#61 先駆け、到着しました。
「旗は『十六余菊』に『竹に雀』!!奥州伊達家の軍勢に御座います!!!」
義光が先を促して静まり返った大部屋に左月斎以上に伝令の声が響き渡る。
否応なしに騒然とした空気を取り戻さざるを得ない大広間。
「皆の者!このままでは徒に時を費やすばかりぞ!ここはこの義光に代わって最上の主となった橋本殿の指示に従うのだ!」
事態の収拾を行ったのは義光、しかしとんでもない事を言ってくれやがった。
俺と義光、それに義光を追いかけて橋本の陣までやって来ていた守棟などは知っていたものの、その他の武将達にとっては初耳の最上家移譲宣言に最上家の武将はもちろん、橋本家の武将も驚きを隠すことはできないでいる。
「あー、言い損ねていたがいろいろあって最上家は橋本家傘下に収まった。だからと言って今の最上家を解体なんて事はしないので最上家臣団は安心して欲しい」
最上家臣側から安堵の声が聞こえてくる。がそれで全部はい分かりましたと行く訳がないので言葉をつづける。
「って言われても納得いかないだろうけども取り敢えず伊達を押し返すまでの間の辛抱だと思ってくれ。最上の力があれば押し返せる」
「さすれば我らはひとまず山形を守り抜けよう。我等最上を寡兵で討ち破りし『雷神』橋本殿が率いれば政宗めなど恐るるに足らんぞ!」
続ける言葉に困りかけた所に義光の激励が入って来て絶望的な空気が広間から払拭される。
しかし少しの間をおいて一人の武将が最大の疑問を投げかける。
「しかし我らは如何にして仮にも敵であった橋本殿を信ずれば良いのか?果たして橋本殿は真に最上の為に戦われると誰にお分かりか?」
未だ最上の武将の中に残るわだかまりを言語化した武将は紫の素襖の守棟の従弟、成沢道忠だった。紫という事以外ほとんど記憶に残らなかった道忠だったが、ピンポイントに重要な点を押さえに来た。
そして俺は完全に困った。確かに昨日まで敵だった橋本が今日突然味方になるどころか部隊を率いると言われたら確実にお家乗っ取りか何かを疑うだろう。某義道君でも気が付けるほどわかりやすい。
返答を何とかひねり出そうとしている俺に代わって最上家の疑念を一気に晴らしてくれたのは、数値至上主義のゲーム脳の俺からは予想もつかない人物だった。
「成沢殿、橋本殿は信じるに値するとこのそれがしが言い切れまする。それがしの身がその証拠に御座います」
清水義氏、橋本家で捕らえていた最上家一門衆の武将だ。能力値は至って平凡だったためにアテにしていなかったが、こんな所で現代の平和ボケが役に立つとは……
「……成程、確かに我らに仇成さんとする者がこれほどまでに敵将を気遣う事はありませぬな。橋本殿、何卒某の言葉は聞かなかったことに……」
「信頼してもらえて何よりだ道忠。他になんか『俺は認めねぇぞ!』って意見はあるか?今言いたければ言ってくれ」
大広間が沈黙する。特になさそうだ。または道忠が代弁してくれたおかげで全部解決したのか……はたまた隠れてるのか、いやそこは信頼しないとな。
「よし、じゃあ政宗軍の撃退作戦を考えるぞ。守棟、政宗軍の現状を教えてくれ」
「了解しました」
長かった。信頼確保がこんなに大変だったとは……大名ってすげー。
って作戦会議としてはこれからなんだけどな!今の正確な部隊数すら聞いてないとか……本当にこんなんで大丈夫なのか?俺。
「申し上げます!伊達軍の先駆けが城を取り囲み始めました!」
大丈夫じゃないな……これ!!
「後藤殿、山形へ一番乗り!後藤殿の部隊が山形城を取り囲み始めました!!」
「どうだ藤五郎!後藤が一番乗りだ!賭けは俺の勝ちだな、今日こそはお前の書いている軍記とやらを見せて貰おう!」
「ちっくしょう!!屋代のやつはどこで道草くってんだよ!あぁこれは何があっても見せねぇからなぁ!!」
巻物を持って逃げ回る成実を追いかけ回す政宗、そこに長身細身の武将が現れる。
大将と副将が鬼ごっこを始めてしまったために下がれずに居た伝令に下がっていいですよと声をかけ、本陣の中へと入っていく。
「飽きませんね二人とも。伊達家の主がこんな様ではなりませんよ」
「ああ!?小十郎か。後藤が一番乗りだ!これで山形も落ちる。俺達の完全勝利だぞ!」
成実を追いかけながら政宗が答える。それに対し小十郎こと片倉景綱がもたらした情報は政宗の予想を超えていた。
「勝利どころではありません。橋本が山形城へ入りました」
「「何!?」」
「それはどういう事だ小十郎!」
成実を追い回すのを中断して政宗が問いただす。
「最上義光と輝宗公の籠城される山形城へ橋本軍が入るのを確認したと黒脛巾の報せです。かの『朧車』も居るとのこと」
朧車、物語上のその響きに政宗が反応する。
「あの牛の無い車の事か……そのような面白い物を逃すわけには行かないな小十郎!」
「待て待て藤次郎!だいたいなんで橋本が山形に入るんだよ!?あいつら最上と戦ってたんじゃないのか!?」
「あーなーたーが、勝手に橋本に不戦の使者と称して手切れをしに行ったからですよ。何処かの百足頭の若様が喧嘩をしに行ったために敵に回さずとも良い橋本まで敵となったのです」
「百足では無い!!毛虫だ!!」
「藤五郎、お前少し前に逆の事を言っていたぞ」
と言いながら成実が死守していた巻物を広げ始める政宗、それに気が付いた成実が慌てて巻物を奪い返そうと政宗に頭突き。再び大将と副将の鬼ごっこが始まる伊達家軍議の場であった。




