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コムチャン森の住人たち  作者: ぱめ
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少年

 歌のうまい女性歌手が「少年よ、神話になれ!」と命令したので少年はその昔、誓ったことがある。

 神話にだけはなってたまるか、と。


 他人の言いなりにはならない、なるのはかっこわるいことだ、そう信じて生きてきた。


「イヴォ八號機、出撃します」

 かぶとむしがそう言いながら、木の陰から飛び出した。

「見ててね、ぼくのこと」


 見ててね、と命令されたので少年は無視した。

「残酷な天使だなぁ」と、かぶとむしが言った。



 この森には熱いパトスを燃やせるような何かがあるわけでもなく、少年は神話にならないぞと誓うまでもなく、なりようがなかった。

 少年はただひたすらに森の小径(こみち)を歩いた。迷子なので。


 一応、ここには道がある。

 誰かが作った道があった。

 少年は道を外れ、獣の足跡さえついていない草の上を歩き出した。

 誰かが敷いたレールの上を歩くのが嫌だったので。


「少年」


 呼び止める声があった。

 見やると、白いひげだらけの何かの動物の老人が立っていた。

 全身ひげだった。


「こっちへ来い」


 来いと言われたので少年は無視した。

 無視して五歩進んだところで穴にはまった。

 穴の中にはゲジゲジがいっぱいいて、少年の素足にさばりついた。


 猟師の茂吉さんが出てきて解説してくれた。

「『さばりつく』言うのは岡山弁じゃ。『しがみつく』みてーな意味じゃ」


 少年は泣き顔になりながら固まった。

 足を気持ち悪いガサゴソしたものがいっぱい這いずり回っている。

 動くと不幸が増幅しそうで動けなかった。

「逃げちゃだめだ」と少年は死ぬほど繰り返した。


「だから言ったじゃろう。そこにイタチが落とし穴を掘っておるのを知っていたから注意したのに」


 老人はそう言うと、そっと少年の上半身にさばりついた。


「気持ちいいかの?」


 気持ちよかった。なんだか白いひげがふわふわしてて、解脱したような気持ちになった。

 下はゲジゲジ、上はふんわり。

 地獄が天国で中和されていい感じになった。

 真夏の蒸せる部屋でかき氷をいただいているような気分になった。


「ありがとう、おじいさん」

 少年は涙を流しながら、言った。

「ありがとう、かぶとむし」

「ありがとう、茂吉さん」



 100年後、少年は神話になるのだが、それはまたのお話──。




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