一瞬の光・1
どこの学校もそうなのかなって思うんだけど、うちの高校は地域との連携を大切にしている。
学校でイベントがあって、その関係の買い物をするときはできるだけ地元の商店を使うし、近隣の小中学校生と交流することもある。
地元でイベントがある時は、積極的に学校の敷地を貸し出したりもする。
……というわけで、今日は地元のナイトウォークのイベントのために学校の敷地を使ってもらっていた。
ナイトウォークの出発点と到着点を学校の門を入ったところに設置して、参加者を送り出し、さらに帰ってきた参加者に参加記念証や商店街からの差し入れを渡したりする。
そんな運営スタッフの手伝いを私もしていた。
夜の学校なんて、ちょっとわくわくする。
別に学校の中で何かするわけじゃないけど。でも普段いるはずのない時間に、学校で仕事をしているっていうのが非日常感があっておもしろかった。
このナイトウォーク、地元のお祭りと同じ日に行われているので、毎年あまり参加者が多くないらしい。
みんなひたすら夜の人気のない公園や山のふもとを歩くより、お祭りで盛り上がる方を選んでしまうみたい。
お祭りとは別の日にナイトウォークのイベントをすればいいと思うけれど、運営側でいろいろ事情があるらしく、結局毎年お祭りと同じ日に行われていた。
今日もそれほど多くない……数十人ほどの参加者を出発点で見送り、その後運営スタッフや同じようにボランティアで参加した生徒とおしゃべりして過ごしていた。
「これが終わった後、もし時間があるんやったら学校の屋上に行くといいよ」
参加者に渡すペットボトルのジュースを私たちにもどうぞ、とくれながら、運営スタッフの人が言う。
「屋上? 夜にそんなところ行ってもいいんですか?」
「そう、毎年学校がサービスで、参加者とスタッフがイベント終了後に屋上に上がることを許可してくれててね。ちょうどその頃の時間に、河川敷でお祭りの花火が上がるねんけど、屋上からそれが見れるねん」
「え! 花火? 見たい! ね、茜」
私は喜んで隣にいるクラスメートの茜を見た。
「へー、花火かあ。見たいけど、私これ終わった後すぐ帰らなあかんねんよね」
ペットボトルの蓋を開けながら残念そうに茜が言う。
「そうなん?」
「うん。残念やけど私は行かれへんから、彩は見てきたらええよ。そんで今度どんなんやったか教えてよ」
「そっかー、分かった」
友達と一緒に見れないのは少し残念だけど、でも学校の屋上から花火なんてめったに見れるもんじゃないから、これはぜひ見てみたい! 私は一人でももちろん行く気満々だった。
このイベントの手伝いに来て良かったなあ、と私はうれしくなっていた。
無事にイベントは終わり、屋上に行く人たちで連れ立って校舎の方に歩いていった。
知り合いはいないけれど、みんなナイトウォークを終えて少し疲れていたり、まだまだ元気で興奮していたり、夜の学校という普段入ることができない場所に入れることを楽しんでいたり。みんな少し浮わついて、ざわざわした明るい空気が漂っていた。
校舎に入る際、イベント関係の人は来客用玄関で外履きからスリッパに履き替えていたけれど、私は上履きだな、と思い生徒玄関の方へ行く。
生徒玄関の明かりはまだついていたので、人気がなくても怖くない。
自分の靴箱のところへ行こうとしたところで、にぎやかな声が聞こえてきた。
え、こんな夜なのに、誰かいる?
「おい、今日祭りやっとるらしいで。なんか食って帰ろうや」
「こんな遅くなって品物残ってんのかなー」
……この声。
私が二年生の靴箱の方を見ると、あの二人がいた。
カナくんとユウくんだ。
「二人とも、こんな遅くまで練習してたん?」
「「うわー!」」
私が声をかけると、驚いた二人が大声を上げ、その声に驚いて私もうわ、と声が出た。
「びびったー! 幽霊かと思った! 彩さんか!」
「いやこれほんまに彩さんか? 幽霊ちゃうんか?」
「え! ということは彩さんいつの間に死んだんや⁉」
いきなり二人の中で死んだことにされそうになった私は慌てた。
「ちょっと待って、普通に生きてるから! ほら、足もあるし。生きてる生きてる!」
「足……あるけど……いや、彩さんの足はもっと太くなかったか? こんな棒っきれみたいに細っこいん、偽物ちゃうんか!」
まじまじと私の足を見てそんな風に言うユウくんをにらみつける。なんて失礼な!
「こんな時間までなにしとん。女子供は家で寝とる時間やろ」
「カナ、それは差別ってやつやで。やばいやつに聞かれとったら即SNSとかで袋叩きにされるやつ」
「知るか! そんなもん見とるほど俺は暇ちゃうんじゃ! SNSやる暇あるんやったらゲームする!」
本当に騒がしい二人だ。私は無理矢理二人の会話に割り込んだ。
「今日イベントあったん知らん? 地元のナイトウォークに学校の敷地貸しとってん。さっき終わって、これから屋上でお祭りの花火見れるらしいから、それ見に行くところやってん」
「屋上?」
「そう。二人は今まで練習してたん?」
「ちょっと居残りしとったら盛り上がってな。でもこれで新技完成したから満足や! 今度の練習試合で披露したるねん! あー楽しみや」
カナくんが自慢げに胸を張る。
新技ね。相変わらずだなあ、この二人。こうやって二人で切磋琢磨してるんだなあ。
「彩さん一人で屋上行く気なん?」
ユウくんに聞かれる。
「一人っていうか、他にもイベントに参加しとった人らもおるよ。一緒におったクラスの友達は用事があって帰ってもたから、私は一人で見に行こうかなって」
「彩さん一人やったら屋上から落っこちるんちゃうん」
「そこまでどんくさくないし! 屋上、フェンスあるやん。わざわざフェンスよじ登って落っこちようとなんてしませんから」
私は自分の靴箱のところに行って上履きに履き替えた。
そのまま校舎に入っていこうとしたところで、二人がついてきていることに気付く。
私は背後の二人を振り返って首をかしげた。
「……どうしたん?」
「ま、俺らも花火見ようかと思って」
「屋上から花火見下ろすとかめったにできんからな! こら見とかなあかんやろ!」
二人も花火を見たいってこと?
まあ、それはそうか。こんな機会、そうそうないもんね。混んでない場所で花火を見れるなんてかなりラッキーだもの、そりゃ見てみたいよね。
私も一人より知り合いが一緒にいる方が楽しそうだし、いいか、とうなずいた。
それに、夜の学校の中を屋上まで歩いていくのって……ちょっとだけ不安な気持ちもあったから、こんなに騒がしくて大きい二人が一緒なら安心かも、とも思った。




