告白の答え
俺が話し終わった後、少し考え込むような表情を見せた後、花房さんは何を思いついたのか、こらえきれないようにぷっと吹き出した。
「……なんか、瀬戸くんって変なの! めっちゃ熱烈に告白してくれたかと思ったら、別に私に好きになってほしいとは思ってへん、なんて言うて、そのくせでも笑顔は見せろ、言うたり……控えめなんか強引なんか分からんね?」
いつまでも笑っている花房さんに、そんなに俺の告白はおかしかっただろうか? と不思議に思う。ただ思っていることをありのまま伝えただけなのだけど。
「ごめん。どうしても花房さんの前ではうまくいかんみたいや。もうちょっと分かりやすく、ちゃんと俺の気持ちを伝えたかってんけど」
「あは、前も私のことかわいいって言うて、慌ててたやんね。瀬戸くんもそんな風になったりするんやね」
「それは……花房さんの前でだけやねんけど」
「……そうなんや……」
花房さんは顔を赤くして、どことなくうれしそうに見えた。俺に対する気持ちがなくても、告白されたらうれしく思うのだろうか? そのあたりの女性の思考回路は俺には理解できないので、ただ目の前の花房さんの反応を待つだけだった。
「私、瀬戸くんのこと、好きかどうかなんて考えたこと今までなかったけど……でも……なんかよく分からんけど、好きって言ってもらえてうれしいような気がするねん。これってなんなんやろうね? 私も瀬戸くんのこと好きやったんかな?」
「え……そうなん?」
「うん。そんな、瀬戸くんみたいに熱烈に好きかどうかなんて分からんけど……でも瀬戸くんが私のこと特別に思ってくれてるんやったらめっちゃうれしいって思う」
「それは思っとる。めっちゃ思っとる。世界で一番特別やし、俺の人生を通しても一番やって断言できる」
「そこまで!?」
驚く花房さんに、さすがに言い過ぎたか、と後悔する。うまくやらなければと思っているのにすぐこれだ。
でも俺は、この際だ、と思い、ここで決定的なことを聞くことにした。急ぎすぎなのかもしれない。でもはっきりさせなければ気が済まない。
「……そしたら、俺と付き合ってもええと思っとる?」
「えーと、うん……あ、でも私めっちゃあほで……瀬戸くんには全然釣り合ってへんと思うけど……成績悪すぎて卒業できるかすら微妙なラインやし」
「釣り合うとか釣り合わんとかそんなんどうでもええ。大事なんはお互いの気持ちだけやから。花房さんが勉強が苦手なら、俺が全力でサポートする。絶対に一緒に卒業できるようにする」
「へへ、うん。そしたら私も頑張ってみる。よろしくお願いします」
花房さんが恥ずかしそうに笑った。
まさかだった。
花房さんが、俺と付き合ってもいいと言った。
花房さんは俺のことなど好きではないと思っていたのに……そんなことはなかったのか? 彼女が俺に近付いていたのは、少しでも好ましく思う気持ちがあったからなのか?
俺には判断ができない。
でも、今俺は、彼女を手に入れた。
行動をしたからこそ、結果がついてきた。
自分の愚かとも思える行動のおかげで、花房さんが俺を見てくれた。
やばかった。今までこんなにうれしいと思ったことがあるだろうか? 自分の行動を神に感謝したいと思ったことがあるだろうか?
