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きみと私の放課後  作者: はる
悠太と彩
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悠太の彼女・1

 お昼休み、次の時間は教室移動だったので、渡り廊下を歩いていると、柱の陰に見知った背中が見えた。


「あー、カナくん……か、もしくはユウくん」


 この頭の色。どっちだろ?

 カナくんは金髪で、ユウくんは赤髪だけど、外の明るい光に照らされると今見えている頭がどっちの色なのかはっきりとは分からなかった。

 その頭がくるっと私の方を振り返る。


「おう、彩さんやん」


 その落ち着いた口調で、これはユウくん、と分かった。


「そのちっこい体で急いでどこ行くん」


「いやいや、私、別に特別ちっちゃくないし! 普通に次移動やから歩いとっただけで」


「ふーん」


 ユウくんがずいっと私の方に顔を近付ける。

 これは……はいはい、分かってるって。

 私はポケットに手を入れて、中に入っている袋を取り出した。


「今日はナッツのクッキーがあるよ」


「ええもんあるやん」


 あげる、ともそれちょうだい、ともお互い言ってないけど、当然のようにユウくんは私の手から個包装のクッキーを受け取った。

 すると突然、ユウくんの背後から女の子が顔を出した。


「悠太? 誰その人?」


 女の子……名札の色を見ると、二年生、ユウくんと同じ学年の子か。

 ユウくんはちらっとその子を見た。


「三年の先輩。うちの部の鬼部長の彼女」


「鬼って!」


「……ふーん」


 女の子はまるで挑むような視線で私をじろじろ見た。

 ……えーと……これは、私はあんまりこの場にいない方が良さそうな感じかな……


「あ、えと、ユウくんのクラスメートかな? あなたもクッキーいる?」


 彼女にもお菓子を渡してさっさとその場を去ろうとする私に、女の子はあからさまに不快な表情を見せた。


「いるわけないし。私、悠太の彼女やから。むやみに悠太に近付かんといてくれる?」


 え! ユウくんの彼女?

 おおー、知らなかった……そんな子いたんだ……!

 私が驚いて目をぱちくりさせていると、女の子はユウくんの腕を引っ張って行こう、と声をかけた。

 ユウくんは肩をすくめて、少し私に視線を移して、そんじゃ、と言って彼女と一緒に歩いていった。





 授業が終わり、視聴覚室から教室に戻ってくる。

 教室の自分の机やバッグの中を私は恐る恐る覗いた。


「……よし、今回はなにもなかった……」


「彩、どう? 不幸の手紙は入ってへんかった?」


 茜が軽い調子で聞いてくる。


「うん、大丈夫っぽい」


 最近私の近辺はちょっと不穏な感じだった。

 教室を不在にしていて戻ってくると、嫌がらせっぽい悪口を書いたメモや手紙が机やバッグの中に入っていたり、靴箱にゴミを入れられていたり。消しゴムやペンがなくなったりもした。

 特別大きなことじゃないかもしれないけど、そういうことが続くとちょっと怖くなる。あー、私に対して良くない感情を持っている人がいるんだなって分かるから。

 晴くんにはこのことは言わなかった。茜にも口止めした。

 だって、メモや手紙の筆跡を見ると、それは明らかに女の子の仕業で……

 晴くんが怒って女の子に詰め寄ったりする姿なんて見たくないし……

 まだ大ごとになるようなひどいことはされたわけじゃないから、今の私はひたすら我慢して様子を見ている状態だった。

 クラス委員という特権を生かして、クラス中の女の子の筆跡を調べてみたけど、犯人らしき筆跡の子はいなかった。

 クラスの子が犯人じゃない。だから私はクラスの中にいれば大丈夫。

 だいたい嫌がらせをされる心当たりがない……

 いや、以前も考えたことがある。もしかしたら晴くんを好きな女の子がいて、私の存在が目障りで仕方ないのかも。

 私の気付かないところで、誰かを傷つけるようなことをしているのかも。

 でも今のところ原因になりそうな心当たりがないので、私は不安なまま毎日を過ごしていた。





 図書室で、晴くんの部活が終わるのを待つ。

 課題をやりつつ……なんだけど、あまり身は入らない。

 いや、やる気があったって、できないものはできないんだけどね。気分的に……

 大丈夫だよ。昨日も今日も、嫌がらせはなかった。もしかしたら犯人はすでに私に嫌がらせをすることに飽きたのかも? それならありがたい。このままフェードアウトしてくれたら……

 時計を見ると、もうすぐ部活が終わる時間だ。

 早く晴くんに会いたいなあ。

 晴くんの顔を見たら、ふんわり心があったかくなって、明るくなって、心配事なんて全部どこかに行っちゃうから。

 課題は全然進まなかったけど、もういいや。


 私がさっさと教科書やノートをバッグに片付けていると、図書室にユウくんが入ってきた。

 え? ユウくん?

