掴んだ。
「そうだけど……」
こむは嫌そうな顔をして振り向いた。
「離してくれない?」
「ちょっと哺乳類の仲間として、あなたに見て貰いたいものがあるの」
「なに?」
「魔法よ!」
そう言いながらテディーはエッヘンと胸を張る。
「ない胸張るな。サロンパス貼れ」
こむはそう言うと先へ行こうとした。
「ちょっ……ちょっとちょっと! 何急いでるのよぉ?」
テディーは再び首根っこを掴んで引き戻す。
「だってアイス、溶けちゃうよ」
こむがそう言ったのでよく見ると、下等な哺乳類のくせにそいつは手にアイスクリームを持っていた。バニラのうずまきアイスだ。
「それ持ったままでも見れるでしょ! じゃ、行くわよ? よく見ててね?」
怒ったように言うと、テディーは魔法の呪文をとなえた。
「コグマ、シロクマ、アライグマー!」
すると目の前にあった低木が、瞬く間にカボチャの馬車に姿を変える。
「どう?」
テディーは得意げに、ない胸を張る。
こむは言った。
「ぼく、くまだない」
「ん? 何?」
テディーは意味がわからず、眉をしかめた。
「ぼく、くまだない」
こむはもう一度、言った。
「ああ。あなたは熊じゃないってこと? どーでもいーわよ、そんなこと。感想は?」
「これ、自然破壊だよ」
「感想は!? 凄いとか言いなさいよ!」
「何が?」
「何が? って……。木をカボチャの馬車に変えたのよ? 凄いでしょう!?」
「僕の目にはあんまり変わんない」
テディーはため息をついた。
「さすが下等な哺乳類ね! じゃあ、あなたはあたしが何をしたら驚くの?」
「山火事を起こすとか、獰猛なライオンが雪崩れ込んでくるとか?」
「それこそ自然破壊に生態系破壊じゃない!」
テディーは腰に手を当て、質問を変えた。
「じゃあ、あなたはあたしが何をしたら喜ぶ?」
「このアイスが溶けないようにできる?」
こむの持っているアイスは溶けはじめていて、地面に白い液体がぽたぽたと垂れていた。
「っていうか、溶けないアイスがこの世にあったら僕喜ぶなぁ」
「叶えてあげるわ。朝飯前よっ」
テディーはぺろりと舌を出すと、氷魔法の呪文を唱えた。
「コグマ、シロクマ、ホッキョクグマー!」
こむの持っているアイスが一瞬で絶対零度の固さに凍った。
こむが試しに舐めてみると、舌がくっつき、慌てて引き剥がすと火傷したように痛くなった。
「いたひー! いたひー!」
のたうち回るこむ。
「どう? 魔法の力を思い知った? 脳みその小さな哺乳類さん?」
そう言うとテディーは踵を返し、道に迷った。
「ところで人間界への帰り道はどっちかしら?」
「いたひー! いたひー!」
こむはずっとのたうち回っていた。
森に魔法のホウキはなく、カボチャの馬車が走れるような広い道もなかった。
フクロウがほほっ、ほぅ、と鳴きはじめた。




