雪かきボランティア・2
午前中いっぱいかけて、ようやく道路から玄関までの除雪を終えた。
私たちはもうへとへとだったけど、まだ仕事は終わりじゃない!
午後は屋根の雪下ろしと、落とした雪の除雪……
ああ、一日って長いなあ……
私たちはそこの家の居間でおにぎりとぜんざいをごちそうになっていた。
おにぎりは役場の人が用意してくれたもので、ぜんざいはそこの家のおばあさんが私たち全員分を作ってくれた。
「えらい助かったよ、ありがとうねえ」
おばあさんはぜんざいを食べている私たちを見てにこにこ笑った。
おばあさんはこの家に一人で住んでいるらしい。そりゃ、こんな大雪のあとの除雪なんて、おばあさんには無理だよね……
居間の窓から外を見ても、真っ白な雪しか見えない。雪、きれいだと思ってたのに……今は絶望のしるしみたいだ……
だって、この雪、全部片づけないと帰れないんだよね?
ああ、ぜんざいの甘さがこの地獄を一瞬忘れさせてくれる。あったかさが全身に染み渡る。おいしい……
カナくんは勢いよくぜんざいを飲み干した。
「ばーちゃん、午後も俺らに任しときな! 屋根の雪もすっきりさっぱりなくしたるからな!」
「ほんまにありがとうねえ。家から出られへんし、雪はどんどん増えてくし、このままこの家、雪の重みでつぶれてまうかと思ってたんよ」
雪の重みでつぶれる!? 雪ってそんなに重いの!?
いや、確かに除雪中、雪がものすごく重たいからびっくりしてたけど……
そっか、シャベルひとかきの雪だってあんなに重たいんだから、その何十倍、何百倍の雪が屋根に積もってたら……そりゃ、そのうち家もつぶれちゃう。
そんなことになったら大変! おばあさんを助けないと!
おばあさんの話を聞いて私たち全員使命感に燃えた。
すでにへとへとだったけど、でもこの家の除雪だけは絶対に今日終わらせる!
そして午後の除雪が始まったんだけど、屋根の除雪はさすがに私はやらせてもらえなかった。
役場の人をはじめ、カナくんや運動部男子が屋根に上り、命綱をつけて屋根の雪を落としていく。
い、命綱……! 怖い。落ちたら死ぬってこと!?
確かにニュースで、除雪中に屋根から落ちて人が亡くなったって見たことあるけど……今目の前でそんな危険な作業をしてるんだってことがもう驚き。
雪国の生活って大変なんだなあ……
カナくんたちが屋根の雪を下ろしている間は、危ないから屋根の下には近付けない。落としてる雪もかなりの重さだからね! もし落ちてきた雪がぶつかったら怪我しちゃう。
なので、雪下ろしをしないメンバーは、午前中に道路から玄関まで作った道をもうちょっと見栄えよくきれいにしよう、と、ちまちま除雪を続けていた。
そんなことをしていると、道路にワゴン車がやってきた。
あれ? 何だか見覚えがある車……
そう思ったら、ワゴン車からユウくんや他の生徒が降りてきた。
「あれ? ユウくんや」
私が声をかけると、ユウくんが私に気付いて近付いてきた。
「おー、まだやっとるやん。あ、カナのやつ屋根に上っとるんか! ええなー、俺が行ったところ、屋根はやらせてくれんかってんよな」
「どうしたん? なんでこっちに」
「俺らの班、もう終わってん。だから他の班の手伝いに来たってこと。俺も屋根上りたい!」
ユウくんがカナくんの方に近付いていこうとしたので、私はよけるためにちょっと体を引いた。
そうしたら、地面に残っている雪の塊に足を取られてずるっと滑ってしまった。
「うわっ」
ユウくんがそれに気付いて、すぐに私の腕を引く。
でも、ユウくんも普段とは違う溶けかけた雪が残った道に足を滑らせて、私たちは一緒に除雪してできた雪の壁に突っ込んでしまった。
ざり、という感触と共に全身が雪の壁に投げ出される。
うう、やっぱり雪の壁はちょっと固い……
でも普通の壁に激突するとか、地面に転ぶのに比べたら全然衝撃はなかった。
私と一緒に雪の壁に体の前の方から突っ込んでしまったユウくんは、ぶるぶると顔を振って頭についた雪を払った。
「うおー、滑った!」
「あは、ほんまやねえ」
「つーか、この雪があるんなら、彩さんがこけても雪に支えられて大丈夫やったってことか。俺までこけて助け損やー」
「でもここに雪あって良かったね! こけても怪我せんくて済んだもん」
「それもそうか」
ユウくんはぴょん、と雪壁から起き上がり、私の腕を引いて私も立たせてくれた。
「んー、やっぱり雪道は慣れてへんからトラップに引っかかるな……」
「トラップって。ただ雪で滑っただけやん」
「それがトラップなんやって!」
「でも雪壁に埋もれるん、けっこう楽しくない? もう降った直後の雪ちゃうからそこまでふわふわちゃうけど、石みたいに固いわけちゃうから安心感あるし」
私が雪壁をふわふわ叩きながらそう言うと、ユウくんはふむ、と顎に手を当てて一瞬考えた。
それからすぐに私の体を抱きかかえた。
そのあまりに自然な動作に、私は一瞬何をされたのか分からなかった。
「……え!? ユウくん!?」
「ほれ、彩さん、ちゃんと受け身取りや」
そう言ってユウくんは勢いをつけ、何と私を庭に積もった雪の上に放り投げた。
えええええ!?
