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きみと私の放課後  作者: はる
悠太と彩
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雪かきボランティア・1

 朝が早かったので、バスの中ではぐっすり眠っていた。

 周りの空気がざわざわし始めて、バスが速度を緩め、大きくカーブしていくのを感じて、ああ、目的地に着いたんだな、と思った。

 そこでようやくまぶたを開けた私は、窓の外の景色を見て大きく目を見開いた。


「え……え、すごーい!」


 私の周りにいる他の生徒も、みんな同じような反応。

 窓の外は一面雪景色だった。

 青い空の下、真っ白な山が遠くに見える。

 目の前には、こんもりと雪が積もった平屋の施設。

 道路も除雪はされているんだろうけど、黒いコンクリートの上にうっすらと雪が積もって、そのまま凍ったような膜になっている。

 初めて見る景色に一気にテンションが上がった。

 すごい! 同じ兵庫県内でも、私たちが住んでいる海沿いと、県の中部ではまるで国が違うみたいに知らない景色が広がっている……!

 バスの前方に座っていた教師がマイクで生徒に指示を出す。


「これからバスを降りるから。みんなバスの中はあったかかったと思うけど、外は全然違うからしっかり着込むように! それから外は道が凍ってるから、転ばんように気を付けること!」


 私たちははあい、と普段より大きな声で返事をした。

 うわ、うわ、早く外に出たい! 今日参加して良かった! と心から思いながら。





 私たちは今日、有志で除雪ボランティアに来ていた。

 貴重な土曜ですが!

 強い寒波が日本列島を襲って、どこもかしこも例年では考えられないような大雪になった、とテレビのニュースで言っていた。

 そうは言っても太平洋側、海沿いに住んでいる私たちには関係のない話だなあ、雪の降る地方の人は大変だなあ、とのんきに考えていた。

 そうしたら、学校で、希望者を募って除雪のボランティアをしに行く、という企画があった。

 えー、何それ! めっちゃ行ってみたい……!

 たぶん戦力として求められているのは運動部の男子とかなんだろうけど。非力な私は全然役に立たないかもしれないけど。

 でも除雪自体は役に立たなかったとしても、後方支援ならできるはず……! と自分に都合よく解釈して私はボランティアに申し込んだ。

 メンバーには、もちろん晴くんもいる。それから、晴くんに命令されたのかどうかは定かじゃないけど、カナくんやユウくん、その他の男子ハンド部員もいた。うん、彼らならちゃんと活躍しそうだ……

 女子も、男子ほどじゃないけど結構な人数が参加していた。十人くらいいるかな? 運動部の子や、田舎が豪雪地帯だから除雪経験あるよって子もいる。

 みんなほぼ除雪に関しては素人だけど、でもエネルギッシュな高校生がいっぱいいるんだから、ちょっとは役に立てるといいな、と思った。





「うっひゃー! すげー!」


 バスを降りたら、カナくんは一瞬で駐車場わきにある雪の山に走っていってダイブした。途中で滑って転びそうになりながらもバランスを取って走ってるのを見て、さすが運動神経がいい……! と感心する。

 バスを降りた途端、冷たい空気が頬を刺した。うわ、寒い、っていうより冷たい!

 息がものすごく白い。それだけここ、気温が低いんだ。こんなに青空で晴れてるのに。

 そんなことお構いなしにカナくんは雪山に突っ込んで、全身雪まみれになって大喜びだ。いつの間にかユウくんも同じように雪山に全身でダイブして、二人して大笑いしていた。

 ダ、ダイブ……

 普段だったら、子供っぽいなあ、もう! って思うんだけど、今回は違う。

 真っ白な雪の山に、私もダイブしてみたい……!

 たぶん周りにいた子、みんな同じ気持ちだったと思う。

 うわー、つるつるー! と言いながら駐車場を歩き、みんな雪山の方へ向かった。

 私もよろよろしながら雪山へ向かう。

 すんごい大きな雪山だ。えーと、5mくらいは積みあがってるよね?

 雪山に到達してとりあえず手袋をした両手をぼす、と雪山に突っ込んでみる。

 柔らかい雪の感触を確かめていると、手首の先まで突っ込んだところで手が硬い雪の塊みたいなのに到達して、それ以上は進まなくなった。

 何だろうこれ?


「きっとここ、よそのいらん雪を集めて捨てとる場所なんやろうな。捨てた雪はそのままここでガチガチに固まってまうけど、昨日から今朝にかけて降った雪がその上から積もって、表面はまだ柔らかい雪なんやろう」


 私の隣に晴くんが来て言う。

 あ、そういうこと! だから駐車場のはじっこのここだけ、こんなに大きな雪の山になってるんだ!