好きになった女性が……彼女も俺を選んでくれるなんて。
俺は今、生まれてきてから一番の幸福を手に入れたのだと思った。
勉強どころやなくなってしもたね、とはにかんで言う花房さんがまぶしい。確かにこれは勉強などしている場合ではない。こうやって彼女と想いが通じ合ったのだから。二人でもっともっとたくさんの話をしたい。
花房さんがあ、と思い出したように声を上げた。
「瀬戸くんって、同じハンド部の人らから晴太郎って下の名前で呼ばれてるやろ?」
「うん」
「そしたら私も瀬戸くんのこと、晴太郎くんって名前で呼んでもええ?」
花房さんの口から出る晴太郎くん、という言葉の響きに心が揺さぶられる。呼ばれ慣れていないからか? うれしいような、照れるような、何だかたまらない気持ちになる。
「名前で呼んでもらうんは全然かまわんけど。晴太郎って長くて呼びにくいやろうから、それやったらハルって呼んでもらってええよ」
「ハル?」
「うん。俺の家族とかばあちゃんとか、ガキの頃から俺のことハルって呼んどるから」
花房さんは少し恥ずかしそうにしながらも目を細めて笑顔になり、俺の言葉を受け入れてくれた。
「そうなんや。分かった、晴くん」
その言葉を聞いた途端、彼女に対する愛しさが全身を埋め尽くした。彼女にそう呼ばれると、心の中から彼女に対する愛しさが激しくあふれ出てくる気がした。彼女がそうやって俺を呼んでくれる声の響きは、俺が一番好きな音かもしれない。
花房さんは自分の唇を指先で押さえて、楽しそうに笑った。
「ふふ、変な感じ。瀬戸くんからいきなり晴くん、なんて。めっちゃ急速に仲良くなったみたい! そしたら、晴くんも私のこと、花ちゃんって呼ぶ?」
「いや、それは。できれば俺は花房さんのこと、彩って名前で呼ばせてほしい」
思わずそんな言葉が口をついて出る。他の男が彼女を呼ぶ愛称を使うのはかなりもやっとするものがある。対抗心もあったのかもしれない。だから俺は、彼女が許してくれるのであれば彩、と名前で呼びたい。それは俺がこの世で一番好きな言葉になる確信があった。
俺の言葉を聞いて、花房さんは恥ずかしそうにはにかんだ。
「うわー、照れる。でもええよ、そしたら彩って呼んでね。晴くん」
この胸が張り裂けそうなくらいの幸せは何だろう。こうやって彼女と同じ時を過ごし、そして心を交換しあう。思いのたけをぶつけ、受け入れてもらって、そして二人の新しい関係が始まる。
「そしたら晴くん、ちょっとこっち来て」
彼女が俺を立ち上がらせ、椅子を自分の椅子の隣に引き寄せ再び俺を座らせた。照れながら、それでも彼女は座った俺の体に身を寄せ、もたれかかった。
「もう今は近付いてもええでしょ?」
さっき俺が言ったことか。
何とも思っていない男に安易に近付いてはいけない。
……でも今、俺たちは恋人同士になった。だからもういくらでも近付いていい。
そんな関係になったのだ。喜びが大きすぎて胸が苦しくなる。
俺の心臓はばくばくと激しく動いていた。こんなに密着するほど近付いて、さっき意識した彼女の匂いがダイレクトに俺の脳に届いた。
少し恥ずかしそうに俺にもたれかかっている彼女があまりにも愛しくて、頭がおかしくなりそうだ。まともなことなど何も考えられない。
今すぐ彼女をめちゃくちゃに抱きしめたかったけれど、必死でその衝動に耐え、俺はそっと彼女の肩を抱いた。彼女が緊張しながら、ゆっくりと俺の体に顔をすりつけた。
ああ、心臓が張り裂けそうだ。彼女にもっと近付きたくて、できなくて、でも満たされていて。
片想いをしているからいてもたってもいられないような気持ちになるのだろう。想いが通じても通じなくても、決着さえつけば心も落ち着くのかもしれない。そんな風に考えていた自分の浅はかさを知る。
結局彼女を手に入れても何一つ変わらない。彼女を前にして、落ち着いた自分でなどいられるわけがない。
心臓が痛くて、胸が苦しくて、傷つけたくないのに強く抱きしめたい衝動にかられ、自分の煩悩に必死で耐える。
いつでもどんな時でも、俺は彼女に狂わされているのだな、と実感した。




