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きみと私の放課後  作者: はる
悠太と彩
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悠太の一日・1

 朝練を終えて、部室で着替える。

 あー、めちゃくちゃ腹が減った。耐えがたき空腹感。

 弁当とは別に握り飯を持ってきているが、それを今食ってしまうべきかどうか悩む。

 もちろん今すぐ食いたいけど、そうすると昼休みまでの休み時間に食うものが減ってしまう。昼までに俺の腹はそれで耐えられるのか? 深刻な問題だ。

 今日弁当以外にあるのは、握り飯三つにプロテインバー。箱入りで四本入っている。

 今握り飯を一つ食って、一限と二限の休み時間にも握り飯を一つずつ。三限の休み時間にプロテインバー。……これでいけるか?

 午後の休み時間に食うものがなくなるが、それはまた昼休みに購買で買おう。そうしよう。

 解決した! 俺は安心して着替えつつバッグから巨大な握り飯を取り出し、ラップをはがして食いだした。


「そういえば悠太」


 すでに着替え終わって携帯をいじっていた同級生に声をかけられる。


「あー?」


 飯をほおばっているのでまともに答えられない。


「こないだのS女の女子がお前の連絡先知りたいって言うから教えといたで」


「んー? ……誰やそれ」


 飯を飲み込んでようやく答える。S女? あの制服が特徴的な女子校か。


「もう忘れたんかよ。お前がなんかドリンクバーでやらかした女子をフォローしとったやんか。あん時の女子、目がハートになっとったで。その子がお前の連絡先知りたいって」


「ドリンクバー……」


 何か思い出しそうだ。

 ……ドリンクバー……があるような場所に行ったのは……最近だと……

 どす黒い変な味の冷たいドリンクを一気飲みした記憶がよみがえる。


「あー、あのメロンコーヒー」


 先週、友人たちと三対三でS女の女子と会ったことを思い出す。

 もちろん、普段の俺たちは土日も含めて毎日部活三昧だから、女子と遊ぶ暇なんてあるわけがない。

 しかし、そんな俺たちにも時間ができる時がある。

 それが定期テスト期間だ。

 その間は部活が休みになる。当然休みになるのは、勉強しろってことなんだが、おとなしく勉強するような俺たちではない。

 そんなわけで誰かがセッティングして、俺たちはS女の女子と遊ぶことになった(表面上は勉強会だ。)

 ファミレスで適当に喋るくらいで、特別何かしていたわけでもないんだが……

 その時、通路側に座っていた女子がやらかした。

 その女子は、ちょっとどんくさいみたいだった。

 紙ナプキンを取ろうとして腕を伸ばしたら、服の袖をグラスにぶつけて水をこぼしたり、グラスが空になってるのにストローでずっとジュースを飲もうと吸い続けていたり。

 その女子が、ドリンクバーで飲み物を取ってくる時に、他の友人に炭酸とジュースを混ぜたドリンクを作って来てくれ、と頼まれていた。

 いいよ、と言ってその女子が作ってきたドリンクは、どう見ても混ぜるものを間違えたようにしか見えない毒々しい色をしていた。

 周りのやつらに何だこれ、と笑われていた女子が、笑って返すのではなく申し訳なさそうに小さくなっていたので、めんどくさいな、と思った俺はそのドリンクを勝手に奪って一気飲みした。

