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きみと私の放課後  作者: はる
悠太と彩
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悠太の彼女・2

 お昼休み、私は二年生の教室の前をうろうろしていた。

 名札はポケットに入れて隠したので、私が上級生ってことは周りの子にはばれていないと思う。

 えーと……

 あんまり……ユウくんとか、ユウくんの彼女に会わないうちに見つけたいんだけど……

 そう思っていたら、教室からすごい勢いで何人かの男子生徒が走り出てきた。


「おら、お前ら急げー!」


「あ、カナくん。待って!」


 風のように走り去ろうとしているカナくんに私は慌てて声をかけた。

 カナくんはストップモーションのようにぴた、と立ち止まった。


「あ? ……彩さんか? なんやねん、俺に用?」


 走り去っていく他の男子の後を追いたくて仕方ないみたいで、そっちの方をちらちら見ながらカナくんが言う。


「うん、そう。用があるねん。ちょっと話があるねんけどええかな?」


「ぐわー! 俺のバスケの勝負が……! くっそ、はよ話終わらせてくれ!」


「ええ? えーと、ここではちょっと。場所変えて話したいねんけど……」


 私はポケットから、とっておきのマフィンを取り出した。この報酬で何とか話に付き合ってくれないかなあ……

 カナくんはちっと舌打ちした。


「食いもんにつられるのはユウくらいやろ。あーもう分かったからさっさと行くで。どこで話すねん」


 そう言いながらカナくんは私の手からしっかりマフィンを奪い取った。


「えーと……そしたら、屋上とかでいい?」


「分かった。ほら、はよ歩いて」


 ずんずん歩き出したカナくんの後を、私は慌てて追った。





 屋上にはまばらにしか生徒はいなくて、これなら他の人に話を聞かれる心配はなさそうだった。

 カナくんは屋上の端っこのフェンスまで歩いていって、くるっと私の方を振り返った。


「で? なに話って。告白なら手おくれやで。俺もう彩さんのこと女として見てへんから!」


 ええ?

 いや、どうしてそんな発想になるの! 私が晴くんと付き合ってるの、知ってるでしょ!?

 あ、まあカナくんはこういう暴走タイプだから……仕方ないのか。


「その辺はおかまいなく。心配せんでもそんな話ちゃうし……」


「そんならなに」


 ……どんな風に話を切り出そう? ユウくんに何か悩みがあるのかな? って聞くのも変かな……

 私は屋上にいる他の生徒を見渡した。

 いるのは数組。女の子同士でお弁当を食べていたり、仲良さそうな…付き合ってるのかな? カップルがフェンスの外を眺めながらおしゃべりしている。


「えーと……そういえばユウくん、彼女できたんやね」


「はあ?」


「好きな子おるなんて知らんかったなあ。カナくんは、ユウくんとそういう話を普段したりするん?」


 カナくんは眉間にしわを寄せて私を見て、それから肩をすくませた。


「しょーもな。んな話するわけないやん。あいつが誰に惚れとったって俺にはなんの関係もないし。だいたいあいつは……」


 カナくんはそれ以上言わずに私をじっと見て、ちっと舌打ちした。

 ええー! どうして今私、舌打ちされたの!? そんなに不愉快な質問だった!?


「あー、それより彩さん、あんた、最近はどうなん」


「え? どうって……?」


「なんかこう、あれやん。誰かに変なことされたりとかしてへんわけ!? 嫌がらせとか!」


 カナくんの言葉に私は目を見開いた。

 ……どうして知ってるの!?

 私、晴くんにも話してない。身近な……クラスの女友達にしか話してないのに!


「……どうしてそれ、カナくんが知ってるの?」


「ええから! どうやねん!」


「えっと……最近は……なにもないよ。なにも……変な手紙とかも来てへんし、靴箱にゴミも入れられてへんし」


「あっそ。そんならええやん」


 ええー!

 確かに最近嫌がらせがなくなったのは……それは良かったんだけど……どうして? カナくんは何を知ってるの?

