ウォークラリーのため息・3
ウォークラリーのゴールには、複数のテントが設置されていた。
本部や救護、ゴールした生徒が休憩するものも含めて多数。
俺は彩さんを救護テントに運んで先生に任せた後、すぐに本部のテントに向かった。
本部ではハンド部の部長の瀬戸さんが名簿を見ながらゴールした人数のチェックや、まだチェックポイントにたどり着いていない生徒がいないかなど忙しく報告を受けながら働いているようだった。
俺はまっすぐに部長の元へ向かう。
俺に気付いた部長が顔を上げた。
「部長、ちょっと顔貸してほしいんすけど」
俺が挑みかかるように言うが、部長は驚いた様子すら見せなかった。
周りの人間に、ちょっと出てくる、と言ってすぐに俺のところへやってきた。
俺たちは人気のないテントの後ろに回った。
「悠太、すまんけど今ちょっと立てこんどるからそんなに時間取れへんけど」
「部長、あんた彩さんがどうなっとるんか知ってるんすか?」
部長の言葉にかぶせるように俺は言った。今は部長の言葉を一つ一つ聞いているような場合じゃない。
俺の言葉を聞いて、部長は眉根を寄せた。
「……チェックポイントにおった女子が気分悪くなって救護テントに運ばれた、いう話は聞いとるけど……彩やったんか」
「あんた、なにやってるんすか? 彩さんはぶっ倒れて、俺がここまで運んだんですよ」
部長は表情を変えなかったけれど、瞳が揺れているのが分かった。部長が動揺する姿はあまり見たことがなかったけれど……
「……そうか、悠太、ありがとう」
「なにのんきに礼なんか言ってるんすか⁉ あんたは彩さんが大変な時に、のうのうとここで仕事しとったんですよね? なにしてるねん!」
腹が立って仕方がない。いや、俺が言いたいのはこんなことじゃない。部長は彩さんの状況を知らなかった。だからこれはどうしようもないことだ。俺が言いたいのはそんなことじゃなくて。
黙っている部長に対してむかむかした感情が湧き上がってきて抑えることができない。
「あんた、あの人がなんであんなに無理しとるんか考えたことないんか? あんたのせいやと一度も思わんかったんか?」
……そうだ、あの人は、どうしてあんなに必死で自分の仕事をやらなければ、と思い込んでいる? 自分ができなくても仕方がないようなことでも、どうにかしてやろうと無茶をして、できなければ落ち込む。どうしてそこまでしなきゃいけない?
「あんたがあの人に無理させとる。あんたがなんでもかんでもできて当たり前やから、あの人は自分もやらなあかんのやと自分を追い詰めとる。あんたはあの人を不幸にしとるんちゃうんか?」
あんなに彩さんは部長が好きなのに。それなのに、部長にふさわしい自分になろうとして無理をしている。そんな状況で幸せになんてなれるはずがない。
「……ふざけんなよ。あんたが今のままあの人をほっといて、あの人が笑えんくなったら……そしたら俺はあんたを許さへん。絶対に」
俺の声がでかすぎたのだろうか、テントの後ろに生徒が集まってきた。その中にはハンド部のやつらもいて、俺に何しとるねん、と声をかけてきた。
「悠太、お前なに考えとんねん。部長にたてつくとか……どうなっても知らんで」
俺の腕を引き、耳打ちしてくるやつらの手を振り払った。
「知るか。退部にしたかったらしたらええ。そんなんにびびってなんも言えんのとかごめんや」
俺は部長をにらみつけたが、部長はあくまでも静かな表情で俺を見ていた。
正直に言えば、俺は部長が怖い。めちゃくちゃ怖い。何を考えているか分からないし、俺が何を言おうと、言葉の中の矛盾点や間違いを見つけ出して指摘して正論でねじ伏せられてしまう。向こうが絶対的に正しいのだと突き付けられてしまう。
だからと言ってあの人が不幸になるのをただ黙って見てられるか。
俺が間違ってたら何だって言うんだ。間違いなんて誰だってするだろう。部長だって生まれてから今まで一度も間違ったことがないなんてことはないはずだ。たとえ今は間違うことがないのだとしても。
でも、今の俺が間違ってるとは思わない。
部長が何も言わないので、俺は舌打ちしてその場を後にした。
イライラは消えていかない。
こんな風に苛ついてるのもきっと腹が減っているせいだ。
でも何も食いたくなかった。




