#85 疑似近代化、発表しました。
「……なぁ信本」
「どうしましたか?航太さん」
「……仮にだ。俺が、『俺が居なかった世界』の未来を知っていたとする。そこでは本来死ぬ運命に無かった人々を『夢』のためだ、と言って戦いに巻き込み、殺していたとしたら……そう考えると俺がやって来た事が正しかったのか、解らなくなってな……どう思う?」
意を決して信本の意見を求める。元々この世界に居た人物の中で一番、俺が異世界からやって来た。と言ったとしても冷静に受けてくれる相手だと思ったからだ。直接言うのは避けたが……
「どう……と言われましても…………航太さんが救ってきた死ぬ定めにあった人々の事を考えるのはどうでしょうか?」
「……そうだな。だが俺が起こしてきた戦い、本当に必要だったと思うか?しかも、戦いで散って行った人々に顔向けも出来ないような、遊び半分の『思いつき』が動機だったとしてもか?」
俺の問い返しに、少し考え込んでから信本が答える。
「この戦国乱世、きっと航太さんが居なくても争いに巻き込まれてましたよ。むしろ、航太さんの唱える、理不尽な死を無くす『夢』、それを成し遂げるための力となれたのなら、ただ一時、敵兵を退けるためだけに散る、それよりも遥かに誉れ高き生を全うしたと言えると思います」
誉れ高き……生。この場合、名誉の死というよりは意味のある命だったって所か。
「その夢さえ、後付けだ。悠香と一緒に流れ着いた瓦礫を見るまでは考えた事も無かったんだぞ?」
「……差出がましいですが、和尚さんが言うには『人、老いて猶己を恥じる』のです。皆の声を聞き、己の鍛錬を欠かさなければ、必ず皆ついて行きます。何せ誰もが得をした『仁賀保の戦い』をやってのける空前の『名君』ですからね」
「俺そんな事言われてるのか……」
「それだけじゃないですよ。使いもしない銭を年貢の代わりとして認めていることから最上や伊達との戦いで弱きを助け、強きを退けたことまで……領主から村の人々まで口を揃えて新たな主、航太さんを称えていますよ」
え、まだ全然すべき内政もせずに戦いに明け暮れてたっていうのにか?
「いや、それは言い過ぎだろ。最上との戦いの後からはずっと戦いっぱなしだったんだぞ?」
「それは乱世の習いというものです。最善では無かったかもしれませんが、航太さんは選択を間違えませんでした」
「……俺ら、橋本からすればそうかもしれないが……他からしたらそんな訳ないだろ。偽善かも知れないが、最上や伊達の兵だって普段はただの一般人だろ?それを躊躇なく殺せと言ったのは俺だ」
「しかしそれ以上に降った兵や将、全てに食料を与えていた前代未聞の将でもあります。普段なら切ってしまうのが常でしょうけど」
「……っ、それは……何とか禍根を残さないようにと狙っただけで……」
「いずれにせよ、直にわかります。どうぞ難しく考えすぎずに」
信本に促され、武将がひしめく大広間に踏み入る。
「待たせて済まなかった」
大広間での第一声、謝罪。列島文化は謝罪と忖度でできてると言うしな。
しかしこの時代はそんな事なかったようだ。特に新参の伊達家の家臣団の辺りで驚きの声が上がる。
対し、橋本家中では最古参の小野寺、仁賀保勢は静まり返っている。これが文化の違いという奴か……多分違うと思うが。
「評定……というか告知を行う。流石にこの人数じゃ話が進まないからな」
今回、米沢にわざわざ武将を集めたのにはいくつか理由がある。戦争続きで指示できていなかった内政、そのための人事異動と選挙制度の発表。裁判や税など各制度の整備。軍人と文民の分離の明言……と挙げていたらきりがないが、そんな感じの内容、まとめると『近代国家の真似事』の為の準備と発表だ。
もちろん、急に全部やり始めても上手く行くはずはないのは重々承知済だ。だから一つずつ、変えていく。軍人と文民の分離とか特に難しそうだからな。
「橋本家は領土をいくつかの『地方』に分け、各方面毎に『大名』を配置し、各大名に統治を任せる事とする。今後領土も拡がっていくと思うが、今のところは山形、宮城、岩手、秋田の四地方に分ける事とする」
列島の『県』をそのまま『地方』に代入した形だ。領土と権限に対して考えたらこんな物だろうというかなりテキトウな匙加減ではあるが、こうすると『地方大名』に加増するのと同じ感覚で、列島で言う所の『地方』に自然と成長させられるという利点がある。それを狙って思いついた訳じゃないけどな。
「各地方大名を発表する」
「山形地方大名、最上義光。宮城地方大名、伊達輝宗。岩手地方大名、葛西晴信。秋田地方大名、小野寺輝道。今後、変更になる事もあると思うがこの四人に任せようと思う。異議ある者は挙手してくれ」
「ああ、もちろんだ!」
挙手、という動作に慣れていなかった武将達のざわつきがある中、予想通りの人物が握りこぶしを挙げている。
「だろうな、政宗。予想はついてるが、遠慮なく言ってくれ」
俺が言うや否や待ってましたとばかりに政宗は立ち上がって吠える。
「なら遠慮なく言わせて貰おう!父上が大名になるのはまだ、わかる。勝てし官軍だからな!だが何故この俺を差し置いて葛西などが大名となるのか!!一時は父上さえ追いつめたのはこの俺だぞ!?」
……ダイレクトなクレームありがとう。流石に旧伊達家臣団もビビってるみたいだけどな。確かに普通、こんな事言ったらその場で首が飛んでも不思議じゃないからな。
だが一定数、特に伊達の若手達などはそう思っている武将も居るみたいだ。鋭い目つきで俺の返事を待つ武将がそれなりに居る。その武将達の期待にもこたえよう。
「それはお前には軍団の指揮を執ってもらうつもりだからだ。政宗」
「……だから、地方大名は任せられない、と?」
「そうだな……俺は武士を二種類に分けたいと考えている。武器を取って戦場で戦う軍人と、筆を執って政治で戦う文民の二種類に、だ」
「ほう」
「文民を選んだ武将には刀を捨ててもらい、領地の発展と政務に尽力してもらう。裁判もだな。対して軍人を選んだ武将には住まうための土地以外を手放してもらい、軍事に注力してもらう」
「それでは軍人の方が刀を守ったが故に只々年貢を失うのみではないか!」
「その不満も予測済みだ。橋本家においては収入は年貢や領地ではなく、俺が直接指示した金額を銭で渡す形を取ろうと思っている。それとは別に、飢える心配が無いだけの食料も用意する。得意不得意での武将の住み分けって事だ。何か問題はあるか?」
「……その銭が今より少なければ認めねぇからな!」
「可能な限り、今の収益よりは良い額を渡せるようにしようと思っている。その分、調査に時間もかかるだろうし、文民勢には無理してもらわないとならないかも知れないけどな」
「その言葉、忘れるなよ!」
ようやく反論が出来なくなって座る政宗。一部から漏れる安堵の息がなんとも言えない。
「政宗じゃなくても今みたくどんどん言ってくれ。しょうも無い見落としで反乱とか起こされたくないからな」
政宗に続く事にはためらいがあるだろうけどな……いろいろな意味で。
また適度にざわつく大広間。頃合いを見て次の人事発表に移る……