 もう話がないならええやろ、と言って去ろうとするカナくんに、私は慌てて追いすがった。


「ちょっと待って! ねえ、どういうこと? なんでカナくん、そのこと知ってるん? 私誰にも言ってへんねんけど」


 今カナくんを行かせちゃ駄目だ。そうしたらこの後は絶対に話を聞けなくなる。

 今しかない。

 私が必死になっていると、カナくんは頭を抱えた。


「あークソ……彩さん、あんた、今ポケットの中にどんだけ菓子持ってる」


「……え?」


 一瞬カナくんに何を言われたか分からずにぽかん、としてしまったけれど、すぐにポケットに手を突っ込んで、中に入っているお菓子をすべて出した。

 マフィンに、飴一つに、ラムネ三つ。あとグミの小袋もあった。

 私の手のひらにあるそのお菓子を、カナくんは全部つかんだ。


「あとなー、これ、俺が言ったって絶対、死んでも誰にも話すなよ! ええか、部長にもやで!」


「わ、分かった」


 晴くんに話さない……のは……できるか分からないけど。

 カナくんはため息をついてフェンスにもたれかかった。


「……こないだ彩さん、ユウと一緒に商店街歩いとったやろ。そん時ユウのクラスのやつらと会ったやろ」


「え、うん……」


 すぐに私がお使いに行った時のことだと分かった。

 あのお好み焼き屋さんに入っていった男子たちだよね。ユウくんのクラスメートって。

 そうだ、あの時、男子に私がユウくんの彼女って誤解されて……


「そん時、彩さんとユウが付き合ってるってクラス中に広まってん。ユウは付き合ってへんって答えとってんけど、あいついっつも適当やから、嘘なんちゃうんかって勘繰る女子がおって。そんでユウに惚れとる女子が、彩さんが部長とユウで二股しとるって逆上してん」


「……ええ!?」


 ……だからあの時、すぐ否定しに行こうってユウくんに言ったのに……!

 ユウくんはみんなすぐ忘れるって言ってたけど……でもユウくんのことを好きな女の子にとっては、そんな流せるようなことじゃなかったのか……


「彩さんがされとった嫌がらせ、十中八九あいつらの仕業やで。教室の隅っこで、今日はこんなことしてやった、いい気味やって盛り上がっとったらしいからな。それに気付いてユウはブチ切れとってんけど、結局あいつら、彩さんが二股しとると思っとるから、ユウがなに言ったって火に油で。ユウがかばえばかばうほど彩さんが悪いってことにあいつらの中ではなっていってん」


 うわあ……

 めっちゃがっくりくる……

 恋をしている女の子の気持ちがマイナス方面に増幅されて、私への攻撃になったのか……

 でもそんなの、どうしようもない。私が違うよ、私は二股なんてしてないし、ユウくんとも一切そんな関係じゃないんだよって言ったって、彼女たちはきっと信じないんだろう。

 ……それならどうしたらいい?


「せやからユウは、彩さんと自分はなんも関係ない、彩さんは二股なんかしてへんし、二人の間に恋愛感情はないってことを証明するために、ユウに惚れとる女子と付き合うことにしたんや。あいつはあんなんやから、女と付き合っとったって普段となんも変わらんけど。女子の方もユウを手に入れられたらようやく気が済んだんか嫌がらせもやめる気になったみたいや。だから彩さんへの嫌がらせも終了した。今後もないやろう。以上!」


 カナくんは、話は終わりだ、とばかりに両手を開いて見せた。

 私は驚きすぎて、胸がぎゅうっと締め付けられるような気がした。


「え……え? でもそれ……そんなん、ええの? ユウくんは……そんなんで女の子と付き合って……」


 カナくんはつまらなさそうにため息をついた。


「別にそれは彩さんが気にすることちゃう。女と付き合うことを決めたんはユウ自身やし、別に俺らは彩さんと違って付き合うことをそんな深刻に考えてへん。嫌になったり飽きたら別れたらええだけや。なんも問題ない」


 ……それは……そうなのかもしれないけど……

 どうしよう。ユウくんは私のせいで、そんな気なかったのに無理矢理女の子と付き合ってるってこと? それは……かまわないの? いくら彼らが気にすることじゃないって言っても……そんなの……

 カナくんはビシッと私を指さした。


「ほーら、すぐ彩さんはそうやって全部自分のせいにしたがる。言っとくけどそんなん思い上がりやからな。ユウは面倒ごとを避けるために一番楽な方法を選んだだけや。それで彩さんにウジウジ悩まれるんは迷惑や。だからあんたはなんも気にすんな。この話は聞かんかったことにしろ。俺らに対しては今までとなんも変わらんように接すればええ。分かったか!」


「……」


 私は何も言葉を返すことができなかった。

 私のせいだと思うことは、私の思い上がり……

 ……そのとおり、なのかもしれないけれど……

 でもそれは、私が気に病まないように言ってくれてるんじゃないの?

 私のために自分を犠牲にしたんだって思われないように、わざとそんな風に突き放すように言ってるんじゃないの?

 私が黙っていると、カナくんは、終了終了! と言いながら去って行った。

 後に残された私は、動くことができずにしばらくその場に突っ立っていた。

 屋上に吹く秋の風が、すごく冷たく感じた。


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