#60 独眼竜、襲来しました。
最上義光と最上家の取り込みにほとんどズルと言える悠香バフを使って成功した俺は山形城へ次なる課題、政宗撃退の方法を議論していた。
しかし議論はこの少ない兵力の中、それでも伊達本陣を急襲すべしという脳筋派と長谷堂城は切り捨てて山形城に籠城すべしという慎重派とに分かれていた。
一応今回の騒動の名目上の要因となっている政宗の父、輝宗は降伏しても構わないとは言っているのだがそれは最上家臣や正室の武闘派で義光の妹の義姫が認めずに居る。
紛糾して止まない議論の整理に青緑軍師、氏家守棟が入る。
「状況を整理しますと、伊達軍は現在一万人で長谷堂城を包囲しています。これを率いるは伊達政宗を大将に片倉景綱、鬼庭綱元、原田宗時に加え、虫頭の伊達成実などが居ます。子細は分かりませんが恐らくどの部隊も兵数に大きな偏りは無いでしょう」
なんか……伊達家の若手が揃ってるな。この中で一番年を取っているのが鬼庭綱元って……
「対し我が方は輝宗公の手勢と橋本軍が加わったとはいえ、四千。ですが、橋本殿は我等最上の兵一万を蹴散らした名将であられ、羽陽の北半分を僅か一千の兵で奪い取った鉄戦牛車があります。橋本殿、ご指示を」
って俺かよ!確かに義光のお墨付きで最上家を取り込んで新当主になったとはいえそれでいいのか?
しかし黙っているわけにもいかないし、むしろこここそ最上家臣の信頼を得る機会か。
「橋本家当主、橋本航太だ。色々変な呼ばれ方はあるが航太で良い。義光、だいたい把握はしているつもりだが最上家臣団の大雑把な紹介と輝宗の家臣団の紹介を頼む、それからじゃないと配属も出来ないからな」
「承知!では最上の者から行こう。最も左に座すのは存じて居るとは思うが氏家守棟、我が軍師だ」
戦国時代には少し珍しい鮮やかな青緑色の素襖を着た守棟が礼をする。
「その隣が成沢道忠殿、成沢城主で守棟の従弟だそうだ」
守棟の隣に座り、守棟の青緑色に対して紫の素襖を着ている初老の男が礼をする。見た所では守棟より年上にしか見えないんだけれどもこれでも弟らしい。
「その隣が天童城主、天童頼貞殿。そしてその隣が……」
「待て待て天童頼貞と言えば最上八楯の盟主で終始義光に敵対した武将じゃないのか!?義守派としてずっと戦ってたんじゃ……」
俺の知っている天童一族は一時義光と敵対する事はあったものの常に義守に付いている厄介この上ない武将なんだが!?
「如何にも、某は古きを重んじられる御隠居様に忠義を尽くす。そう心に定めて居り申したが、某がお仕えするのは羽州探題。羽州を守る、その義を差し置いてまで我を通し、亡国させるつもりは御座いませぬ」
要は羽州を守るっていう共通の目標があるから共闘しているって事か。なら君は羽州地方知事って所かな?
と鬼が笑い転げていそうな事を考えつつ次の武将の紹介を聞く。
「その天童殿の家臣、大力剛勇さではこの義光にも引けを取らぬ羽陽一の怪力男、延沢満延殿!」
「なんかやけに褒めるな」
いや?前口上が長いというべきか……
「この間天童殿から引き抜こうと出かけて行ったら逆に桜の木ごと引き抜かれて少々臆しておられるのです」
「ば、言うなと言っただろう!あろうことか天童殿本人の前で!」
「其れならば是非引き抜いて頂きたい所、その実、満延の剛勇さには某も手を焼いて居り……」
守棟、義光に頼貞のやり取りから大体事情は分かった。義光が満延の所に遊びに行ってとっくみあってビビッて庭にあった桜の木にしがみ付いてたらその木諸共引っこ抜かれたもんで命からがら山形城に逃げ帰って来たって話だな。あれ誇張だと思ってたんだけど……ほぼそのまんまだった。信じられないことに。
「そ、その隣が最上一門衆、清水義氏。とこちらも存じて居ろうな。その隣が我らが鮭殿……」
「鮭延秀綱殿です。まさか名に『鮭』があったから家臣入りを認めたとの風聞は真だったのですか?」
守棟がすかさず問いただすと……
「!……はて?」
……おい義光。
本当にこいつあの最上義光なんだよな!?接していればいるほど次々とボロが出てくるぞこの驍将!
敵だと厄介なのに味方だと頼りないって酷くないか!?
「今この場に居るのは以上だ。輝宗殿宜しくお願い致す」
いや待て、以上?守棟以外脳筋ばっかじゃねえか!もうなんかヤバい気しかしない!
