わけのわからないもの
コムチャン森にはわけのわからないものがたくさんある。
もちろん、人間にとってわけがわからないのだ。動物たちにとってはわけはわかってもわからなくても、どうでもいい。
わけのわからないものを見た時、人間は大抵、恐怖するか、笑うか、どちらかをする。
つまりこの二つの感情は、同じものなのだ。
アカイ・ソラはまだ森をさ迷っていた。
彼女の白いTシャツは既に灰色っぽいどどめ色に変わっている。
「こんにちは」
と、アカイ・ソラの足下から声がした。
小さな女の子の声だ。
見るとそこに五歳ぐらいの女の子がいた。赤いレインコートを着ている。
なぜこんな人界を離れた森に、こんな幼女が?
わけがわからず、ソラは一瞬言葉を失った。しかしすぐに気を取り戻して聞く。
「こんにちは……っていうか、あなた1人? 近くにお父さんかお母さんもいるの?」
すると幼女は答えた。
「まいげ」
「まいげ?」
「まいちゃ」
「え? え?」
「ちりーん、ちりーん」
アカイ・ソラは腰が引けた。
なんかおかしい。
この子はなんか変だ。
普通にかわいい女の子で、襲われそうとかはないのに、なんだか怖い。
ソラは逃げようとした。
すると幼女は恐怖に顔を歪ませ、逃げ出した。
どう見ても人間の子供だ。しかしその子は何もないところへ、人間的意味の何もないところへ向かって助けを求めるように駆けて行ったのだった。
「ちょっと待って!」
ソラは叫んだ。
「森の出口を知ってたら教えて!」
すると幼女は遠ざかる途中で振り返り、ヒヒヒと笑い、こう言った。
「ヒヒヒ……。まいげ」
そう言うと幼女はいきなり空を飛び、そこからの急降下で地面に潜って消えた。ダダダダーンと激しい音とソラの絶叫が混じった。
アカイ・ソラはその場にペタンと膝をつくと、笑い出した。
「ヒ、ヒヒヒ……」
「ケラケラケラ……」
「アヒョーッ! ホッホッホ……」
鹿の親子が何事もなさそうに側を歩いて行った。
通り過ぎる時にバンビがアカイ・ソラの小便をちょっと嗅いで行った。




