#86 充電、したくなりました。
「ぉぉぉ、疲れたー」
人事、軍議、外交、諸々の大整理のための大評定を終えて、ここしばらく寄生している小部屋に敷きっぱなしの万年床に倒れこみ、ノートパソコンの電源を点ける。
「航太さん。そろそろ大沢城にため込んでいるアレ。何とかしないといけませんよ」
「あぁアレか」
信本が居た事を思い出し、すぐさまその場に居直る。
大沢城をゴミ屋敷と化させているガラクタの山、またの名を研究対象。
「もう大森の工場に持ち込んで分析は始めてるんだろ?」
「はい。ですが、ようやく半分だ、と忠人さんは言ってましたが……」
「流石の相沢パワーも見たこともないものには手古摺るか」
「あぁそれと伝言を預かっていました。『いい加減、振り子と電磁誘導だけでは限界がある』と。かなり細やかなカラクリであったのもあり、壊れてしまうものが増えて手に負えなくなってきているようです」
うーむ、かなり無理をしてた代償か……確かにそれは俺の居た世界でもまだ試験段階だったような技術だから当然と言えば当然の結果だが……
そしてノートパソコンの方からも問題が挙げられる。電池残量残りわずかの警告。極限まで機能を絞って大事に大事にここまで使ってきたが、ついに電池残量が5%を切ってしまった。
銃付属の手回し発電機で充電する、のは突発的な戦闘で戦えなくなる地獄を見ることになりたくないのでやりたくない。それ以前にそもそも電圧が高すぎるからやっちゃいけない。民間のトラベルコンバーターなら、実は持っていたりするが……それで変換しようものなら確実に壊れる、パソコンよりも先にコンバーターの方が。
分解して確かめる必要がないと言い切れない以上、焼損してわかりません!は絶対に避けなければならない。
そこに相沢工房こと大森の工場から『電力を寄越せ!』との訴えが……忠人は電気の使い方を知っているらしい。それが、工場の自動化、生産力の強化に極めて有用であることも含めて……
実はだいたい利府入りした頃から、この苦情は来ていたのだが……しかもその当時の利府は対伊達王国戦の最前線だ。終わりかけていたとはいえ……
その頃から俺の所に届けられていた。これもそろそろどうにかしないといかん。
その解はわかってる。『発電所を作る』だ。未来チートのためにも下準備が必要という事だな。
……と簡単に行けば、『お気楽!未来チート技術で異世界大名インターンシップ!!』となるわけだが、そうは問屋も神も卸さない
とはいえ『電気』について知っているという事だけでも戦国時代であるという事を考えれば、数人分の天才に等しいチートではある。
つまり、問題は『どうやって作るか』だ。まさか俺の知っている発電所をそのまま作ろうとしたら、材料の基礎研究から始めないといけない。いや、そもそも材料を入手する手段から作らないといけない。
鉄すらあるのは、たたら鉄。鉄鋼すらない。大森の工場だって素材の脆弱性を工作でなんとか誤魔化しているだけだ。
そんなことはやってられないので、この時代の技術力で再現できるものにまで落とし込んで設計できるものを考えなければならない。
「悪い信本、ちょっと考えさせてくれ」
「どうぞ、構わずごゆっくりお考え下さい」
既にかなり待って貰っていた信本に遅まきながら断りを入れて再び考え込む。
発電、と一口にいえど火力、水力、風力、地熱、潮汐力、太陽光、原子力、バイオマス、圧電素子、エトセトラ……とその種類は多い。
だが、この時代で作れるか……という問題をクリアできるものは、と考えると……?
とりあえず原子力は論外だな。原子力設備なんぞ、何一つ、作れそうにもない。甘く見てもプールかタービン、それと入れ物ぐらいだろう。全部木製で……敵国のど真ん中に建設するなら、いい案だ。そんなことできるなら、多分それはもう敵国じゃない。
太陽光とバイオマスなんかも却下だ。現状の列島では素材が充分に確保できない上に、化学から始めないといけなくなる。
潮汐力は、そもそも壊れまくっている現状をどうにかしてくれ、という話だ。地熱は、掘削そのものが難しい。できるかもしれないが、とてつもなく危険だろう。
すると残るのは火力、水力そして風力の三つ……歴史ある発電方式が残った訳だが……火力は無理だ。
今の俺達が使える建設技術では、背伸びして大森の工場建屋が限界だからな。あれでも時代にそぐわなさ過ぎて、後世の研究者たちを頭痛で大学病院送りにする自信もあるが。
ならば、風車を西欧の海面下地域のように並べるか、水車を川沿いに大量に配置するか、だ。この二つなら、水車だろう。風車と違って強風で壊れる心配をしなくていいという強みがある。北欧の国や昔の列島も、水力発電が主流だった事を考えると、実現性はあるだろう。
なんなら、この辺でも発電はしないが水車はもとより見かけている。流石に数は多くはないが、作ろうとすれば俺が居なくても作れる……というのはかなり良いポイントだ。
コイルの為の銅線と、その中を通す磁石が問題だったが……政宗の奴、イスパニアの後援があるというのは完全な出鱈目ではなかったようで、かなりいろいろな品物をため込んで居やがった。それも珍しいから……というしょうもない理由で。
そんな政宗コレクションの中に磁石まで入ってた。政宗の供述によると、これで敵の刀を引き付けて攻撃手段を封じるつもり、だったらしい。
無理ではないかもしれない話、なのかもしれないが……逆に磁石について知らないこの時代に、この用途を見出した創造力は、政宗がただ者じゃないことを示している……のだと思いたい。
まぁ、ネオジム磁石でもない限り無理だろうけどな!刀封じに本気で、このコレクションが使えると思っていたのならただのアホの子だ。アホ宗。
ただ、そんなアホの子政宗は今日に限っては神様仏様龍神様だ。独眼竜なだけに。いや、うちのはオッドアイ政宗だが。
待たせ過ぎて、何かの書類を書いていた信本に、考え込んだ結論を伝える。
「……夜叉さんから銅を買おう。あるだけ全部、と伝えてくれ」
夜叉九郎こと戸沢盛安率いる戸沢家。その領内には金銀を産出する阿仁をはじめとした鉱山が大量に眠っていて、戸沢家の主要な現金収入源になると共に、橋本家のプチ重工業の原動力にもなっている。
まともに鉱山開発もしていない、というか大森工場を建てた以外はずっと戦争経済だった橋本家が、戦車装甲の為の鉄板など、金属製品が用意できたのは、戸沢家が居たからに他ならない。
まあ、戦争経済と言う割には、俺が指揮を執って未来知識チートをしなかった……というだけで、「全く発展していない!」と言うほど酷い状況でもないのだが。
「銅を全て、ですか?電池をそんなに沢山作るので?」
そうでなければ皆目見当がつかない、といった具合に尋ねてくる信本に、少し気取った答えを返す。
「目的は電池と同じだ。使うのは『化学』じゃなくて『物理』の方だがな」