 私も思いきり雪の山にダイブしたい……でもさすがにカナくんやユウくんみたいに全身雪まみれになって、雪山を上って、なんてできない……と思った私は、雪山に背を向けて、そっと後ろに倒れこんでみた。

 ふわっとした雪の感触。

 体がちょっとだけ雪に埋まって、それより先は固い雪の壁に阻まれて止まった。


「うわ、あは! 雪にもたれてもた!」


 そう言って体を起こすと、私が中途半端にもたれた跡が雪山についていた。


「あーそっか、手のひら広げてべたーってもたれたら、もっと人型みたいになったんか……」


 私がそう言うと、晴くんは雪山から雪をひとつかみ取って、その雪をさっと宙に放り投げた。

 雪は陽の光を浴びて光りながら周囲に散らばった。

 晴くんの頭とか顔も、雪の光が反射したように輝いて見える。


「わ、すごい! キラキラ!」


 私が笑うと、そんな私を見て晴くんも笑った。

 冷たい空気、白い光の中で、晴くんと一緒にいることが実感がわかなくて……まるで夢を見ているようだった。





 生徒は十人ずつに分けられ、いくつかの班が作られた。

 私と晴くんは違う班……まあこれは仕方ない。三年生の参加者は少なかったからね。

 それより心配なのは、私はカナくんと同じ班になったってことだ。

 いつもカナくんにはいたずらされたりして変な目に遭わされてるからな……ちょっと警戒しておかないと。

 班ごとに町役場の人が用意した車に乗せられ、除雪が必要な地域のお年寄りの家に向かう。

 ここに来るときは完全な防寒対策をしてきていたけれど、私たちの除雪スタイルは、上下雨合羽、長靴、手袋、帽子。それだけだ。

 まあ雪だから……水分だから、雨合羽を着るのは分かるんだけど、ちょっと薄着すぎるっていうか……これじゃ寒いんじゃない? 外は晴れているとはいえ気温一桁だし……

 そう思っていたのは間違いだった。

 訪れたお年寄りの家。そこは、ほんとにどこに家があるの!? って分からないくらいに雪に埋もれていた。

 まず道路から家までの道のりが、人ひとりがやっと通れる……の? これ? ってくらい細い隙間しかない。庭がすべて雪に覆われているから!

 屋根も分厚い雪が積もっている。

 ……ええー、これで人が生活できるの……!?

 私たちは役場の人の説明を聞きながらやることを整理した。

 まずは道路から家までの除雪。すべての雪を取り除くのはもちろん無理だから、せめて幅1mくらい、荷物を持った人が通れるくらいのスペースができるように除雪する。

 その後屋根の雪下ろし! 雪下ろしが終わったら家の周囲の雪をどかす。

 これを役場の人の指導の下、一日かけて十人の高校生がやるわけだ。

 で、出来るのかな……

 ひとまず私たちは大きなシャベルを渡され、それでせっせと家の前に道を作るべく除雪を始めた。

 雪を削ってシャベルに乗せて、庭に積もった雪の上に放り投げる。

 ……これがものすごく大変!

 めちゃくちゃ力がいる。私たちはすぐに汗だくになった。

 こんなの防寒とかしてる場合じゃない!

 カナくんなんて、上に着ていた合羽は暑いから、と脱いでしまった。その下に来ていた長袖のジャージも脱いで、半袖姿だ。

 いやいや半袖って! って思うけど、そんな格好になりたくもなるくらい、確かにめちゃくちゃ重労働で暑かった。

 除雪する雪もね、表面は柔らかいんだけど、奥に行くほどしまって硬くなる。力を込めてシャベルを入れるけど、ガチガチに固まった氷みたいな雪はなかなか削れなくて、ものすごく腕が疲れる。やっと削り取った雪を、庭のスペースに放り投げようとしても、固まった雪は重いので、持ち上げるのも一苦労だ。

 じょ、除雪ってこんなに大変なの……!

 私だけじゃなくて、他の生徒もみんな初めての除雪に悪戦苦闘していた。

 でもその中でも、やっぱりカナくんは勢いが違う。


「うりゃー! 俺にかかればこんなんあっちゅー間や!」


 大きな声を上げながら、シャベルで雪を切り取り、思い切り遠くへ放り投げる。その力強さに役場の人も驚いていた。


「君すごいやんか。でもそんなに最初から飛ばしとったらあとでしんどくなるから、休み休みやりや」


「は、全然平気っす! 家の前の道なんか一瞬でできるんで! 見とってください!」


 カナくんは勢いよくうりゃ、うりゃ、と自分の前の雪をどけていくものだから、カナくんのいるところだけ不自然に大きな空間ができた。


「ちょっと、カナくん! ほら、そこだけいっぱい除雪してもしゃあないから、ある程度除雪できたら他のところやっていってくれる?」


 私が声をかけると、カナくんはようやくきょろきょろと辺りを見渡し、まだ除雪されていないスペースに移動してまたうりゃ! と声を上げながら雪をかきだした。

 はー、やれやれ……

 少し除雪しただけなのに、私はもう腕ががくがくだ。ちょっと休憩しながらじゃないと無理だ……


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