#83 聖人、気取ってました。
米沢城の広間で橋本領各地から集まって来た武将達の様子を見ながら近くにいる大名級の武将達と高校の委員会と同じような軽い感覚で話をして全員が揃うのを待つ。
「……何度見ても可笑しなもんだな、俺と父上以外の奴が上段に座るなんてな」
「別に俺はどうでもいいんけどな、郷に入れば郷に従えってやつだな。政宗にもそう遠くない内に軍団を任せるからすぐ戻れるだろうけどな」
「ほう、つい十日ほど前まで戦をしていた仇敵の総大将に軍団を……最上の為に橋本殿を早々に信じたこの義光が言に相応しく無いが、父にして奥州探題に抗い、挙句の果てにお家を滅ぼすような天下の不忠者に任せてなるものか?」
「それこそ美濃の蝮や松永弾正久秀に勝るとも劣らぬ天下の大悪人ですな。三度目の正直か幸いにして成り損ないの大悪人に在り申したが」
義光に続けて遥々横手城からやって来た輝道も反対、というほどではないが懸念の声を上げる。勝つために良武将を登用しまくるゲームや人物名だけの歴史の授業ではあまり実感は無論、俺自身も対峙する敵に強い恨みを持った事も無かったが、いかに有能な人材とわかっていても少し前まで敵だった人物を抜擢するのはやっぱり抵抗があるらしい。
確かに、名前は覚えてないが敵の将軍がいきなり「お呼びがかかったので今日から軍団を率いることになった」なんて言われても亡命して来たのだとしても動揺するだろう。
「こう言うと私怨を持っている人達やこの戦いで死んで行った人達に不敬だったかも知れないな。それでも敢えて続けると、『今、終わる』復讐を果たす為に敵将を殺すより『今、始まる』夢の為に敵将を使う方がいいんじゃないか?」
自分で言っておきながら、良い事言ったんじゃないか?俺。よくも一瞬で俺も言語化できてなかった事をまとめられたものだと我ながら感心。
「されど、政宗は散々奥州中を掻き乱しおった奴だ。お主が認めども民が認めぬであろう?」
久々に政宗と直接会ったであろう輝宗が落としかけてた問題点を指摘してくる。『民』という言葉が出て来るのは伊達一族でも穏健派な輝宗のイメージの源泉なのだろう。
「なら今までの悪行を償う意味で、伊達には働いてもらう、というのはどうだ?言葉はきついかも知れないが、恨み分を上乗せせずにあくまで『償い』としてな」
「『償い』か、敗者には付き物だな」
政宗の反抗とも自虐ともとれる言葉に訂正次いでに質問を返す。
「聖人君主を気取ると、領民を戦争で殺した俺だって充分な極悪犯罪者だ。その『償い』として理不尽な死を無くす為に働く、俺の野望と同じになるがな。そう考えるのは虫が良すぎると思うか?」
「……そうだな。お前一人の野望に奥州中の人間を巻き込むは、聖人君主の所業ではない。俺のようにな!」
政宗が言い放った所に、仁賀保県知事として大名と同列に上座に居た重挙が口を開く。
「恐れながら死に損ないの田舎者の老骨めにも一つ。橋本殿の夢は『野望』に非ず、他の者、多くの者と同じくする『夢』に御座います。仁賀保にてお目にかかりし時こそ才ある若造の身に余る『野望』と思えど、今や仁賀保、奥州にて成し遂げつつある『夢』に御座います」
まだ半年も経っていない筈だが、それでも最初期に橋本家に加わった重挙の言葉は、その場の諸将のみにとどまらず、俺さえも感動させていた。逆にあれでも最初の内は舐められてたんだな……と少し落胆もしないと言えば嘘だが。
「同じくする『夢』……か」
俺が「大名になる!」と決めた時の一番の理由が「そこに空き城があったから」という軽いものだった事が恥ずかしいぐらいだ。ある意味、悠香と一緒に飛ばされてきた被災物の山がなければ、そのままの軽い意識で味方兵士を連れ回って戦いの中で殺すことになっていたと考えると……
いや?
俺って……今もとんでもない、凶悪犯じゃねぇのか!?
何故って、俺がいなければ本来、死ぬ筈の無い人間が死んでるって事だからだ!
しかも俺はそうして死んでいったほとんどの人間を……覚えていない。名簿を見なければ、名前すらもわからない!
何よりついさっき俺は何を考えていた!?
「勝つために良武将を登用しまくる『ゲーム』」だと!?敵を倒さねば史実の後北条家のように滅ぼされるからそっちは仕方がないにせよ、俺の根底ではまだ……まだこの世界が……!
『ゲーム』に見えてるのか???
「橋本殿、顔色が優れないようですが……」
「……あぁ、評定まで休んでくる。何かあったら信本に言ってくれ」
そう言って俺は大広間の上段から降りた。
いや。
『大名の席』から逃げ出した……




