#40 橋本家、北進しました。
「直に赤尾津の治める地に入りましょうぞ。ご油断めされぬようお頼み申し上げまする」
この間の公開評定の時に猛将の気配を漂わせた男、滝沢刑部少輔春永が報告に入る。山根館に入って貰って宣言通り、仁賀保県軍500人を率いてもらって居る。
これで仁賀保方面で動員している橋本軍は千人の大台を超えた。総勢1100人の部隊で赤尾津と羽川を倒して禍根を絶ち切る。当主を討ち取ったあの二勢力は特に橋本に対しては相当な恨みを持っているだろうからな……内政荒しをされないうちに対策しないとだ。
そこへ伝令が慌てた様子で駆け込んでくる。羽川の方の様子を探らせていた成武の伝令だ。
「ご報告致します!赤尾津光政の手勢が羽川の城にて大勝!羽川は最早風前の灯火にございます!」
赤尾津が……羽川を攻撃……?あの二勢力は同盟だったんじゃ……
ってそれを同士討させたの俺だったわ。完全に忘れてた。なら荒沢館の方は後回しだな。先に赤尾津の本隊を倒さないとだ。赤尾津と羽川の根絶が目的だからな。片方はもう完了したみたいだが……
「赤尾津の軍勢の数を知りたい。その調査を頼む……」
「はっ!遠目には足軽500足らずと言う所かと存じまする!」
500人程度……城に籠られると厄介な数だが野戦ならよほどの策士じゃなければ勝てるな……
「荒沢館はいったん無視、光政の本隊へ向かうぞ!」
そろそろ赤尾津と羽川の領土境の林を抜けようという頃、赤尾津の領地を縦断したが結局赤尾津軍の攻撃を受ける事は無かった。
どうやら本当に羽川を滅ぼしたらしい情報がここまでの移動中にも次々と入ってきた。
しかし……あれ、バレないとでも思ってるのか?
なんか林に入ってから横にずっとついてきている同じ茂みの頭が見え隠れしている。下手な隠れ方、だが俺は林の中で攻撃されていない事からこれの対処法を思いついた。
あれは多分だが、俺達が林から出た瞬間に林の中から安全に弓で攻撃しながら正面から赤尾津軍が突っ込んで来るという考えなのだろう。
それ以外だとどのみち対処のしようがないし、そうでもしないと倍以上ある部隊を倒せないからな。しかしただ気合だけで突撃しない辺り、意外と赤尾津にも知将は居るのかもしれない。
俺達の監視をしている恐らくは赤尾津の兵に怪しまれないように信本だけを呼ぶ。
「信本、どうやら俺達は包囲されているらしいが敵は俺達が林を出るまでは仕掛けないつもりらしい。そこでだ。全軍が林を抜けたら直ぐに林に放火してくれ。頼むぞ」
「っ!承知しました。しかしどのようにしてお気づきになったのですか……?」
「別に妙な事はしてないよ。なんかずっと同じ色と形の茂みが横に見えて、それが時々動いているみたいだから気づいた……」
声の大きさを絞りながら説明する。敵の数が分からないが、敵が気づかれていると判断すれば攻撃を仕掛けてくるかもしれない。
そうすると流石に被害甚大な未来が簡単に想像できるのでこちらが気づいて居る事を気取られないようにしないといけないからだ。
「殿、林が途切れております。このまま前進するので御座いますか?」
本隊に居る旧仁賀保の壮齢の譜代、菊池吉三が確認を取りに来る。
今回の赤尾津侵攻では港の管理役を任せた伊予守などの最低限の武将を残して全員連れてきている。大沢付近でも同じようなものだが、山を一つ越えたこのあたりには特に大沢民は不案内だからというのもあるが……主にそれぞれの武将がどんな感じの能力値なのかを見るためだ。
ゲームとはこれまた違い不便なことにこの世界では能力値が表示されないからゲームに登場していない武将なんかは全然わからない。どうもゲームに登場するのはその地域でも有名な方の部類の武将だけみたいだからな。仁賀保家臣なんて居ても一人だからな。
「各大隊に合わせて火を起こす用意を頼む。全部隊が抜けたらすかさず林に放火しろ」
「はっ……しかしそれではいざという時の退路が無くなってしまいますが……」
「詳細は今は伏せる。兵の士気に関わる事だからな」
無いとは思うが新参の武将ではあるので念のため、敵方のスパイだったとしても問題がない言い回しで説明する。実際士気に関わるというのは間違っては無いしな。
「かしこまりました。他に留意すべき事は?」
「味方が燃えないようにだけ気を付けてくれ」
「かしこまりました」
「全部隊退避済みだな?やれ」
林が途切れてすぐの所で林に放火、すかさず戦闘態勢指示をする。
「航太!正面に三階菱の家紋!赤尾津軍が来た!」
悠香の声、歴女を自称するだけあって家紋の名前はちゃんとわかるみたいだ。そして最近珍しさが減って来たまともな活躍。
「いつもそうやってまともでいてくれよ!頼むから」
「わかってるよ!そんな事より航太!号令!」
そうだ、自軍に指示を出さないと!
しかし赤尾津軍が突撃を……かけて来ない。何か予想が違ったのか。
だがもうここまで来たからには攻撃するしか……あ待った。
「左側の敵から潰す!仁賀保軍は右側の敵の注意を引き付けてくれ!可能なら倒しても良いが、無理だけはするな!」
「はっ!!」
揃った返答と共にすぐに動きだす部隊。良い感じだ。
赤尾津の旗は無いが、左右に騎兵が居て、僅かに光の反射も見える。どうやら赤尾津は俺がそのまままっすぐ突っ込んで来た所を三方から囲んで袋叩きにするつもりだったようだ。
つまり林の中に居たのは四方向完全に囲いきるためか、または敗走している俺に追撃を仕掛けるための部隊だったのだろう。500人と聞いていたが意外と同数ぐらいは居るのかも知れない。
何にせよやる事はひとつ。いつも通りチートヒーラーとチート大名を先頭に突っ込むだけだ。
もちろん敵の端っこからな。
「既に赤尾津の策は敗れた!無駄死にだけはするなよ、続け!」




