#73 出勤、久しぶりでした。
義光が山形で政宗本隊を足止めし、守棟が前川の山の中で一方的に原田隊を『三段射』で追い返した。これだけでも伊達軍は8000人程兵力を費やしており、先の山形合戦で与えた被害を少なく見積もっても既に10000人も戦力を投入していることになる。
加えて伊達家は懲りずにまた内戦をやっていて、輝宗によるとはじめ、輝宗方の兵は5000人は居たのだと言う。
挙句、これも輝宗に言われるまでは知らなかったのだが伊達家は絶賛、相馬氏と戦争中らしい。つまりあの政宗は相馬戦線を抱えながら内戦から対橋本戦争と常軌を逸した暴れ方をしているという事になる。
で、その相馬戦線の兵力をテキトーに考えても5000人は居ないと守り抜けないかなとなり、ここまでの合計で20000人。もう伊達家の動員兵力の限界を越えていてもおかしくない。というか無理だろ、これとは別に城の防衛隊も居ないといけないし、これ空っぽにしていると知れたらすぐに蘆名や佐竹が攻めてくるぞ。
つまり、『人は簡単には戻ってこない』というのは死んでしまった兵がゲームとは比べ物にならないほど簡単には代わりが効かないこともそうだが、一か所の攻略に力を入れるべく一点集中させると直ぐには戻れないために他の地域の守りがおろそかになり、橋本家の動員できるような寡兵でも勝ち目が出てくる、という訳だ。
訳だった筈なんだ……
岩崎に居ると記憶していた目的の人物は発見できた。というかこれはとても簡単だった。そりゃあど派手にほら貝やら太鼓やらが進路上で鳴って居れば気づくなという方が難しい。"気にしない"という思考が脳にできないという話は別にしても。
でも巻き込まれたこの状況は予定にも予想にも理想にも反していた。
「おらぁおらぁおりゃあぁぁ!!!百足様のお通りだあぁ!!!邪魔者はどけえぇ!!!」
先日『毛虫』と紹介に預かった成実の前立とその本人がほとんど農民一揆のような和賀軍の殿と戦っている。今、盛大に『百足』って言ってたのだがそれは……。
「わりぃな橋本の。俺らも伊達の毛虫なんざに負けるぐらい弱い筈じゃなかったんだがな……」
和賀川を渡って逃げてきた目的の人物、和賀義忠が苦々しく言葉を漏らす。でもゲームで集落一歩手前の和賀家と義忠の兄、広忠が養子に入ったこちらも内政も出来なければ兵力も無い稗貫家と残念なのは明白な弱小勢力、逆に負けない方が驚きだ。
何故そんな戦力の足しにも弱小大名家を探していたのかというと伊達家と戦うにあたって一人でも多く味方を増やしておきたかったという事とは別に、実は他勢力がほとんど居ないこの地域に精通する数少ない武将を引き入れる事が『長蛇作戦』の真価を発揮する為に不可欠な事だからだ。『長蛇』で言う所の頭にあたる。
しかし状況は最悪、『長蛇の頭』は目標にたどり着く直前にどこからともなく湧いて出た毛虫に邪魔されている。
「手間取って済まぬ航太殿!命令通り、ようやく義忠殿の岩崎城から和賀川沿いに布陣させ終えたぞ」
先行して岩崎へ向かわせていた小野寺軍団の軍団長、輝道が数名の護衛と共に防衛線の展開待ちをしていた俺と橋本本隊の下へ報告にやって来る。応急処置だが、何とかなって何よりだ。
「よし、展開した防衛線を可能な限り維持してくれ。それと、あそこに居る戦闘馬鹿は何でこんなところに居るんだ?」
到着直後から気になっていた部隊を指し示す。そこにはスナップボタンのような家紋を旗印に掲げる夜叉さんが……
「何でも『猛者と戦う好機を航太殿に譲ってばかりいる訳には行かない!』と……加えて雫石は盛吉に兵を預けた故案ずるなとも」
……ちょっと考えればわかった事だよな。一度撃退済とはいえ、愛ちゃんの片割れこと『北天の斗星』とか言われてる安東愛季がノーマークというのも心臓に悪い。
「猛者ならすぐ北に居るんだけどな……猛者ってより知将だけど。でも伊達軍の相手を引き受けてくれるなら礼を言ってたって伝えてくれ」
色々予想外だったが、盛安の勇敢さ……というか熱血漫画の主人公らしさに助けられたお陰で、当初の予定通りに最終目的地に辿り着けそうだ。
「義忠を呼んで来てくれ。道案内をしてもらいたい」
長蛇作戦。ゲームなら日常茶飯事だったが現実のスケールでやるには実現が難しい、だからこそ確実な戦果を挙げられる物と言える作戦になっている。たぶん。
そしてここから先は特に時間との勝負が激しくなる。しかも、この橋本家本隊の動きが橋本家、橋本戸沢連合の運命を左右することになる。長引けば他勢力の介入を許すことになり、応戦準備も整えられずあるかもわからない次の転生に期待せざるを得なくなるだろう。
正直、神がアレなのでほぼ転生はもう在り得ないと思った方がいいだろう。というか確実にこの世界には戻ってこれない。それに、既に半年弱居るこの世界は、俺にとっては『転生先』という実感のない第二の世界じゃない。
紛れもない『現実』だ。
失敗はしたくない。橋本家の面々や、叔父さんと……
俺の子供じみた『夢』の為にも!
「橋本本隊!東へ!!先導を見失うなよ!」
俺の号令で北上盆地をさらに東へと行軍を再開する橋本家本隊。必要物資を満載した改良型一戦車に乗り込み、久々に俺の職場へ出勤するとしよう……!




