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きみと私の放課後  作者: はる
双子と彩
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一瞬の光・2

 三人で屋上への階段を上り、ドアを開ける。

 やっぱりこの二人がいると声が大きくてそっちに気を取られるので、人気のない校舎を歩く不安なんて完全に忘れてしまっていた。

 屋上には数十人の人がいるように見えた。イベントに参加してた人、ほとんどがいるかな? 暗いからはっきりとした人数は分からない。

 屋上はもっと真っ暗かと思っていたけど、人が立ち入るということで照明がつけられていたので、薄暗くはあるけれど、暗くて何も見えないというほどでもなかった。


「えーと、河川敷はあっちの方だよね」


 人が多く溜まっている方に歩いていこうとしたら、ふと私の名前を呼ばれたような気がした。


「彩?」


 え?

 私が振り返り辺りをきょろきょろと見渡すと、屋上の扉の横に晴くんが立っていた。


「晴くん! どうしたん?」


 驚いて晴くんの方へ駆け寄る。

 晴くんは今日はもう部活を終えて帰宅していると思っていた。

 私も今日は夜のイベントの手伝いがあるから、帰りは別々だねって事前に連絡してあったし。

 晴くんは肩をすくめて笑った。


「実は部室の鍵を返しに職員室に行ったら、先生からこの屋上の鍵の開け閉めも頼まれてな。ちょっと職員室が今ごたついとって、先生がこっちにずっとおるわけにいかんからって言うて。それより彩がここに来とるとは思ってへんかった」


「そうなんや! そしたら一緒に花火見れるやん!」


 私はうれしくなってはしゃいでしまった。思わぬ形で晴くんと一緒に過ごせることになっちゃった!

 私が晴くんにくっついて話していると、晴くんが私の後ろに目をやった。


「……で、お前らはなにしとんねん? 部活はもう終わったやろ。そしてお前らはイベントに関わってへん。なんでここにおるんや?」


 カナくんとユウくんの二人がぎくっとして緊張しているのが、見なくても空気で伝わってきた。


「いや、俺らは……えーと、ほら、彩さんの護衛で!」


「そうそう、屋上なんか危ないっしょ? たまたま彩さんが屋上に行こうとしとるん見て、そんな危険な場所に一人で行かせられへんって使命感で!」


「彩さんが幽霊にならんようについてきたってことっすよ!」


 まだその幽霊ネタ? だから私は生身の私だってば!

 足が太いとかひどいことも言われたし、晴くんに怒られた方がいいんでは? とちょっとだけ意地悪な気持ちになる。

 ……でもまあ、ここで彼らを花火も見ることなく帰してしまうのはさすがにかわいそうだよね……

 そう思って私は晴くんに言った。


「ね、みんなで花火見ようよ。こんな機会そうそうないやん? そらここは別にちゃんとした会場やないし、お祭りの花火をおこぼれで見せてもらうだけやけど……でも、うちらみんなでお祭りに行くことなんてないやん? だからちょっとだけここで花火見て、みんなでお祭り気分のお裾分けもらおうよ」


 私がお願いするように言うと、晴くんは仕方ないな、というように笑った。


「ほんまは部外者がおったらあかんのやろうけど……しゃあないな。今回限りや」


 学校関係者が少ないし、あまり騒ぐと他の人の迷惑になると思ったのか、晴くんは割とあっさりとうなずいてくれた。

 晴くんが許してくれたと分かると、二人もすぐに砕けた感じになって、思い思いに伸びをしたりしてリラックスしだした。


「ほら、そしたら花火上がる方に行こうよ」


 晴くんの手を引いて河川敷が見える方に歩いていく。

 今日はよく晴れているみたいで、空にいくつもの星が見えた。

 そして眼下には街の明かり。

 うわ、ほんとに、夜に学校の屋上にいるなんてこと今までなかったから、すごく新鮮な気分!

 人がそこまで多くないので、空いているフェンス際に四人並んで河川敷の方を見つめる。

 周りの人もおしゃべりをしている。私たちもどうでもいいことを話しながら、花火が上がるのをのんびりと待った。

 すると突然、小さな光の筋が空に昇っていくのが見え、少ししてからぱっと明るい光の花が咲いた。

 光の後、一瞬後にどーん、と鈍い音が聞こえる。

 屋上のあちこちで歓声が上がった。


「わ、見えた! 花火や!」


 うれしくて私も声を上げた。


「なんや、意外とちっこいねんなあ」


 つまらなさそうにカナくんが言う。


「ま、でかい花火大会とかやないからな。地元の祭りの花火ならこんなもんやろ」


 同じような口調でユウくんが答える。

 そんなことを言いながら、二人の視線は花火に釘付けだった。

 確かに大きな花火大会みたいな豪華さはないけれど、それでも暗い空にぽっと真ん丸の光の輪が広がっていくのは目を奪われる。すごくきれい!


「ちょっと遠いけど、でもこんな目線くらいの高さで花火見れるなんてすごいね!」


 うれしくて晴くんにそう言うと、晴くんは私を見てふわっと笑った。


「ほんまやな。貴重なもん彩と一緒に見れて良かった」


「ね!」


 そうだよ、二人で一緒に、夜の学校の屋上にいて、そして花火を見るなんて。

 すごく特別な感じじゃない? うれしい!

 隣に並んでいた私たちは、いつの間にか自然と手をつないでいた。

 こうやって手をつないで、同じ時に同じものを見つめる。

 夜風を浴びて星と花火を見ているこの非日常感に、今の瞬間が夢みたいだなあ、と思う。

 花火は同じ場所に、いくつもいくつも打ち上げられていた。

 私たちは黙ってそれをじっと見つめていた。

 風の向きが変わって私の顔に髪がかかったので、手でよけながらふと左右にいる晴くんとカナくんユウくんを見てみると、三人とも不思議な表情で花火に見入っていた。

 黙ったまま光を見つめて、花火に目を奪われているように見える。

 夜の陰に染まった彼らの顔が、花火の光で照らされる。瞳に色とりどりの模様が映る。

 その時、ああ、そうか、と納得した。

 三人とも……普段はずっと部活を頑張っているものね。放課後も土日も、長期の休みだって毎日。

 きっと部活をするようになってから、お祭りや花火大会をゆっくり楽しんだことなんてなかったんじゃないのかな。

 それが今日偶然、打ち上げ花火を見ることができて、今だけはハンドボールや他のことを考えずにただ目の前の花火に心を奪われている。

 もしかしたら彼らは今、すごく久しぶりにハンド以外のことで無心になれたんじゃないのかな。

 夜空に打ち上げられる大きな光の花をひたすら見つめている。光が心に落ちてくる。真っ暗な空に鮮やかに広がるその光は、彼らに何を思い起こさせるんだろう。

 その光は、彼らに何をもたらすんだろう。

 ……何だか……今日、ここに来れて良かったな。晴くんと、二人と一緒に花火を見れて、良かったな。そんな思いが胸の中を満たす。

 きっともう今後はこんな時間は訪れないよね。奇跡的に訪れた今だけの特別な瞬間なんだ。


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