軽く絶望した所に白い頭巾?のような綿帽子を被った中年武将が話し始める。東北でこんなもの被った人物と言えば誰だかわかるぞ……
「あいわかった!お初にお目にかかる航太殿!わしが伊達家十六代当主伊達輝宗である!」
良かった、こっちはちょっと威勢が良いお父さんキャラは崩壊していないみたいだ。俺の勝手な思い込みだけどな。
「わしの家臣の紹介であったな!わしの元に集うた者は年期の入った水も滴る名将揃いぞ……!」
前言撤回、なんだこいつ水も滴るって。輝宗は比較的伊達家の中でも普通かと思ったが……俺ごと撃て!とか言っちゃう人だもんなー普通な訳ないかー……
「まずは叔父上、宜しくお頼み申す!」
「承ろう。輝宗の叔父、伊達藤五郎実元と申します。」
輝宗の威勢の良さとは正反対の落ち着いた口調の武将が答える。こういっちゃ悪いが見た目は特に目立ったところの無い、普通の中堅の武将だ。
しかしこれでも御年56!年の割には若く見えるが、一門の長老であのムカデの父親でもある。でもムカデこと成実は政宗派だったような?
「次ぞ!留守爺殿!」
「留守爺……景宗が嫡男、留守相模守藤五郎顕宗じゃ。お手柔らかにお頼み申す」
おう早くも仮名が被ったな。早いとここれの対策も考えないとだ。
それと最初、何言いかけたこの爺さん。まぁちっちゃい丸いちょい笑いのセンスのあるみたいな爺さんってイメージなのは良く分かったが……伊達は伊達ってことか?留守家も準一門だし伊達に感染したんだろう。
「その子、留守六郎政景に御座います。お見知りおき宜しくお頼みします」
顕宗の子とは言っているが養子で純度100%の伊達一門。普通の家に生まれていれば相当活躍が目立っていた筈だが周りがやばすぎて目立たないが有能な若手卒業生。今まで伊達の長老ばっかだったから結構心配していたが、まだ足腰が元気な人が居て良かった。
「次……の遠藤殿は知って居ろうな。なればわしら伊達の誇る猛将!」
「鬼庭左月入道良直!!!!輝宗公のお味方として付いて参った次第!!!!」
バラバラバラと他の部屋から何かが崩れる音と小さな悲鳴が聞こえてくる。
黄色の綿帽子を被ったアクティブデコイ機能付き対人イージスシステムは慣れていない最上の人々には刺激が強すぎたようだ。
輝宗時代の伊達家の武のトップ、後に人取橋の戦いで殿として戦い二百人を道連れにした武勇90のエクストリームおじいちゃん。
現在伊達家中最高齢の筈だが鬼庭にしては若死にだったらしい。人間五十年とは何だったのか……
「そして最後!桑折殿!」
「それがしが紹介に預かり申した桑折摂津守宗長で御座いまする。どうぞよしなにお願い致しまする」
桑折……いかん、前がヤバ過ぎたせいでまるで思い出せない……何やった人だっけ?能力値は取り敢えず平均以上だったことだけは覚えてるが、それと老人組。
んんん?老人組?
伊達 輝宗:隠居父、四十歳手前。
伊達 実元:天文の大乱の原因物質兼ムカデ父、五十後半。
遠藤 基信:輝宗政権副大臣(政治外交部門)、五十ちょい。
鬼庭左月斎:人間イージスシステム。七十歳。
留守 顕宗:るすじいじゃ。六十四らへん。
留守 政景:希少な若手要員、三十半ば。
結論:輝宗派=老人組。
「ふざっけんなぁ!!ことごとく政治要員の伊達老人ばっかじゃねぇか!!オニニワイージスシステムが無かったら戦うどころじゃなかったぞ!いやあっても厳しい!若手どうした!?後藤とか原田とか!」
「お、お怒りの所失礼致しますが……某の名乗りが未だ……」
ん?老人じゃない?
でももう伊達家臣は終わりじゃなかったっけ?
「なんと!わしとした事が!薄石殿を忘れて居ったわい!」
「白石です殿、白石宗実で御座います」
「いやー政宗の元へ小姓を差し出したと言うた事を覚えては居ったのだが、如何せん影が薄い故、何度も忘れてしもうてのう白岩殿」
言った側から間違えてる輝宗。これも引退の一因なのか?
「もう何とお呼びしても結構です……」
と気落ちする宗実だが後に伊達姓を許されるぐらいには伊達家に貢献した名臣だ。
……そして伊達姓を許されるぐらいには迷将だ。三十歳頃まで父に政務を押し付けて京都周辺で遊んで来たり政宗が当主に任命されたが政宗に不足している家臣のリスペクト分を集めるために、娘を男装させて小姓として送り込んだり……
伊達姓に相応しい発想の飛び方だが武将としての才能は優秀な部類だ。実際男装の件も上手くいったお陰で政宗が存分に暴れられたわけだ。
いずれにせよ山形城が伊達家専属の老人ホームにならなくて良かった……だが、
日本ってのは昔っから頭のおかしい奴ばっかだったのか!!?
「申し上げます!!」
戦国時代の平時には基本、在り得ない会議中の部屋への伝令。いよいよ来たか。
「午の方に数多の兵が押し寄せて参りました!」
「旗は!?」
ヨシヒカリモードから帰って来た義光が大声で訊く。
「旗は『十六余菊』に『竹に雀』!!奥州伊達家の軍勢に御座います!!!」




