マッチョヒゲと遭遇⑤
「僕は、あなたが魔族なんて化け物じゃないって信じてた!でも聖女様にあんたが使う魔法について話したら、それは魔族だけが使える闇魔法だって言われた!あんたは俺をだまして、いいように使うつもりだったんだな!」
「違う!俺は魔族じゃない、人間だ!俺はただヴィートを立派な学者に!」
「黙れ!」
なんか男と女の修羅場みたいになってんな。めんどくせーから。ニアと一緒に恒例のタバコタイムに突入する。ラグは四つん這いになって「騙された!男の娘ぐらいの可愛さはあると期待してたんだぞ、俺は!」とわめいている。黙っとけ。
「何が人間だ!俺たちを殺す汚らわしい魔族の一員だったなんて!」
「違う!俺は人間だ!人間なんだ!」
「魔族よ、人間の土地から去りなさい。でなければこの場で滅ぼします。」
「聖女様!?」
グィンガンが絶望の声を上げる。お綺麗な聖女様は「まさか人間の土地に魔族が侵入しているとは。早急に魔王を倒さねば我々の平和が脅かされます。」と言いながら聖女様のみが使える神聖魔法を唱え始めた。
「…オレグよ。その魔族の動きを封じろ。」
おい、クソ勇者。俺に指図すんな。
「お前魔族だったのな。」
「ちがっ!」
「オレグ様!そのものに近づいてはいけません。深紅の瞳は魔族だけが持つもの。人間の皮を被ってもそれだけはごまかせません!」
聖女様が聞いてもいないのに答えてくれる。ご苦労なことで。
「…領主がお前のことを知っていた。お前の母親が魔族だったようだな。しかも人を魅了する力を持った。魔族であることがばれる度に迫害されて街を転々としていたらしいな。そしてお前が5歳の時に死んでしまったと。」
「そうです!母は魔族だった!でも人間を愛していた!人間を傷つけるつもりなんてなかった!俺だってそうです!俺は聖女様や勇者様を尊敬しています!そのための力になるのであればいくらでも!」
「黙りなさい、この愚かな魔族め!お前の魅了は私に効きません!」
「ぎゃあ!」
聖女が神聖魔法を放つと、グィンガンが悲鳴を上げて苦しみだす。
「魅了の力で私を操れるとでも!なんと愚かな!やはりここで始末するしかないようですね。」
「俺をだましてた魔族め。許せない!」
「ちがっ、違う。俺はただ人間として生きたいだけなんだ…。」
グィンガンが泣きながら訴えるが、メガネのガキは聞こうともしない。
「さぁ、あなたを浄化します。」
聖女がまた詠唱を始める。
「おいおい、待てよ。俺はこいつから金をもらう約束を。」
「オレグ!魔族をかばうのか!」
「いや、そうじゃねーよ。」
「オレグ様どいてください!」
「いや、だから。」
ホント勇者様と聖女様は頭が固い。とりあえず頭を冷やさせるかと思い水魔法を詠唱していると「あんたは俺が殺してやる!」と言ってメガネのガキが詠唱なしの魔法を放ちやがった。さすが大学で優秀な成績収めてるだけはあるな。
「でもおせーぞ、クソガキ。」
その魔法を防ぐ障壁をグィンガンのまわりに張る。ガキの魔法が当たると同時に小さな爆発が起こるが、俺が作った障壁には傷一つついていない。
「なんだお前!」
メガネのガキが唾を飛ばしながら聞いてくる。汚ねーな。
「オレグ様!なぜ魔族などをかばうのです!」
聖女様が悲鳴じみた声を上げる。めんどくせーと思いながら事情を話そうとしていると、泣き崩れるグィンガンの前にラグが立っていた。
「おい、偽物の男よ。その魔族を始末するのだ。」
勇者がラグに命令する。あいつがそんな命令聞くかと思っていたが、鞘から剣を抜きやがった。
「おい、ラグ!」
俺が声をかけても返事をしない。
「ラグさん!」
「ラグ!」
サフィーナとニアの声にも反応しない。
「さぁ!やるのです!」
聖女の声と同時にラグが剣を振り下ろす。
「ラグ!!」
どうしちまったんだ、あいつ!!
ゴンッ!
