#42 鍛冶屋、登用しました。
百三段の戦い以降の赤尾津制圧戦は城に向かうと武将は逃げた、兵も逃げた、という調子であっけなく荒沢館と赤尾津城を押さえる事に成功した。逃がしたとはいえこれで羽川と赤尾津の残党に攻撃される心配もなくなり、敵対的な由利十二頭は八森城のエリアボス。矢島満安を残すのみとなった。
だがエリアボスはだてじゃない。矢島満安、または大井五郎は由利十二頭の中でも暴れ馬。俺の知っている限りでは仁賀保の当主を何代も連続して討ち取ったり、誇張されなくてもとんでもない豪傑だったと記憶している。
更に厄介なことに調略も抜かりない面から、突撃一筋の単細胞でもない事が分かる。これは狙撃するしかないかな……?でも流石に遠距離武器で戦う『雷神』は相当この辺じゃもう知れ渡ってるみたいだから出てこないか……?
そんな厄介事の種はまだ残ってはいるが、港が機能し始めて割となんでも手に入るようになって来たという事はヤツを本格稼働させられるようになったという訳だ。例の鍛冶屋にも大きく左右されるが、上手くいけばいよいよもって俺の悲願が一つ叶うかもしれないからヤツの始動は最優先事項だ。
「……以上だ。今の発表で名前の挙がらなかった者は俺の軍に合流して大沢までついて来るように。そこで当分の間の任地を発表するから、家族を連れてくるかどうかはそれぞれの判断に任せる。明後日の夜明け頃にもう一度ここに集合してくれ。それじゃ解散!」
仁賀保から雄物川の南岸までという大きさに成長した仁賀保県の臨時の人事を塩越城に戻ってきてから発表し、残りの人物に大沢城への移動命令を出す。それにしてもこの時代、どうしても移動に時間がかかるな……
大沢を出てそろそろ二週間、もう七月に入っている頃だろう。いい加減戻らないと大沢の内政がそろそろ進まなくなる。本当なら明日にでも出たかったのだが、それはちょっと武将に無理があるからな。明日は港でのんびりするとしますか……仁賀保の内政は重挙に任せて居るし俺が必要な案件が発生するのは港ぐらいだろう……
「こーたー海泳ごーよー!」
「俺は運動が大の苦手だ。それに足に矢を受けたばっかじゃねーか」
「それ治したじゃーん。ひーまーだーよー!」
「第一お前、水着はどうすんだよ。泳ぎたけりゃ勝手に泳いで来い」
何より俺は港の二階にわざわざのんびりするための六畳間を用意した。
何が言いたいかというと俺はここでゆっくりしていたいという事だ。転生から三か月、初の休日なんだから休ませて欲しいものだ。
しかしそう考えてみると前の世界は週一の休みは開戦までは守られていてそれなりに良かったかもな。でもこっちはこっちで良い所が多い。職業が大名ってのもあるかもしれないが今の今まで休みが欲しいと思ったことが無かったからな。多分仕事に対する満足度とか辺りが高いんだろう。
「でも航太ー!」
でもな、悠香よ……
「俺は部屋に居たいんだよ!百パーセント筋肉のお前と違ってな!」
「なっ!違うわよ!確かに運動は出来るけど!なんなら自分で調べてみてよ!」
「!#?待て悠香!こっちに跳びかかるな!」
ただでさえ軟弱な俺が潰れ……?悠香だから問題ないのか。
うおりゃっ!
悠香のスキルを受けつつ悠香を投げ飛ばす。
「ふゃわっ!?」
悠香を入口の襖の方へ投げ飛ばす。やべ、これじゃあ襖が壊れる。
すると襖が自動ドアのようにギリギリで勝手に開き……
「殿、河島屋の者が!?ぐぎゃっ!」
誰かに悠香が命中した。良かった、襖が壊れなくて……じゃねぇ!
「なっ!これは何事が……!?」
『誰か』の断末魔によるとおそらく商人であろう人物が突然の出来事に動揺する。当然そうだろうな。普通部屋の襖を開けると人が飛んでくるトラップなんて仕掛けないし。
「あ、あぁ……ちょっと曲者退治をな……それより大丈夫か伊予守!?」
悠香弾が命中した『誰か』は仁賀保港の管理を任せた芦田伊予守だった。港に居る武将は伊予守だけだから少し考えればわかる事ではあったのだが……
「なんとか……いえ、大事ありませぬ。それよりも殿、曲者退治とは殿の方こそ大事御座いませぬか?」
「あー今投げ飛ばしたやつだから問題は無い。海に行きたいって言ってたから適当にその辺に沈めておいてくれ。そんな事よりも河島屋の商人が俺に用があって来たんだろ?」
「仰せの通りにございます。河野丞殿、御用件を」
「河島屋の元締の河野丞にございます、仁賀保に訪れた河島屋の坂東よりお頼み頂いた件で鍛冶屋を連れて参りました。下で待たせて居りますのでどうぞ」
坂東、というのはあの海賊面の商人の事だろう。確かにそんな感じのイメージだ。
河野丞の後について一階へ降りると紺色の髪のやせ細った青年が居た。彼が問題の鍛冶屋だろう。だが前髪のせいで目が見えない。
「相沢殿、そなたをお呼びした橋本の殿にございますぞ」
河野丞がそう鍛冶屋の男に言うと少したってから……
「相沢……忠人……です」
ぎこちない動きに加えて……後ろかな?明らかに声が正面の男?とは別の所から聞こえてくる。
「忠人、これは歯車辺りのからくり仕掛けか?にしてはどんな仕組みで作ったのかが分からないな……」
「流石に無理だったか……ですが私めは妹の世話で家を長く離れる事が出来ないのです。どうかお許しを……」
俺とは全く逆の清々しい前のからくり人間と同じ紺色の髪の青年が天井からふって来る。忍者かお前。
「逆に言えば妹の事さえ解決すれば橋本家に来てくれるか?」
「私めは妹の世話さえお許し下されば構いませぬ……が、それだけは殿のご命よりも優先させて頂きますが……」
成程、確かにそんな事を言っていればどこの大名にも相手にされないわけだ。しかしこの男からは商人たちや武将から受けるものとは別の……言うなれば予想もつかないほどの神がかった才能を感じる。
初対面で自分の身代わりの人形で名乗りを上げるのだから相当な変わり者かつ天才だろう。普通そんなもの作れない。しかもからくりの専門職でもないのに……もう俺の心は決まっていた。
「許可……というより全力で支援しよう。それに武将として毎日働いてもらうというより技術的な面で支援してほしいって所だな。それで登用されてくれないか?」
「妹の助けとなるならば喜んで、この相沢忠人、橋本殿にお仕え致しましょう。すぐに越す準備を致します」
シスコンか?と疑うほどの妹思い。これほど善良な人間が臆病者と言われていた戦国の思想に疑問を感じながらも、隠れたお宝武将を発見したのでは?と内心ガッツポーズをせずにはいられない俺だった。




