ぴん
地球が太陽の周りを一周することを一年と呼ぶのならぴんは太陽の周りを16回回っている。
彼は2歳である。
誰もが認める2歳児の見た目をしている。
ぴんはおまわりさんである。
コムチャン森には警察署などない。
誰もが彼のことをおまわりさんだと思っていた。
おまわりさんのぴんは今日も森の警らの仕事をしていた。
お金を持ち歩いている者がいればカツアゲし、道に迷っている者がいれば物陰からニヤニヤ見ていた。
可愛い猿が歩いて来た。
猿とは思えないほどに可愛い娘だ。
17歳ぐらいの少女だろうか。可愛いだけじゃなく、歩き姿がカッコいい。
「うほっ。きっとあのコはファッションモデルか何かだじょ!」
そう思いながら、ぴんはTシャツの袖からチラリと見えた脇の下に興奮し、鼻の下を伸ばした。
初めて見るその猿に「キャシー」と勝手に名前をつけた。
キャシーはぴんに右半身を向けて歩いていたが、ふいに振り向いた。
その左腕には赤ちゃん猿がしがみついていた。
ぴんは驚愕して飛び出した。
「きゃ、キャシー!?」
飛び出したぴんが声を上げると、猿の少女は赤ん坊を守りながら身構えた。
「きっ……きき君の子供なの!? それ!」
猿は歯を剥いてウキッと威嚇した。
「だ、だめだだめだ! 君みたいに若くて可愛い猿は子供なんか産んでちゃだめだよ!」
猿は地面に落ちていたウンチを手に掴んだ。
「タイホする!」
猿が投げて来たウンチを紙一重でかわし、ぴんは手錠を振りかざしながら飛びかかった。
「ウキイーッ!」
黒板をチョークでひっかくような声で猿が叫ぶ。
硬い木製の椅子をバラバラに砕くような音が響いた。
ぴんは天高く蹴り飛ばされていた。猿のサマーソルトキックが炸裂したのだ。猿は我が子を変質者から守りきった。
高い樹の上にひっかかりながら、ぴんは思った。
ぼく、もしかしたら、初恋しちゃったかもしれない。
そんなぴんを見つけて鷲がやって来た。食物連鎖の頂点に君臨する鷲が、獲物をロックオンする怖い目で。
「ばぶー。ぼく、2さーい」
鷲は優しく地上へ運んでくれた。
子猫の武器はかわいさ、ぴんの武器はそれを凌ぐかわいさである。
ぴんのかわいさは食物連鎖の頂点よりさらに上にあった。鷲の目がかわいいものを見る目で細くなっていた。
誰もぴんには勝てない……はずだった。
「あのファッキン赤ちゃん……許さんじょ」
ぴんの目が怒りに燃えていた。
「ぼくよりキャシーにかわいがられるなんて……!」
いつかキャシーの赤ちゃんになってやる!
涙目でそう心に誓いながら、ぴんはヘソを天に向け、かわいこぶった。
「ぷりょ、ぷりょ」




