#43 振り子、革命しました。
「つまり……あれは俺が降りてくる直前で歯車を回し始めて、その後天井に張り付いたって事か?音も立てずに天井に張り付くなんて忍者じゃないとできない芸当だな」
「そういう特技を持っている人も居るって事ですよ。からくりを活かしてやりやすくはしているんですがね……」
やけに砕けた人物だな……それこそ古さを感じないというか……
「……ちなみにからくりはどこで知ったんだ……?」
「江戸の町で出稼ぎをしてた時だな……親方から古い技だって教わった」
古い技?からくりは少なくとも戦国時代にはまだ無い技じゃ……?
「古い技……?からくりなんてこの時代には無いだろ」
「時代……という事は橋本さんはいつの生まれで?」
成程……そりゃあ頭が柔らかいと言われるわけだ。
この世界は転生者がそこら中に転がってるらしい、俺が転生しなくても初めから歴史通りには行かなかったのか。そして相手が転生者と知るや否や殿じゃなくなったな。
「2038年生まれで三か月ぐらい前に転生して来た。そっちは?」
「2038……丁度150年も先の未来……か。流石にその頃にはみーんな侍みたいになってるんかなーそれとも逆に侍なんてみーんないなくなっていたんですかね?ま、今の周りの状況はまさしく侍だったご先祖様の世界って感じですけどね。私めも転生して間もないですよ、そろそろ一月ですかね?来てみたら私さえ見た事も無い光を撃つ武器で戦うふらんすの将校みたいな格好の洒落た大名が居たもんですから驚きましたよ」
2038年の150年前だから1888年、悠香とは違って激動の時代生まれじゃないか。しかも聡明な人柄ときたもんだ。
「つまりはその頃に親方からからくり技術を教わったと。それでも物好きな、その頃の旧日本はそれどころじゃなかっただろ?」
相沢が生まれたという1888年頃だって憲法が出来たりといろいろあった頃だ。
「日本や世界はそりゃ大変でしたさ、私めが橋本さんぐらいの時はそれこそ露西亜の砲弾の嵐の夜にお船に揺られていたりと。でもそれ以外はのんびりした生活でしたよ」
ロシアの砲弾?まさか日露戦争最悪のバカ海戦(いや、発想は悪くは無かったんだけどな?)、旅順閉塞作戦の生還者なのか!?俺ぐらいの時って言ってたしな、とんでもない幸運持ちなのか?
「寧ろそっちの知識も活かしてほしい所だな。まあいいか、鍛冶屋ってのはどうなんだ?それなりにできるのか?」
「もちろんですよ!何せ転生した折に金屋子様から鍛冶の才を頂きましたからね!材料さえあればどんなものでも作れますよ!」
鍛冶の才、つまり鍛冶スキルだろう。素材だけで作れるっていうのも優良スキルだな。
……今からでもヘルメスの所に押しかけに行って何かスキルを貰って来たい所だ。俺も一つぐらいスキルが欲しい……
「なら是非とも作って欲しいモノがある。まずは……あれからだな……」
「材料はあるんですよね?流石に何もない所からは作れませんよ?」
「……盛安に何とかしてもらおう。アイツ無駄に鉱山は沢山持ってるからな」
戸沢家は実際に鉱山を多く支配している。無駄に戸沢家の好感度が高いから言えば貰えるだろう。前に欲しいものがあれば何でも言ってくれって言われていたしな。
「あるならやって見せますよ。それで何処に何を作ればいいですか?」
「作って貰いたい場所はそこに見える城じゃない大きな建物、工場だ」
そう言って大森の工場を指さす。
「ほえーこれはまた大きなものを建てましたね……あれも未来の技で?」
感心する相沢、本来転生仲間ってのはこういうものだと思う。悠香にも見習って頂きたい。
「まあそんな所だな。それで作ってもらいたいのは……『振り子』だ。それもできるだけ大きくて、メインの動力になるような」
そう、俺の考えたさいきょーの戦国大名橋本家。それは……
『振り子』を動力に産業革命を起こして他の追随を許さない経済を築いた橋本家だ。
後日、盛安にこの『振り子産業革命計画』の話と一緒に鉱物資源を回してほしいと言ったら二つ返事でOKしてくれた。これで「場所」「人材」「資源」の三つを揃え終わり準備が整った。何より最も困難だと予測していた人材が揃った所が大きい。
「振り子から動力を引き出す仕組みは中々苦心しましたができましたよ。本当にからくり様々ですね」
やりやがった……俺にもどうなってるのかわからないがどうも仕掛けは振り子時計のそれに近いらしい。少しずつ取り出す事を繰り返した結果しっかりとものを動かすだけの動力を引き出したらしい。
だがそれだけじゃとても工場全体で使うエネルギーを賄いきれないので動力源となっている大型振り子が何基も並べられている。これをすべて合わせれば多分、電力の導入までは持つんじゃないかな?蒸気なんて無かった。
「まさか文明開化の音というのは振り子の回す歯車の音とは思いませんでしたよ。これで何をつくるのですか橋本さん?」
「色々だな。武器兵器から建材までなんでもだ。悪いな、妹さんの事もあるのに酷使しちゃって」
「いえいえ、むしろこっちに来てから調子も良いみたいで食べ物にも困らずに助かってますよ。しかも仕えた先の御殿様がまさか私よりもずっと後の産まれだなんて誰が想像しましょうか。素晴らしき宿命です」
もしかしてこの人、若干詩人っぽい所入ってる?でもいいか。悪い気はしないし、何より振り子産業の中心人物になっていくからな。
「それなら良いが……これからはもっときつくなるけどよろしく頼むぞ!」
「了解です、橋本……ああ階級とかは無いんでしたね……つい軍属の時の癖で……」
敬礼する相沢、時代感が漂うな……俺の居た世界でここまで丁寧に意識している人なんていなかったな……正式な軍属じゃなかったのも関係してるのかもしれないけど。
そんな事を思いながら詳細な生産する製品の話に移る俺達だった。




