#75 災い、転じました。
「俺達の事を前もって伝えなかった事は本当に申し訳なかった阿曽沼殿」
「よせよせ橋本の。逆にそんな事で伊達に嗅ぎ付けられでもすりゃいよいよ伊達の暴れ馬を止められる奴がいなくなる。そいで真っ先に割を食うのはこっちだからな!そんぐらいどうってこたねぇ!」
初めのうちこそ警戒していた阿曽沼広郷だったが、摩訶不思議な方法で警戒を解く事ができた。
でもそれが悠香のバカのおかげってのがなんともな……
阿曽沼広郷との会談のため、広郷の待つ部屋に入って俺が阿曽沼家と戦いに来たのではないことやここへ来た事の要件を誠心誠意説明しようと思った矢先に悠香について突っ込まれた。
当然と言えば当然。そりゃ普通武士界には男しかいないから不思議に思うのも当然なんだが広郷の配下、剛介とかいう正統派の地侍武将みたいな奴に「槍も振るえそうにもない女子が出しゃばるな」と挑発されただけで「じゃあやってやりますよ!」と簡単に乗せられて決闘っぽいことをする羽目に……。
ちなみにこの時の悠香には馬鹿にも程があるとは思いながらもちょっとカッコよさを感じた。それで痛い目見ておとなしくなれよ、とも思ったが。
決闘『っぽい』のは相手が「いくら遠慮なしと言え女子を切るのは志に反する」と完全に舐めてかかってて真剣は止めようと言ったからなんだが……
悠香がチート効果、とは言いつつもお前馬鹿だからもともと持ってただろと言いたくもなる馬鹿力でひたすら三間槍サイズの木の棒で突いて振り回して突いて振り回しての繰り返しで剛助を追い回す結果に。
馬鹿が怒り心頭状態だから加減を知らないのに加えてチート回復があるからまず体力が尽きない。自業自得とはいえ最終的に悠香の木の棒が折れるまで追いかけ回してたんだが、その観戦のために城中を広郷その他の面々と走り回ってたお陰で阿曽沼勢と仲良くなった。信頼を獲得……この方法でできたらまずいでしょ。
広郷も元来、豪快で勝負事自体は好きな性格だったようで楽しませてもらったお礼にと全面的な協力、どころか橋本家への臣従を約束してくれた。こんなんで決めていいのか……広郷さんよ。
一応その後で形式的なやり取りはしたものの……この世界の後世にこの会談が残ったりした時はこのやり取りが残るのか?と考えるぐらいに気が抜けてたが、いろいろと地元の大名の視点から伊達家について教えてもらった。
なんでも政宗が伊達王国の一員なのだから兵を出せ金を出せとこの辺りの勢力には相当な圧力をかけているとの事。
そして政宗からすれば"空白地帯"であるはずの土地にたまたま居た稗貫、和賀両家は立ち退きを拒否したために轢き潰されそうになっていた、という事らしい……。
今、実際にどうなってるのかはわからないが南の佐竹や相馬とも良く喧嘩をする伊達家のイメージが正しければ、伊達家は橋本、最上軍団、同盟の戸沢、陸中辺りの諸勢力、相馬、佐竹、同盟のお誘いをした上杉と、ほぼ全ての方向と戦っている状態に……全方位宣戦外交は流石に無茶じゃないか政宗?
そんな状態にもかかわらず山形と岩崎で確認した敵の数は少なくとも一万五千人。それまで輝宗派と戦っていた事を除いても既に伊達家の国力では限界の数字だろうし、この上さらに相馬戦線にも兵を配置しなきゃならない。
そうするとどう足掻いても兵数が足りない。伊達家も俺達と同じように山形から陸中まで部隊を動かしてたりすれば話は別だろうが、戦車に補給物資資材を載せて歩兵は自分の装備だけ持ち歩けばいいというホワイト部隊の本隊に六倍以上の足軽を引き連れて果たして追いつけるかな?
……まぁ、楽だった分ここから遠野の皆さんから俺まで含めて超ブラックな部隊になるんだけどな。
「広郷殿。俺は土地を見て来るから今からできる限りの人手と木材をお願いします。」
何度思い出しても笑えるようなふざけた展開の回想から戻って来て広郷に伊達家撃破の為の作戦の要の用意を依頼する。
「任せとけ!日暮れまでにゃ戻って来る。それまで兵の面倒でも見てやれ。兵を率いるのにゃド素人の俺にも兵の疲れが見て取れるぞ?」
……そうだよな。いくら手持ちが軽く、先頭付近には範囲回復の悠香を置いたとはいえ笠被って長槍、人によっては火縄銃を持って山道を早歩きはつらいよな。
「わかった。広郷殿が戻って来るまで兵に休息をとらせよう」
……確かにこのタイミングしか休めそうにないもんな。
「おーい歩く病院ー」
「だーかーらー!わたしは病院じゃないですぅー!」
呼ばれてやって来る移動式病院こと悠香。俺から見た悠香を連れ回るほぼ唯一にして文字通り不正級の反則能力、わかってる限りでは『ある程度の範囲内の人物』の『回復力と運動能力』を強化する能力っぽい。
敵味方は実はあんまり関係なさそうで、山形合戦の時に気づいたけど一撃で死なない限り味方はもちろん敵も中々耐えるようになる。つまり悠香を先頭にした突撃は実は両軍の犠牲が一番少なくなる素晴らしい戦術だったわけだ。長篠されなければ。
あと悠香と取っ組み合って悠香を投げ飛ばしたり、義光の鉄の指揮棒を振り回した時に悠香に直接触れていると体育オール赤点の俺でも怪力になれた事からも、悠香自体が身体バフを体から電波のように発信しているみたいだ。一定範囲って事は減衰もするのか?さらなる検証が必要だな。そんな事より悠香の次の異名は……
「じゃあれか。男泣かせマシーン。物理的ダメージによる」
「酷い!?さっきのはむこうが勝手に挑んできたのを薙刀部の名にかけて撃退しただけでしょー!?」
薙刀部……?あれで……?
現物は見たことないけど少なくとも正道じゃない戦い方だったのは明らかだった。
「ちなみにどのぐらい薙刀部に居たんだ?」
「しつれーな!薙刀部は一番長くいたんだよ?」
一番?少なくとも二回は転部してるのか。
「で、どれだけいたんだよ」
「中一の一学期はずーっといたよ!しかも毎回行ったんだよ!?」
「んな事だろうと思ったわ!!全世界の薙刀部に謝れ!それで『薙刀部の名にかけてー』とか言うな!」
久々に本気で頭に来たな。てか本当に叔父さんはなんでこんな奴が好きだったのか、本格的にわかんなくなって来たぞ……
まだ日暮れまで時間はある。折角だからこの馬鹿にみっちり常識感覚を一から叩き込んで馬鹿を矯正してやるとするか。頭に来たのもそうだけど今回は良かったものの、これを上杉さんとかの前でやられたらたまったもんじゃないぞ……




