#81 金眼、輝きました。
「申し訳ありませぬ!蘆名より援軍は無い物とお考え下され!」
「何故だ!?」
荒れながらも理由を問う政宗。
「佐竹寄りの者共にしてやられ申した。山形にて大敗と知れるや否や彼の者共は自ら佐竹の鬼を呼び寄せ『来たるべき佐竹に備えるため兵は出せぬ』などと……」
「北の門番がいるだろう!奴の手勢だけでも……!」
「重ねて折悪く、上杉方の将が会津へと兵を率いていると……大軍でこそ無いものの数も互角。敵将も勇士、加えて戦局を見る『眼』にも長けた甘粕景継、これを捨て置く事は出来ぬと……今、我々が動かせるのは弟殿と猪苗代殿にそれがしの手勢加えて二千騎程。……されど佐竹寄りの者共が乗っ取りをかけ得ぬよう兵を割かねばならぬ上に我等とて他の将と等しく佐竹に備えねばならないのです」
「……会津へ逃れようとも詰み手か……っ!くそっ!!もう下がれ!」
報告に上がった氏実も退室した米沢城の本陣に政宗ひとり。
俺が負けた理由は火を見るより明らかだ。俺は、俺の、俺にしかないと思い上がっていた、古きを打ち砕き新しきを創り出す『力』に己惚れていた。
だが違った。
『朧車』を見た時に……否、父上を取り逃がした時に気づくべきだった。
俺は……橋本航太にはなれなかった……
堅実に足場を固めながら進めておれば良かったものを……と小言を垂れる将は居ない。亘理の爺は、相馬との戦にかかりきりだ。父上を今も支えているのであろう爺共の小言も今では懐かしい……
政宗の心を映し出すように金色の右眼には失敗に対する焦燥や驚愕、恐怖といった感情さえ押しのけて涙が滲み出ていた。
「俺は……負けたんだな……」
政宗の言葉が空を切る……
「申し上げます!敵方より矢文が届けられてました」
「矢文だと?それを寄越せ」
橋本軍による包囲の始まった米沢城の本陣で総大将にして唯一の大将級の武将として指揮を執っていた政宗。
恐らく降伏勧告だろう、そう政宗は感じ取った。今更和議を結ぼうとは無論、まさか伊達が敗色濃厚となった今わざわざ沈みかけている泥船に乗り換えようという内通者が居るはずもない。そもそも政宗お得意の所領安堵による伊達家への寝返りの工作準備は橋本には仕掛けていないからあったとしてもそれは敵の策だ。
受け取った矢文を開く政宗が顔をほころばせ、笑い出す。
「ふっ、フハハハハッ!!やはり俺に敵う相手じゃなかったな!!直ぐに門を開け!そして橋本の兵は撃たれるまでは決して撃つな!わかったか!?」
「はっ!!」
伝令が駆け出し、再び一人になる政宗。しかしその眼は数刻前のなんとも言い表せぬ絶望ではなく、戦国の世を穿ち抜く輝きを取り戻していた。
「あれ?まだけっこうたくさんいるじゃん、伊達軍。なんで開けてくれたんだろ?」
「……だな、これだけいるなら別に籠城しなくても勝てたんじゃないか?それはそれで困るけど……」
こちらの呼びかけに応じて門を開いた米沢城の内側には俺の想定を遥かに超える伊達軍の姿があった。感覚では俺の部隊、千人の倍くらい居る気がする。この数で一点突破でもかけられてたら間違いなく包囲が崩されてた。
なぜ伊達軍が、それも伊達の本拠地である米沢に政宗まで恐らくセットになってるのにこんなに消極的な行動を取ったのかは謎だ。包囲中も矢がたまに飛んでくるだけでこれといった戦闘も無かったから一応行動の一貫性はあるが……
「流石は橋本航太だ。安全とは言い切れぬ敵地に僅かな護衛だけを伴に朧車に乗ってやって来るとは……な」
「山形で会った時以来だな、伊達藤次郎政宗。独眼竜じゃなくてオッドアイだったのかよ」
「右眼の事だな?何も隠す事じゃない。生来こういうものだっただけだ。格好が付いているだろ?」
そう言いながら政宗が右眼を隠していた前髪を手ではらうと政宗の金色の眼の輝きと視線が合う。ちょっとキザっぽい所も政宗。イメージ通りで何よりだ、と全力で落ち着きを保つ。
ちなみに俺としては史実ではこの奥州をしっちゃかめっちゃか掻き乱した歴史上の大偉人との対面で内心、物凄く盛り上がっている。何せ伊達政宗は歴史人物の中でも五本の指、列島の人物としては多分一番好きな歴史人物だ。特にやったことと本人の性格のド派手さが……俺には真似できないからこそ、だな。
「うわ~それ自分で言っちゃう~?」
……
「痛い!!私まだ何もしてないでしょー!?」
「そっちが勝手に自爆して逃げられなくなるのは俺の知った事じゃねーが俺まで巻き添えにすんじゃねーよ!!こちとら命かかってんだぞ!!?大袈裟に言えば奥州中の命かかってるってのにぶち壊す気か!!?」
「その娘があの鬼姫か、後で手合わせしようじゃないか!何やら俺は竜などと呼ばれてるようだしな!鬼と竜、決着が楽しみだな!!」
「あー政宗、それは自己責任でな。こいつ無駄に運動神経あるから」
この様子だとどっちも聞いちゃいないだろうけどな。まぁ現代造語のオンパレードだから聞いててもどのぐらい危険度が伝わったかはわかんないけども……




