#76 裏小屋、建ちました。
「おぉい橋本の!村のもんを連れて……って取込中だったか」
宣言通り、太陽が傾いてはいるものの日暮れ前に戻って来た広郷。農作業やら何やらあって大変な筈だろうにかなりの人数が呼びかけに応じたみたいだ。……でもなんか足りない。
「いえいえ大丈夫ですよ。それより木材の方は?」
「あぁ、木材ならもうそこまで来てる。遠野の木材を全部かき集めたもんでちょいと運ぶのが手間でな、それよりその鬼姫様……は?」
木材全部という全面的&積極的協力……よっぽど政宗が嫌いなのか……
はたまたよっぽど悠香の暴れ方を気に入ったのか……
願わくば前者であって欲しい所だが、正直悠香ぱわー(物理)の影響力を否定できない……それが信頼につながるかは別としても確かにあんなことされちゃ初見じゃなくてもインパクトは凄いからなぁ。
当の本人は広郷にも訊かれたように俺の横で伸びてる。軽く現代式礼儀ってのを叩き込んだだけなんだが、この馬鹿にはそれだけでも脳の処理限界が来たらしい。
「あぁ、それも大丈夫。馬鹿は死んでも治りませんから」
「いや、その無事を確かめたい所なんだが……あの鬼姫様がちょっとやそっとの事で死ぬ訳無いからな。それよりこん者たちを集めてどうすんだ?」
集められた遠野の人々を示して尋ねる広郷、お待ちかねのブラック部隊化の時間だ。
「まずは簡単な作業場をここに作って足りてない鉄砲玉を作ってもらいます。それと同時に作業場を広げていき、俺達の主力の戦車の『改良型』をここでも作ってもらい数が揃い次第伊達を叩く。これを出来るだけ早くやらなきゃならない。伊達に見つかる前にこの部隊で利府に殴りこむ必要があるからです。広郷殿、ここから岩崎まで一番早くて何日かかりますか?」
「岩崎というと……道を知らん者なら五日はかかるか?」
「なら俺達に残された時間は四日、不眠不休の作業が必要になりますが、伊達に勝つため、そしてその先の戦力のためでもあります。それでも協力してくれますか?」
久々のデスマス調ながら言ってる内容は今までで一番過酷。語調一つでこんなにイメージって変わるのかと自分でも驚き。悠香にぶちギレた直後に思うのもなんだけど、礼儀の力って凄まじいな。
その甲斐あったのか……いや、きっと広郷がやたら慕われる領主だったんだろう。夜も寝ずに……と言ったのにも関わらずむしろ遠野の人々は、
「たかが四日じゃあ!!伊達を追っ払うどころか戦場に行かん代わりなら安いものじゃあ!!」
「流石は殿もお認めになられた方じゃあ!!四日と言わず三日で橋本様の御仕度を整えるぞォ!!」
とお祭りのような盛り上がり方である。それにしても伊達家の本拠地の米沢からこんな遠くの山中の領民にさえこの嫌われ方……本当に何したんだよ、政宗。
かつて空飛ぶ要塞を竹槍で落とすことを期待させるほどの物だった大和魂。流石に本当に全員が不眠不休で……とは行かなかったが……やりやがった。
現在の橋本本隊は兵力こそ1000人と本隊のくせに少ないものの振り子動力でしかもここに来るまでに少し不調を訴える車両も出ているとはいえ一戦車と改戦車合わせて総勢40両を擁する部隊になった!戦国戦車部隊、誕生の瞬間である。
鉄の調達ができるかって事も心配してたが、その問題を見越してここ、遠野を"長蛇の頭"に選んだからそんなに困りはしなかった。
この地域の中で遠野にしたのはちょっと広めの土地と城、そしてそれなりの人手があるからってだけの簡単な理由なんだが、人口が多かったからか思った以上に近くの地域との交易が盛んだったらしい事が幸いして無茶な生産計画を実現させた。
そのうえ結局三日じゃ少し一戦車の改良型……『改』戦車の数と鉄砲玉の数が心もとなくて四日目まで居たんだが、四日目の朝には遠野に居る俺達の話を聞きつけた鉄山の村の人々が夜間、寝る間も惜しんで掘り、運んだという鉄が届いたおかげで、図らずも追加生産ができるようになった。
つまりこれでプチ戦車工場を伊達家のすぐ近く、それも見つかりにくい所に建てられた事になる。俗に言う『裏小屋戦術』。敵の視界外に軍隊の生産施設を作って敵を側面から大軍で押し流す俺のやってたストラテジーゲーの対人戦で最も嫌がられる戦術の一つ。
本当なら資材やら補給やら技術やらといろいろ不足して上手くいかない筈なんだが前二つは何とかなってるみたいだし最後の一つは貴重な持ち込み品のノートを半分犠牲にして工場の設計図共々、読む気合さえあれば前提知識なしでも作れる解説書を作っておいたので解決した。……読み方を教えるために半日ぐらい消費したのは正直痛かったけど。
でもこれで勝てる!もはやこの橋本本隊は接近戦でなければ被害は受けないと言っても過言じゃない固さと「撃つのが難しい」というデメリットを克服した士筒四十丁と十分な鉄砲玉、おまけで部隊の半数以上を占める遠隔歩兵による高めの攻撃力を手に入れた。この部隊で伊達との戦いを終わらせる!
橋本家への参入を受け入れた広郷に橋本への年貢の完全免除の代わりに引き続き改戦車の生産を続けて貰うように依頼し、部隊の前に立つ。整列した橋本本隊は戦国時代の部隊というより『連隊』みたいな雰囲気だ。
そこに号令をかける。よく言えば略式、悪く言えばそもそも形式なんて知らないのでここだけは戦国風の大将の一声スタイルだ。
「橋本本隊!利府へむけて出陣だ!この戦いを終わらせるぞ!」