 味はまずかった。おそらくメロンソーダとアイスコーヒーのちゃんぽん? クソまずいけど、そんなことをその場で言っても仕方ない。


「んー、思いもよらんコラボっちゅーもんはこういうところからできるんかもなー」


 適当にそんな風に言って笑いを取り、その場は収まった。と思う。

 あの時の女子か。

 俺は部室で、同級生に肩をすくめてみせた。


「別にフォローもなにも。あのままやったらあれ捨てられそうやったからな。食いもん……いや、飲みもんか。捨てるんもったいないやんか。だから飲んだだけや」


「お前がそんなんやから、女子にしたらお前が王子に見えたんやろ! ま、連絡先は教えといたから、あとはよろしくやってくれ」


「よろしくねえ……」


 俺は握り飯をもうひとかじりした。

 別に俺も健全な男子高校生だから、女の子とうまいことやりたいという欲求は当然ある。

 当然あるが……

 でも付き合うとかめんどくさいんだよな……

 まず束縛されるのが嫌だ。常に連絡しないといけないとか、部活がない日は会わないといけないとか、勘弁してほしい。

 だからと言ってその場限りで遊ぶとかそこまで思いきれるわけでもない。

 うーん、考えるのがそもそもだるい。

 そうこうしているうちに携帯が鳴り、おそらくその女子からと思われるメッセージが通知画面に映し出された。

 これはどうすべきか。

 いや、当然ここは、現時点ではスルーだ。なんたって俺は今握り飯を食っている。それより優先することなんて俺の人生にはない。

 俺は携帯をバッグの中に放り込んだ。





 昼飯を食って、午後は移動教室だったので校内を歩いていた。

 昼飯……食ったけど全然足りない。購買でコロッケパンとカレーナンを買って追加で食ったけどまだ入りそうだ。

 午後、どう乗り切ろうか……

 そう考えていると、渡り廊下の隅っこで知っている後姿が見えた。

 視界に入ったのは一瞬だったけど、あの髪の感じや後ろ姿、間違いない。

 俺は迷わずくるっと体の向きを変えた。


「おい? 悠太?」


 一緒に歩いていたクラスメートが俺を振り返る。


「あー、俺便所寄ってから行く。先行っといて」


「おー、分かった」


 俺は大股で歩いてすぐにその人に追いついた。


「彩さん」


「えっ?」


 彩さんは友達と二人で歩いていた。彩さんの隣にいるこの人は彩さんのクラスメートだな。いつも一緒にいるから顔を覚えている。その女子生徒と並んで歩いていた彩さんは、大きく目を開けて俺を振り返った。


「あ、ユウくんやん」


 俺を見てにこにこ笑っている。

 その彩さんに向かって、俺は無言で手を差し出した。

 彩さんは俺の手を見て、ふふっと笑ってから制服のポケットに手を突っ込んだ。


「あのねえ、今日はチョコマシュマロやで! マシュマロの中にチョコ入ってるなんて最高のお菓子やんね!」


 個包装のマシュマロを取り出した彩さんは、俺の手のひらにそれを置いた。

 そんな俺たちの様子を見ていた彩さんのクラスメートが不満そうに口を開く。


「こら、二年生! 先輩相手に無言でお菓子要求するとか失礼なんちゃうん?」


「待って、茜、大丈夫やって。ユウくんこういう子やから。別になんも悪気とかないねんで? ただめーっちゃ食いしん坊なだけやねん」


 俺は何も言っていないのに、彩さんが慌てたようにフォローする。別にそんなことする必要ないのに。


「ユウくんって甘いん好きなんやねえ。結構前やけど、溶けたチョコでも平気で食べてたし……あまーいキャラメルとかも大喜びやもんね。男の子って結構甘いん苦手なんかなって思ってたのに、ユウくんは全然そんなことないんやね」


 微笑みながら話す彩さんが何を考えているのか、手に取るように分かった。

 部長か。

 あの人はあまり甘いものを食わないから。


「そ。俺は甘いんでも辛いんでも苦いんでもすっぱいんでもなんでも食えるからな。菓子も与えがいあるやろ」


「あは、ほんまにそうやねえ」


 話していると、予鈴が鳴った。


「あ、行かんと。そしたらね、ユウくん」


「おー」


 クラスメートと去っていく彩さんの後ろ姿を眺める。

 ……まったく、あの人は今からだって部長と顔を合わせるんだろう。だって同じクラスだから。

 毎日同じクラスで会って、同じ委員で仕事をして、そして帰りも一緒に帰る。

 ほぼずっと一緒にいるようなもんなのに、こんな風に一瞬、部長がそばにいなくなった瞬間でもあの人は部長のことを考えているのか。

 ……あー、しょーもな。

 彩さんにもらったマシュマロの袋を破って、チョコマシュマロを口に放り込む。

 マシュマロは一瞬で口の中で溶けて消えてしまった。

 何だこれ。

 これだったら飴とかキャラメルの方がましだな。もう少し口の中に残ってくれる。

 マシュマロは駄目だ、一瞬でなくなってしまう。

 こんなんじゃ腹が膨れるはずがない。





 放課後、部活のために着替えていると、また同級生につつかれた。


「おい悠太、返事したんか? ユアちゃん!」


「ユアちゃん?」


「お前の連絡先聞いてきた子やって! すぐ連絡来たんちゃうんか」


「あー……」


 そういえばメッセージが来てたっけ。見てなかったけど。

 バッグから携帯を取り出しメッセージを開く。そのユアちゃんから、『良かったらまた遊びませんか?』と誘いが来ていた。


「うまいことやったよなー。全然わざとらしくなく女の子助けたりして。どうすんねん。付き合うんか?」


「そんなん言われてもなあ……」


 あの時、全然助ける気がなかったと言えば嘘になるけど。

 だってあの……ユアちゃん。本人に悪気なくどんくさいところが、何だかあの人の姿とかぶったから。だから何となくフォローしてしまったってだけで。別に特にあのユアちゃんに気があってそうしたとかそんなんじゃないし。


「ま、返事するんならはよしたれよ」


 同級生は悔しそうに俺の肩をバンバン叩いて部室を出て行った。

 うーん、ユアちゃんなあ……

 会って気が紛れるのならそれでもいいのかもしれないけど。

 そこまで考えたところで腹がぐう、と鳴った。

 あー、やっぱり腹が減った。

 考えるのはやめよう。

 返事はまたそのうち、ということにして、俺は携帯をバッグに入れ、ロッカーを閉めた。


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