#64 切り札、発動しました。
「殿!一大事です!すぐにでも兵を……殿は何処へ……?」
山形城と長谷堂城の丁度中間辺り、吉原に置かれた政宗の本陣へたどり着いた小十郎とその部隊だったが、肝心の政宗が居ない。
「兄上は朧車が出たとの後藤殿の隊の報せに喜々として騎馬隊のみを率いて向かいました。我々は兄上が山形城を落とすまでこの地の陣を守れとの事です」
本陣を預かっていた政宗の弟の小次郎が答える。
「いつ向かわれたのですか!?小次郎殿!」
「つ、つい先程、まだ半刻も経ってないと思うのですが……どうしたんですか?」
普段は冷静沈着な小十郎の慌てぶりに困惑する小次郎が聞き返す。
「私たちはすぐにでもこの地を動かねばなりません。山形をすぐに落とすか、さもなければ成実殿の隊を先頭に米沢まで突破をかけなければ、伊達家は計り知れない被害を受けることになります!」
「と、取り敢えず何があったのかをお願い致します小十郎殿。このままでは解る物もわかりません」
小次郎の言葉に少し落ち着きを取り戻す小十郎。そして順を追って説明をする。今回の伊達軍の布陣の弱点、そしてその弱点を的確に付いた橋本軍の存在とその素早さ、そして現実味を帯びてきた最悪の状況。
「このままでは我等は逃げ場を失います!既に私が成沢城落城の報せを受けた際に成実殿と左衛門殿へも早馬を走らせていますので御二方の耳にも入っている頃でしょう。その後の御命令を殿にと思っていたのですが……」
「ですが兄上はここを守れと言って出てしまいました……勝手に兵を動かせば兄上の命に逆らう事に……」
兄政宗の性格をよく知る小次郎は無断で兵を動かす事に反対するが、小十郎は、
「ご安心を、小次郎殿。この私が殿の弟嬲りをさせませんよ」
「怯まず銃砲に取り付くのです!!敵の銃では『戦車』の装甲を貫通など出来ません!!」
山形城の二の丸、南大手門の内側に並べられた振り子戦車が火を噴き敵の射撃を弾く。
作戦会議で正式に「駆筒『一』」と名付けられた戦車。そのうちの南大手門に割り振られた車両の指揮を執る相沢忠人。
「今こそ輝宗公への忠義を示す時です!伍の組、撃て!!」
木製の盾で補強された急造の櫓から指揮をとる白石宗実。櫓に控える兵がほら貝を鳴らし、鉄砲の一斉射が後藤隊へ叩き込まれる。
大手門とはいえ狭くなっている城門部に一斉に押し寄せた後藤軍の兵は逃げる事も叶わず橋の上で力尽き討ち取られ水堀へと力なく落ちていく。
もちろん何度も繰り返される鉄砲の射撃を潜り抜ける強運の持ち主も中には居たが、城門へ辿り着いても立ちはだかる戦車の装甲に阻まれそれ以上進む事も出来ず、装甲の裏に居る足軽に討ち取られる。
「東のお味方、敵総大将、政宗の部隊と戦って居りますが我が方が押されています……!」
「東からと!?若殿の隊がか!?」
政宗の隊が動く可能性は想定しては居たが、政宗が正面突破を仕掛けて来なかった事に驚きを隠せない。
この天正の乱以前の輝宗代から政宗を良く知る宗実だからこそその驚きはさらに大きい。
「何としてでも守り抜け!我等は雷神殿の隊が戻るまでここを命に代えても守らねばならないのだ!!」
「はっ!!」
橋本家の駆筒『一』戦車が投入された南門と西門の戦局はかなり有利に進んでいたが、数で勝る伊達軍の猛攻に一戦車の居ない東門は突然現れた敵軍、しかも総大将政宗自ら率いる騎馬隊に恐れ慄いていた。
門も既に破られ、最悪な状況の東大手門の守備隊が未だ瓦解せずに居られるのは、やはりこの老将のお陰である。
「鬼庭左月斎!!!!輝宗公に仇成す者共を成敗しに参った!!!!地獄へ行きたい者からかかって来られよ!!!!」
黄の綿帽子を被った圧倒的長寿家系の防衛機構、味方すら気圧されるほどの存在感を鬼庭左月斎が放っているからであろう。
だが鬼が出たからと言って退く政宗ではない。むしろ余計に政宗の感情を掻き立てる結果となった。
「父上の武の守り神が出てくるか!面白い!!本当なら朧車に使いたい所だったが俺は先を急いでいる!」
そう言って政宗は新たに作らせた黒塗りの軍配を高く掲げ……
「『騎馬鉄砲』隊!!撃ち尽くせ!!」
山形攻めにあたって用意していた切り札、騎馬に無理矢理鉄砲を持たせ、馬上から攻撃させる『騎馬鉄砲』隊を突入させた……。




