#39 港、開きました。
封建政治に風穴があけられて早一日。仁賀保県は選挙期間から俺の指示のもと進められていたとある町おこし計画の最終段階に差し掛かっていた……
「じゃ与助さん、宣伝よろしくお願いします」
「合点承知で御座ります。仁賀保の地の件もどーうぞよしなに……」
仁木与助、酒田に本店を構える『加賀屋』を率いる豪商だ。
どういう人脈なのかわからないが、重挙に今回の計画を話したところ、昔の伝手を辿って呼び出したらしい。
大きな青の半纏を羽織った初老の洒落たセンスの言葉遣いの与助、流石は豪商に上り詰めた商人だと思い返してみると今更ながら強者のオーラを感じて軽く鳥肌が立った。
「殿、大工の棟梁は一応殿の図面通りに作ったと申しておりまする。是非ご確認下され」
仁賀保旧臣から新たに加わった芦田伊予守が俺を呼びに来る。本来は伊予守というのは役職名の筈なのだが、どうも本人は自称している役職名を名前として扱ってるようなのでそう呼ぶことにしている。
「聞いていた通りの完成だな。見に行こう」
そう言って伊予守と橋本にとって工場以上に重要なある『施設』の様子を見に行く……
「殿、こちらで御座りまする……しかしいったいあの大きな……天秤の腕を付けた櫓は一体……?」
「クレーンだな。木製だから小さい上に強度不足のせいで持ち上げられるのは丸太数本ぐらいがせいぜいって所だが……停泊しているのは加賀屋の舟とどこの舟だ?」
「一つは加賀屋、もう一つは河島屋とか言う湊の商人と申す者らしいのですが……殿はご存知で?」
河島屋と言うと甚兵衛のもと居た店じゃないか!何でこんなところに?
「河島屋は知ってるぞ。前に家臣の一人、甚兵衛の居た店だ。でも甚兵衛は大森に居るからやっと橋本の勝利を聞いたばかりなんじゃないのか?ともかく河島屋の人は来ているのか?」
たまたま通りがかったのか、それとも甚兵衛が呼びよせたのか、どちらにせよこの好機を逃したくはない。
「複数の商人が来て母屋の中におります。お会いになりますか?」
「ああ、さっそく『港』が役に立ちそうだからな……」
伊予守に案内されて河島屋の商人に会う。
「橋本家当主、橋本航太だ。家臣が河島屋の名前を知らなくて待たせてしまって申し訳ない」
「いやいや別に大して待っておりませぬ上にどのみち加賀屋は逃してもうたからな……そいでも責めて仁賀保と商談の一つでも取り決めんと意気込んで上がったらいつの間に仁賀保は負けたんでさ?」
甚兵衛よりは壮齢の商人より海賊の方が似合いそうな商人が不思議そうに尋ねる。ま確かに一週間といっても普通の戦いにしちゃ早いし何より町が無傷だから不思議に思う要素は多いだろう。
「昨日橋本に降った。仁賀保様向けならこっちも一足遅かったな……で商談の中身について詳しく聞こうか」
「なんら怪しいもんでもないでさ、ただ材木なんかを買い回り、ついでになんか欲しいもんでもありゃあ取り寄せるっつうだけで御座いまっせ」
甚兵衛っぽい喋り方だな……若干違うが、甚兵衛もこの人物辺りに影響されたのだろうか?それより……
「今、取り寄せると言ったな?持ってこれる商品はなんだ?」
「そう言って頂けるとありがてえ。すぐに持ってこれるのは……まあ鉄器やら茶器やらだな……そのほかだと塩、刀、それとあれだ!泡を吹くっちゅうさいかちの実だな!最近何故かこのあたりでもよく見るようになってな……」
ああそれ多分犯人俺だわ。大森で工場のあれ以降次々見つかって調子に乗って売りまくっているからな……でもそうじゃない。
「いやそうじゃなくて鉄砲とか火薬やらはないのか?それと腕利きの鍛冶屋、できれば頭の柔らかい奴を紹介して欲しい」
いや相手はただの商人なんだけどな。でもそういう人物に関する情報が多いのも商人や酒場の相場ってものだ。
「鉄砲っつうと種子島か……ないことは無いが取り寄せねえときついな……それと鍛冶屋なら思い当たる節はあるが流石にタダじゃ教えられねぇな」
流石商人、情報すら売り物にする守銭奴精神が凄い。
「その情報、いくらで売る?」
「食いつきが良いなあ若殿!ま大した額じゃねーな一貫文(一千文、約10万円)ってとこだな」
まあそうなるよな。流石に対応は考えている。
「その鍛冶屋に作ってもらった商品は優先的に河島屋に売ろう。それで手を打たないか?」
「まいど!したら半分にまけてやる。払うか?」
「まあそんなもんだな。伊予守、手配しておいてくれ。俺は基本、金は持ってないからな」
「承知!では拙者はこれにて」
俺が頷くと伊予守が部屋を出る。そして河島屋の海賊面の商人に頭の柔らかい鍛冶屋について詳しく訊く。
どうやらその者は湊で鍛冶屋をやって居るがこんな日本の端っこじゃ儲けも少なく、ごくわずかな収入で何とか食いつないでいるらしい。都に出ようと思えば行けなくはないのだが、病気がちな妹を放っては行けないだとかなんとか。この時代にしては珍しい、家族思いだな。
だが周りからはそれ故に女々しいやら臆病者やら言われているそうだ。しかし海賊面の商人曰く鍛冶の事となれば少なくとも東国一、ひょっとすると日本一の才能と頭脳の持ち主なんだとか。
そんな予想外のお宝武将は是非とも橋本家に迎え入れたい所だ。だが湊を治めるのは檜山安東氏の愛ちゃんこと愛季とは対立しつつあるとはいえ安東氏。しかも安東家は戸沢家とは明確に敵対しているので完全に敵地である。
俺はそこに乗り込むような勇者じゃないのでおとなしく手紙だけ届けてもらう事にして待つことにした。別に手紙を既読無視するような人でもないので残りの由利十二頭領の制圧と内政を行いながらゆっくり待つことにしよう。
横槍が入らないうちに赤尾津と羽川に止めを刺しに行きますか……




