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きみと私の放課後  作者: はる
悠太と彩
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理性と欲望のバトル・1

 晴くんが、晴くんがうちに来る……!

 私はめちゃくちゃ舞い上がっていた。

 えっと、うち、別に散らかってないよね? お母さんが旅行に行く前に家の掃除を済ませていたから、きっと今は比較的きれいな状態なはず。

 私の部屋は……どうだろう? 服とか出しっぱなしにしてない?

 いやいや、いきなり私の部屋に行ったりは……しないか? 二人でご飯食べるんだもんね……リビングとか、だよね?

 えええー、彼氏を家に呼ぶって、どんな感じなの!?

 自分で誘ったとはいえ急展開なので、私の頭の中はごちゃごちゃになっていた。

 晴くんと二人で、いろんなご飯やデザートを買い込んで、うちの門を開ける。

 玄関も……たぶん、たぶんきれいだよね? と思いながら、鍵を開けて扉を開く。

 玄関は、つっかけ以外の靴はちゃんとしまわれていた。

 うん、一見きれい! お母さん最高!


「あ、えっと、どうぞ上がって! リビングはこっちね!」


 あー、声が不自然に上ずってる。私がどきどきしてるの、きっと晴くんにばれてるんだろうなあ……

 晴くんはお邪魔します、と言って玄関を上がった。

 晴くんの様子は、いつも通り落ち着いているように見える。……そりゃそうか。

 私たちはリビングに入って、リビングとつながっているダイニングのテーブルに買ってきた荷物を置いた。


「えーとえーと、とりあえずお茶でも入れよっか。ちょっと待ってね、お湯沸かすから。いや、晴くんは冷たい飲み物の方がいい? 冷蔵庫に麦茶と牛乳もあるけど」


「いや、そんな気を遣ってもらわんでも、すぐ準備できるものもらえたら充分やから。彩が飲むんと同じものが欲しいかな」


「あ、うん、そしたら……まず麦茶入れるね。あったかいお茶は食後に飲もっか……」


 私はバタバタと冷蔵庫を開けて麦茶を取り出し、コップも二つ持ってきて麦茶を注いだ。

 うわー、晴くんがうちにいる……!

 めっちゃ変な感じ!


「ほら、晴くん座って? 食べるもん、あっためよっか。なにからあっためよう?」


「俺もやるけど」


「あー、ええよ、ほら、うちのレンジ、自動温めのボタンあんまりうまくきかんから、あっため方調整せなあかんし……待ってね、そしたら晴くんのからあっためるね」


 私は袋からガサガサといろんなお惣菜を取り出して、レンジに入れた。

 私が落ち着きなくあたふたと動いている間、晴くんはいつの間にか袋からお手拭きと割りばしを取り出して、それぞれの場所に置いてくれていた。

 レンジがお惣菜をあっためる、ブオーンという音を聞いている時に、そういえば……とふと気付く。

 そうだ、私、今けっこう汚い!

 いっぱい働いて汗かいてるし、ちょっと雨に濡れちゃったし。たぶん頭とか体とかくさい……!

 駄目だ、こんなんで晴くんと一緒にご飯食べて、もしかしたらちょっとくっついたりして……なんてできない!

 私は急いで晴くんの方に体を乗り出した。


「晴くん、ごめん、私汚れとるし、ささっとシャワー浴びてくる。あっためが終わったら、晴くん先に食べといてくれる? それかほら、リビングでテレビとか動画見とってくれてもええし……超特急でシャワー行ってくるから、ごめんやけど好きに過ごして待ってて!」


「え? いや、でも……」


 晴くんが驚いたように目を見開いているけれど、私自身が汚いかも、って思ってしまったら、時間が経つごとにどんどん自分の汚さとか匂いが増大していってるように感じてしまって、落ち着いてこの場にいるなんて無理だった。汚い私のまま晴くんの前にいたくない……!


「ほんまにすぐ戻ってくるから!」


 そう言って私はリビングを飛び出した。

 大慌てでお風呂場に入って、シャワーを浴びる。

 超高速で洗って出たかったけど、でもそれで洗いが足りなくて汚れが落ち切っていないのも嫌なので、私は必死で手を動かして頭をシャカシャカ洗った。こんなに力入れて洗ったの初めてかも! 全身も素早く、かつ丁寧にぶわーっと洗った。私はもう慌てすぎていて、晴くんを一人残してきてしまった、なんてこと考える余裕もなかった。

 お風呂を出て、ちょっと考えてからジャージー素材の楽(だけどかわいい!)なワンピースを着て、ドライヤーを最強にして髪を乾かしている時に、一瞬我に返った。

 ……あれ? 私、彼氏が家に来てる時にシャワー浴びるって……

 えええ? これ、もしかして何がしかを期待してるように思われちゃう……!?

