覗き魔とアカイ・ソラ
「鳥ちゃあん、ちゅきちゅき」
そう呟きながら、覗き魔は双眼鏡を覗いていた。
「アカショウビンちゃん、今日もあっかいねぇ~。エヘヘ……」
木の枝をいっぱい身体中に貼りつけてカムフラージュしながら、一方的に鳥を盗み見る。
「おおっ! アオバズクではないか。ぼくのものにしたいなあっ!」
嘘である。
現実にアオバズクが目の前に現れて、あなたのペットにしてくださいと喋っても、彼はそうしないであろう。
アオバズクの猫のような大きな目に見つめられたら、きっと何もできなくなってしまう。
きっと何も喋れず、逃げ出してしまうだろう。
アカイ・ソラはずっと森をさ迷い続けていた。
早くこの森を脱出し、町へ戻らなければ、アダルトビデオの撮影が待っているというのに。
「はぁはぁ。お風呂に入りたい」
彼女はそう言うと、三日間ずっと着っ放しのTシャツの襟をパタパタした。
豊満なバストがぷるるんと揺れた。
覗き魔の双眼鏡はそれをとらえていた。
「また……お会いしましたね」
100メートル離れた茂みの中から彼女に話しかけた。
「こんな人間のいない森の中で出逢ったのも何かの縁……。ぼくと結婚してください」
アカイ・ソラは歩き出した。
あてもなくさ迷う彼女の身体がこちらへやって来る。
まるで覗き魔のことが見えているかのように、まっすぐに。
覗き魔の全身に電気が走った。
「ん?」
アカイ・ソラは足を止めた。
「なにか……」
気配を感じた。
気配というものはあるものである。音も聞こえず、姿も見えないが、何だか近くに何かがいて何かをしているのを感じるのだ。女性であるソラは特にそれを感じる機能が発達していた。
「……ここ?」
広い森の中で二人の人間が、偶然に出逢った。
覗き魔のすぐ目の前に、アカイ・ソラのTシャツの前を膨らませるデカい物があった。手を伸ばせば簡単に触れられた。
「……気のせいか」
そう言うとアカイ・ソラは歩き出した。
覗き魔は泣いていた。
地面に潜る勢いで身を隠しながら、号泣していた。
彼はこの10年間、誰からも、どんな動物からも、姿を見られてはいなかった。
誰からも見られず、一方的に覗き見るのでなければ、覗き魔とはいえない。
今、危うく殺されるところだったと言ってもいい。
覗き魔は再び双眼鏡を取ると、遠ざかるアカイ・ソラの背中を眺めた。
「好きです」
落ち着きを取り戻しながら、その背中に言った。
「いつかあなたをぼくのものにしたいです」