俺がダッシュでラグたちのもとに駆け寄ると、鈍い音がした。ラグは剣を横にして、平らな面をグィンガンの頭に思いっきりたたきつけてやがった。
「うごぉっぉ!」
グィンガンがべしゃっと地面に倒れこむ。
「お前よぉ!!何が可愛い弟子だよ!ただの野郎じゃねーかよ!俺ちょっと期待してたんだよ!男でもめっちゃかわいいじゃないかって!なぁ!返せよ、俺の期待感!なぁ!俺のわくわくを満たせよぉぉ!!」
ラグが座り込んで、グィンガンの首元を掴みぶんぶんと前後に振り回す。
「うごぉ、ちょ、やめ!」
グィンガンがストップをかけるが、号泣しているラグは気づかない。
「いや、俺もともとお前のこと気に入らなかったんだよ。なんか妙な色気持ちやがって!お前女に不自由したことねーんだろ!くそがぁ!」
なるほど、やけにグィンガンに当たりが強かったのはそういう理由か。
「お前の弟子、服のセンスも髪型も壊滅的じゃねーか!」
「な!」
突然引き合いに出されたメガネのガキが声を上げる。
「何が愛弟子だ!魔法だって大してうまくねーぞ!俺の方が強いわぼけ!」
うそつけ、お前火を起こす魔法もまともにできねーじゃねーか。
「大体師匠に失礼なこという弟子なんて弟子じゃねーわ!そんなもんさっさと捨てて可愛い女の子を弟子にしろ間抜け!」
「ふべっ!」
ラグがグィンガンの頬をビンタすると、グィンガンが力なく崩れ落ちた。しかし、すぐに起き上がり「お前は魔族が怖くないのか?」とラグに尋ねる。
「は?何いってんだ、お前。とりあえず弟子探しは終わったんだからまず金払え。んで魅了かなんかの力があるんだったら俺が女の子誘うの手伝え。」
「ははっ。」
顔をくしゃくしゃにしたグィンガンが笑う。
「俺のこと、化け物って言わないのかお前は?」
「あ?まさかお前自分が化け物並みに強いって言いたいのか?あほったれ、俺のほうが強いわ!」
「ははっ、あはは。」
グィンガンは号泣しながらもそれはそれはうれしそうに笑っていた。
「あなた、魔族に肩入れする気ですか!!」
まだ面倒な奴らが残ってたな。
「は?魔族とかでうでもいいわ。こいつ女の子に声かけるための必要なんだよ。」
ラグがむっとして聖女様に返す。
「愚か者め!お前ごと始末してやる!」
ニコーラが神聖武器の矢を構える。
「ニコーラ、やめて!」
サフィーナが前に飛び出す。
「姉さん!あなたが歌姫なんて嘘に決まってるわ!それをここで証明してあげる!」
「ニコーラ!」
サフィーナに渡しておいた琥珀の牙がカッと光り、変身しそうになるが、俺がさらに前に出てやめさせる。ここでラグを興奮させるめちゃくちゃめんどい。
「ニア、グィンガン回復しろ。」
「もうやってるよ!」
俺が言う前にに、ニアが拳をグィンガンの脳天に振り下ろす。一瞬痛そうな顔をしていたが、すぐに傷が癒えたことに気づいたようで、その場に立ち上がった。
「魔族なんでどうてもいいなんて馬鹿な奴だ。」
「んだと、この変態!」
ラグが怒鳴るが、グィンガンは笑顔だ。
「お前たちが俺を認めてくれるなら俺も少しは魔族の自分を受け入れないとな。」
グィンガンがつぶやく。
「ヴィート、だまして悪かったな。」
「…うるさい、魔族め!」
メガネのガキはいまだ怒りがおさまらないようで、強力な炎魔法の詠唱を続けていた。
「死ね!魔族!」
そしてそれを俺たちに向かって放つ。
「ちっ!ラグ、ニア、サフィーナ!俺の後ろに来い!」
「ぎゃああああ!」
ラグが全速力で駆けてくる。
「ヴィート、元気でな。」
グィンガンが小さな声で言うと同時に右手を軽く振る。すると、巨大な火の玉が一瞬で掻き消えた。おいおい、どんだけ強い魔力持ってんだ。
「なんだい、いったい。」
ニアが茫然とつぶやく。
「っ!魔族が逃げるぞ!」
「オレグ様!」
次にグィンガンが左手でパチンと指を鳴らす。すると、地面に黒い穴ができる。おっと高位の転移魔法か、こりゃ。俺たちはそこに吸い込まれていった。
グィンガン
性別:男
種族:魔族
職業:学者
技:闇魔法、魅了
スキルレベル:99
特徴:モテる