 いや、違うって、私はただ単に仕事して汚れちゃったから、そのままの状態で晴くんといたくなかっただけで……

 ええー、もし晴くんに誤解されてたらどうする!?

 待って待って、晴くんはそんな誤解したりしないよね?

 でもどうなんだろう。晴くんだって男の人だし……

 うわあああああ、分からない……! 今私がめちゃくちゃ焦ってしてしまった行動、晴くんの目にどんな風に映ってるの!?

 頭の中でぐるぐる考えていると、ドライヤーを動かす手が止まっていたみたいで後頭部がめちゃくちゃ熱くなって、あつっ! と声が出た。

 いかんいかん、こうしてる場合じゃない。私、晴くんを放置したまんまだった……!

 私はドライヤーの電源を切った。頭は中途半端に生乾きだけどもういいや。

 私がバタバタと小走りでダイニングに戻ると、晴くんは買ってきたものをテーブルの上に全部出して、食べずに私を待っていた。


「……え! 晴くん食べてへんの?」


 私を見た晴くんは、視線を止めて一瞬黙った。


「……せっかく一緒に食べようと思って買ってきてんから、少しくらい待ってようと思って。……シャワー浴びてさっぱりしたか?」


 はっとして、少し顔が熱くなる。あの、変な意味じゃないので……晴くんだったらきっと誤解したりしないよね……?


「う、うん。ごめんね、勝手に一人でシャワー浴びてきて……晴くんいきなり一人にされても困るやんね……」


「いや、雨に少し濡れとったし、早く体あっためた方がええやろうと思っとったからそれは全然かまわんよ。それよりその……彩の私服は普段あんまり見んから、新鮮やなあ」


 ……あ、私のワンピースのこと言ってる? ちょっとはかわいいって思ってもらえてるのかな……

 私はドキドキしながらはにかんだ。少しでも晴くんが私のこと、かわいいって思ってくれたらいいなあって思って。一応お気に入りのワンピースだし、似合ってないことはないと思うんだけど……。あ、でも下心なんてないからね! ほんの少しもないかって言われたら、そんなことはないんだけど、でもそれが目的で家に呼んだとか思われたら恥ずかしくて死ぬ!


「う、うん、このワンピースね、めっちゃお気に入りやねん。かわいいけど楽ちんやから……でも私一人で楽なカッコになってもたね。ええと、晴くんもシャワー浴びてくる!? そんで着替えちゃう!?」


 うわー! 私はまたなんてことを言ってるんだ!

 もうアホ丸出しじゃない!? ドキドキしすぎて言わなくていいこと言ってるよね、これ!?

 晴くんは一瞬ぽかん、としてから、ちょっと咳払いした。


「……いや、その……ほら、せっかくやから飯食おう。あっためたやつも冷めてまうし」


 晴くんはさらっと私の発言を流した。

 ああ……ありがたいけど、辛い……!

 たぶん私の顔、めちゃくちゃ赤くなってると思う。恥ずか死ぬ……と思いながら手で顔をぱたぱたあおぎ、私は席に着いた。

 めちゃくちゃ熱くなっている自分の顔を両手で覆う。


「……晴くん、ごめん……私めっちゃ浮き立ってアホなことばっかりしてるし言ってるやんね……私の発言は無視してもらってええから……」


 私の向かい側に座っていた晴くんは、静かに席を立ち、手を伸ばして私の頭をそっとなでた。


「なんもアホなことなんて言ってへんよ。いろいろ気遣ってくれてありがとう。……俺も彩があんまりかわいいから、めっちゃ浮き立ってる。俺もそのうちなんか変なこと言うてしまいそうやな。そん時は遠慮なくツッコんでくれな」


 私は少しだけ顔を上げて晴くんを見た。


「……晴くんも浮き立ってるん? ほんまに?」


「そらそうやろ。初めて彩の家にあげてもろてるねんから。もう今心臓バクバクでやばいねん。必死で落ち着こうとしとるから、あんまりつつかんといてくれ」


 ……ほんとに? 晴くんの顔をじーっと見てみると……確かにいつもより、ほんの少し頬が赤いような……?

 私があんまり見ているせいか、晴くんは今度は手のひらを私の両目の上に当てて視線を遮った。

 これは……晴くん、本当に照れてるんだ……!

 それが分かると、ようやく私もほんの少し落ち着いた。

 うれしくて、浮足立って、恥ずかしくなってるの、私だけじゃなかったんだ!

 私は私の視線を遮っている晴くんの指をそっとつかんだ。


「……へへ。そしたらごはん、食べよっか」


「そうやな」


 晴くんの手のひらがまぶたの上から離れたので、もう一度晴くんを見ると、今度は晴くんは笑顔で私を見つめていた。

 私も同じだけ笑顔を返す。

 もうそれだけで、胸がいっぱいになるくらい幸せだった。


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