 珍しい。なんでこんなとこに……

 そう思ったら、離れた場所に座っていた女子生徒が立ち上がった。


「悠太」


 あれ? ……あ、あの子、ユウくんの彼女か。

 彼女は私に背を向けて座っていたから全然気付かなかった。

 彼女も図書室でユウくんの部活が終わるのを待ってたのか……

 ユウくんが彼女の方へ近付いていくと、彼女は小走りでユウくんに近付き、ぎゅっと腕に抱きついた。

 そして私をちらっと見た。

 え?

 あれ、彼女の方は私がいるって気付いてたの?

 彼女の視線に気付いて、ユウくんも私の方を見る。

 二人に見られて、私はどう反応しよう、と一瞬考えて黙ってしまった。

 彼女はすぐに私から顔を背け、ユウくんの腕を引っ張って、行こう、と言って図書室の出入り口の方へ歩いていく。

 彼女に引っ張られながら、ユウくんはもう一度ほんの少し私の方を振り返って、小さく手を振った。





 その後しばらくしてから晴くんがやってきた。

 ああー、晴くん……!

 いろんなよく分からない気持ちや感情に襲われてぐるぐるしていた心が、晴くんの姿を見るだけで溶かされていく気がする。

 私に向かって歩いてくる晴くんを、私は満面の笑みで迎えた。


「晴くん、部活おつかれさま!」


 私があんまりにこにこしているからか、晴くんもつられたように笑顔になった。


「ずいぶん機嫌が良さそうやな」


「晴くんに会えてうれしいだけ!」


 私は立ちあがり、二人そろって歩き出した。

 晴くんがいると、心配事や気になること、心に刺さった棘とか全部、そんなのあったっけ? って気分になる。晴くんがいれば全部大丈夫! って意味もなく思ってしまう。

 私が夢中になって晴くんに話しかけていると、晴くんは優しい目をして私の頭をゆっくりとなでた。晴くんの手のひらからあたたかい熱が伝わってきて、心もふわっとほぐれていった。

 私は晴くんの肩にそっと頭を寄せた。

 ……あ、そういえば。

 私は晴くんの顔を見上げた。


「そういえば、ユウくん彼女おったんやね? 今日彼女が図書室におって、ユウくんが迎えに来とった」


「……ああ」


 私の言葉を受けて、晴くんは視線を前に移し、少し考えるような表情になった。


「あいつ、大丈夫なんかな」


「大丈夫?」


「まあなんか……無理しとるように見えるというか」


「無理って……なにに対して?」


 ユウくんが無理? あんまり彼は無理をするようなタイプには見えないけど……

 部活を頑張りすぎてるってこと? それとも……彼女のこと?

 私がよく分からず考えていると、晴くんがぽんぽん、と私の頭をなでた。


「誰だって人生なんでもかんでも順風満帆にはいかんからな。悩んだりちょっと道をはずれてしもたりするやろ。そこをどうやりすごしていくか。軌道修正するか。そのためには本人の力だけやなくて、周りの人間のサポートも必要なこともあるやんな」


「……どういうこと? ユウくんはなにかに悩んでるん? 分かってても間違ったことしてしまってるん?」


 私には全然分からない。

 でも晴くんは……毎日部活でユウくんと顔を合わせて、そして部長として部員のことをよく見てるんだと思う。だからきっと何かに気付いているんだ。


「どうやろうなあ。あいつは悩みがあっても簡単に周りに漏らしたりするようなやつやないし。悩みがあるやろって言われてもかえって否定するかもしれんな。だからほんまのところは俺にも分からんよ」


「そんなの……そしたら……どうするん。もしユウくんがなにかに苦しんでて、誰にも助けを求められへんのやったら」


「そんなに心配すんな。あいつには頼りになる相棒がおるやろ」


 ……カナくん!

 そうか、そうだよ。ユウくんには、双子の兄弟のカナくんがいる。

 それなら……改まって二人が話し合うようなことはなかったとしても、何となく二人で分かりあって、何となく力を合わせて問題を乗り越えていけたりするのかなあ?

 そうであってほしい、と思った。


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