私の体は宙をふわっと飛んで、そして真っ白に積もった雪の上にぼすん、と背中から着地した。
「え、えええ? これ、どういうこと!?」
「えー、彩さん、痛かったか?」
「……ううん、痛くはなかったけど……めっちゃびっくりした」
ユウくんはすぐに自分も雪壁に手を当てて勢いよくジャンプし、私のところまで転がってきた。
「おおー、そこまで体沈まんな。やっぱり雪固まってんねんなー」
「いやいや、なにしてんの!?」
「彩さんが雪に埋もれるん気に入ったみたいやから、この雪壁の上を見せてやったんやんか」
「それにしたって……」
そこで私は初めて周囲を見渡すことができた。
今まで、この家に着いてからは、視界は全部雪の壁に阻まれていて、周囲の状況なんて何も分からなかった。たぶん周囲はどこも1.5mくらい雪が積もっていたから。
でも今、ユウくんに雪壁の上に乗っけられて……初めてこの家の周りの状況を見ることができた。
いや、辺り一面雪景色なのは何も変わらないんだけど。
でも遠くまで見通せる!
今目の前にあるのは雪の壁じゃなくて、遠くまで一面真っ白な……雪原? おそらく田んぼに雪が積もってるんだろうけど、遠くの山のふもとまで平らな雪原が広がっていた。
そしてその上には真っ青な空。
え……何これ、ものすごくきれい……!
「……すごいね! 雪の上からやったら、こんな遠くまで見えるんや……!」
「おう、ええ眺めやんな」
私たちが話していると、屋根の上からカナくんが大声で叫んだ。
「あ、おい、お前らだけずるいぞ! 面白そうなことやりやがって!」
そう言いながら、カナくんは手に持っていたシャベルを近くの雪にグサッと差し込んだ。
それから命綱をガチャッと外し、そのまま屋根の上から私たちのいる庭に積もった雪の上にジャンプしてきた。
「カナくん!」
カナくんが雪の上に飛び乗ると、ぶわっと雪煙が上がった。
何てことするの……!
役場の人も呆然とカナくんを見ている。
「うおー、はまったー!」
庭の雪の上で、カナくんは下半身全部が雪に埋もれた状態で声を上げた。
……無事だった!
まあ、初めから1.5mの雪が積もっていて、更にそこに屋根からどんどん雪を落としていたので、実は屋根から落として溜まった雪まで、手が届きそうなくらい雪は積みあがっていた。だから屋根から雪までの高低差はあまりないといえばなかった。
それにしたって豪快すぎる!
ユウくんはあきれたようにカナくんの方に近付いた。
「お前アホすぎやろ。なにしとんねん」
「俺やってこの雪の上転がりたい!」
ユウくんが手を出すと、カナくんはユウくんの手を握って引っ張ってもらい、下半身を雪から出した。
やることがめちゃくちゃすぎ! 私も周りにいる人たちもみんなあきれていた。
「屋根の上からでも見えとったけど、めっちゃええ景色! お前らも見といたほうがええで!」
カナくんが声をかけ、下にいた生徒も何人かは雪の壁を上ってきた。
大丈夫なのかな……と役場の人の方を見ると、役場の人は苦笑しながらちょっと休憩やな、と言ってくれた。
ああ、心の広い人で良かった……!
少しだけ安心して、私は雪の上に仰向けに寝転んでみた。
視界には青い空しか入ってこない。ちょっと視線を動かせば、光を浴びてキラキラ光っている雪景色。雪は冷たかったけれど、体が熱くなっていたので寒くはなかった。
……すごいなあ……本当に、普段暮らしているところとは別世界だ。こんな場所が、近く……というわけでもないけど、同じ県内にあるんだなあ。
私が寝転んだのを見て、ユウくんもどさっと仰向けに寝転んだ。するとつられてカナくんも寝転ぶ。
「なんか……めっちゃきれいやね」
「汗かいた体に雪が気持ちええな」
雪は大変。雪は重い。雪は怖い。でも雪は柔らかくて安心。雪はきれい。
全部今日、初めて知った。
「雪かきって重労働なんやねえ」
突然カナくんががばっと起き上がった。
「は! 俺は雪かきなんかなんってことないな! さ、屋根の雪全部下ろすぞー!」
「おい、俺もそれやりたい。俺も屋根上る!」
ユウくんも起き上がる。
「よーし、どっちが素早くきれいに雪下ろせるか競争や!」
「任せろ。俺が完璧な仕事見せたる!」
二人は顔を見合わせてニッと笑い、素早く雪壁から降りた。
そして屋根の上にいる役場の人に大声で声をかける。
「雪下ろし要員一人増えました!」
屋根の上で休憩していた役場の人は、苦笑いしながら立ち上がった。
「それは助かるけど。……でも命綱は外したらあかんで。それ全然意味ないからね?」
「はい!」
めちゃくちゃいい声で返事をして、二人は屋根に上るために家の脇のはしごの方へ走っていった。
……うん、この二人がいれば、ものすごい速さで除雪も終わりそうだな……




